#17 コラボ後と、次のコラボ前

「ん、んん……ハッ!」

「あ、起きた? お姉ちゃん」


 お姉ちゃんが意識を落としてから約一時間経過した頃、ようやくお姉ちゃんが目を覚ましました。


「あれ? ここは……というか、なんか頭に柔らかい物が……ってぇ!? こ、こここ、これはひ、膝枕ぁ!?」


 目を覚ましたお姉ちゃんは、僕に膝枕をされていると言う状況にかなり驚いた。


「うん。えっと、嫌、だったかな……?」

「そんなことありません最高ですありがとうございます!」

「そ、そっか。それならよかったよ。それなら、もうちょっとこうしてる?」

「え、いいの!?」

「う、うん。この体になってから、足が痺れにくくなった気がするし、それにお姉ちゃんなら全然いいよ~」


 にこっと微笑みながらそう言うと、お姉ちゃんはにへらと相好を崩して、遠慮なくと言ってから膝枕をされ続けた。


「あぁ~~~、椎菜ちゃんの膝枕最高~~~~……」

「そ、そうかな?」

「うん~……なんかもう、このまま寝たい……」

「さ、さすがにそれは僕が眠れなくなっちゃうからやめてね……?」

「わかってるよ~……あぁ、この柔らかい椎菜ちゃんの太股……安眠できそう……」

「あ、あはは……お姉ちゃん、あの、そんなに一緒がいいなら……今日は一緒に寝る……?」

「え、いいの!?」


 僕が一緒に寝るか訊いてみると、お姉ちゃんがガバッ! と起き上がり、僕はびっくりして体をのけぞらせた。


「ふわぁ!?」

「ほ、本当にいいの!? 暑いよ? 今暑いけどいいの!?」

「う、うん。その、ひ、久しぶりにお姉ちゃんと一緒にいたいなぁ、って……あの、い、いや、かな?」

「よし寝よう! 今すぐに!」

「ふえ!? さ、先にお風呂に入らせて!?」


 さすがにまだ今日お風呂に入ってないから、汗臭いから!


「ふむ、つまりお風呂入ってからするということか……!」

「んと、するって何を?」


 する、という部分の意味がわからなくて、こてんと小首を傾げると、お姉ちゃんの顔がちょっと引き攣った。


「……え、ちょっと待って? 椎菜ちゃんもしかして、結構無知……?」

「無知? んーっと……ご、ごめんね? よくわからないです……」

「そ、そっかぁ……うーわぁ、椎菜ちゃんかなり疎いんだ……それなら、今後も知らなくていいか」

「お姉ちゃん?」

「あ、んーん、なんでもない。じゃ、お風呂に入って来なー。あ、それともお風呂も一緒に入る?」

「それはやめてほしいかな!?」


 そこまでの勇気は僕にはないです!



 この後はお姉ちゃんと一緒のお布団に入って、ぐっすり眠りました。

 お姉ちゃん、僕を抱きしめながら寝てたけど、すっごくその、安心できたと言いますか……僕も僕でお姉ちゃんを抱きしめながら眠ったので、その……すごく、気持ちよかったです……。



 翌日。


「それじゃあ、お姉ちゃん。僕行ってくるね」

「気を付けるんだよー。悪い人にはついて行かないこと。まあ、私もこの後家に帰るけどね。今のうちに荷物をまとめちゃわないとだから」

「うん。あ、そう言えば今住んでいる家は残すんだよね?」

「そうだねぇ。今住んでるところって、何気に配信者御用達のマンション、って感じだから配信がしやすいの。だから今後は、私の配信用の家として活用しようかなって」


 僕がこの体になったことで心配したお父さんたちのおかげで、お姉ちゃんは一緒に住むことが許されたため、お姉ちゃんはこの土日を使って荷物をまとめて、この家に帰って来るそうです。


 その際、折角だからと今まで住んでいた家は解約しないで、今後は自分の配信用のお部屋として使うことに決めたそうです。


「あ、椎菜ちゃんも使う?」

「いいの?」

「もちろん。だって、お母さんたちに知られたくないでしょ? 幸い、学園からはそんなに遠いわけじゃないし、なんだったら私が迎えに行くからねー」

「うわぁ、すっごく助かるよ~。とりあえずは、お父さんがたちが家に帰って来てから使わせてもらうね」


 正直な所、お父さんたちが年内に帰って来ることがわかった以上、お家で配信をするのはちょっときついからね……だって、『おにぃたま、おねぇたま』って言うんだよ? お姉ちゃんの前ならまだしも、お父さんたちの前で言うのはちょっと……。


「おっけー。じゃ、みたまちゃんの部屋もある程度作っておくね」

「うんっ! ありがとうっ! お姉ちゃん大好き!」

「ぐはっ……」

「お、お姉ちゃん!? なんで吐血するの!?」

「だ、大好きって、い、言われたら、ね……お姉ちゃん、血を吐いちゃうんだ……ごふっ」

「ふえぇ!? じゃ、じゃあ、言わない方がいい……?」

「これはいい意味での吐血だから大丈夫」

「そ、そうなの? じゃ、じゃあ気にしないけど……」


 いい意味での吐血がよくわからないけど……。


「うんうん! じゃ、お姉ちゃんもそろそろ行くから、気を付けて、そして楽しんできてね! ……あ、間違っても恋人関係なんてことにはならないでね……?」

「だ、大丈夫だよ~。さすがに本気で僕と恋人になりたい、なんて人はいないと思うからね~」

「……少なくとも、三期生は狙ってそうだけど……まいっか。じゃ、また後日ね!」

「うん! お姉ちゃんも気を付けてっ!」

「はいはーい」


 お姉ちゃんは最後に僕を軽く抱きしめると、うっきうきで去っていきました。


「……ふぅ、よし。僕も行こう」


 今日は三人とのオフコラボ……頑張らないとね。



 というわけで、日傘を差しつつ、目的地である美月駅へ向かう。


「うぅ、やっぱり暑い……」


 駅までは徒歩で大体十分ちょっとなんだけど、この体だと歩幅が小さくなっている関係上、十五分以上はかかってしまう。

 さらに言えば、地面はアスファルトで舗装されているの、夏場や今みたいな残暑がまだまだ続く日は地面が熱を吸収して、それらが地上へと放出されるため、とても暑い……。


 上からは太陽光、下からはアスファルトの熱。

 小さい体は大変です……。


「うぅん、コンビニで飲み物を買って行こう……それに、早く行かないと腐らせちゃうかもしれないしね……」


 手荷物を見ながら、ふふ、と小さく笑った僕は、一度近くのコンビニで飲み物を購入。

 その際、僕だけじゃなくて、はつきさんたちの飲み物も購入して行く。

 せっかくだからね。

 一応、飲み物も持ってきてはあるけど、これは後でということで……。


 そうして途中で飲み物を購入しつつ、駅前に到着。

 きょろきょろと見回しても、はつきさん――寧々お姉ちゃんはまだいない。


 そう言えば僕、いるかさんとふゆりさんの特徴、知らないんだけど……ど、どこにいるんだろう?

 とりあえず、日陰になっているベンチに座って待ちつつ、ディスコードのグループチャットを見てみる。


『あの、着きました。みなさんはどうですか……?』

『ありゃ、もう着いちゃったのか! ごめんあたしはもう少しかかりそう』

『私も向かっていますよぉ~』

『ん、今、美月駅に着いた、目印を教えてほしい』

『んっと、東口の方で、駅前に一本の木をぐるっと囲ったベンチがあって、そこに座っている黒髪ロングの女の子が僕です』

『了解だぞ! じゃあ、すぐ向かうぞ!』

『く、黒髪ロング!? ぜ、是非とも拝まなければいけませんねぇ~! さらには、こんなに暑い中、みたまちゃんを待たせるわけにはいきません~~~! は、早く、電車早く進んで下さいぃ~~!』


「あ、あはは……」


 ふゆりさんのいつものテンションに、僕は苦笑いを零す。

 元男だとわかってもこうして前と同じ感じで接してくれるのは、本当に嬉しい……。


「はふぅ……暑いなぁ……」


 手でひさしを作りながら、空を見上げると、葉っぱの隙間から零れる光に思わず目を細める。

 八月が終わっても、未だに熱いこの時期は、本当に辛い物です……。

 はぁ、早く涼しくならないかなぁ。


「ねぇ、少し、いい?」

「ふえ? わっ……」


 突然前から声をかけられて見上げると、そこには背の高いすごく綺麗な人が立っていました。

 黒髪でポニーテールをした、長身の美人さん。

 全体的に手足が長くて、思わず見惚れちゃうくらいの……。


「ん、どうしたの?」

「あ、い、いえ。その、き、綺麗な人だなぁって……あの、な、なんでしょうか?」

「ふふ、綺麗って言われるの、嬉しいね。……んんっ。間違っていたら申し訳ないけど、君が神薙みたまで合ってる?」

「え? あ、は、はい、あの、そ、そうですけど……あっ、もしかしてその声は……!」


 突然、神薙みたまであることを言い当てられて困惑する僕だったけど、目の前の美人さんの声が聞き覚えのあるものだとわかり、そしてその声の持ち主を思い出した。


 この人って――


「ん、私は深海いるか。本名は、月見里藍華やまなしあいか。よろしくね」


 予想通り、いるかさんでした。


「は、はいっ。えと、さ、桜木椎菜ですっ! よろしくお願いしますっ! 藍華お姉ちゃん!」

「んぶふっ……」


 僕が藍華お姉ちゃんって呼ぶと、突然胸を抑えて噴き出してしまいました。

 ど、どうしたちゃったの!?


「ふえ!? ど、どうしたんですか?」

「ご、ごめん、不意打ちでお姉ちゃん呼びされたからつい……」

「あっ、ご、ごめんなさい……んと、はつきさんはこう呼んでほしいって言っていたので……それに、みなさん僕よりも年上ですから……あの、い、嫌、でしたか……?」

「嫌じゃない。むしろそれがいい」

「ほ、本当ですか?」

「うん、気にしないでいい」

「わ、わかりました。じゃ、じゃあ、改めてよろしくお願いします、藍華お姉ちゃんっ」

「あー、リアルでもこれは尊い……」

「ふえ?」


 何かを呟いたけど、よく聞き取れなくてこてんと首を傾げた。

 何を言ったんだろう?


「あっ、いたいた! おーい! 椎菜ちゃーん!」

「ふえ? あ、寧々お姉ちゃん!」


 突然声が聞こえて来てそちらの方を向くと、そこにはたたたっ、と軽やかな足取りでこちらに向かって来る寧々お姉ちゃんの姿があって、僕はちょっと嬉しくなって小さく手を振る。


「いやぁ、ごめんねー、待っちゃったかな?」

「大丈夫です!」

「そっかそっか! よかったぞ! 藍華さんもお待たせ!」

「ん、大丈夫。あと、前も言ったけど、呼び捨てで構わない」


 二人はお互いに笑うと握手を交わした。


「おっと、そうだったね! じゃあ、改めてお待たせ、藍華!」

「ん、良し。あ、椎菜もため口でいいから」

「あ、え、えっと、ぼ、僕はその、年上の人たちにはいつも敬語なので……」


 個人的に、年上の人相手にため口ってあんまり好きじゃないと言うか、気分的に、ね……?


「申し出は嬉しいので、あの……ありがとうございます……」

「ん、そういうことなら、気にしなくていい」

「じゃあ、あとはふゆりんだけかな?」

「もう駅に着いたって来た。多分、もう来ると思う」


 と、藍華お姉ちゃんがそう言った時でした。


「す、すみませぇ~~~ん! お、遅れましたぁ~~~!」


 すごく聞き覚えのある、甘くて大人な感じの声が聞こえて来て、そちらに視線を向けると、そこにはふんわりとウェーブがかかった薄桃色の髪と、おっとりした印象を受ける柔らかい雰囲気でスタイルがすごい大人なお姉さんがいました。


 …………あれ? あの人、どこかで見たことがあるような……。


「はぁ、ふぅ……えーっと、寧々さんと藍華さんは反省会コラボ以来ですねぇ~。それで、そちらの可愛らしい女の子はぁ~……」

「か、神薙みたまの、あの、さ、桜木椎菜、です……」

「っ! あ、あなたが、みたまちゃんなんですねぇ~……?」

「は、はいっ」

「よかったですぅ~。え~っと、雪ふゆりをさせてもらっていますぅ~、百合園千鶴ゆりぞのちづるですよぉ~、よろしくお願いしますねぇ~」


 ふんわりとした笑顔と共に自己紹介をするふゆりさん。

 わぁ、本当に綺麗な人……。


「は、はいっ、あの、その……よ、よろしくお願いしますっ、千鶴お姉ちゃんっ!」


 笑顔と共にそう言うと、千鶴お姉ちゃんの表情が固まり、ぷるぷると震えだし……


「――ふわぁぁぁぁ~~~~~~っ!」

「ひやぁ!?」


 突然僕に抱き着いて来ました。

 うわわっ、む、胸っ、胸がっ……!


「か、可愛いぃ~~~っ! 可愛いですよぉ~~~~! こ、こんなに可愛らしいお姿をしていたんですねぇ~~~~!」

「んむぅっ!? んん~~~!」


 突然大きな胸に顔全体を包まれて、息が出来なくなってしまった。

 ただ、すっごく甘くていい匂いが……。


「あっ、千鶴さん落ち着いて! 椎菜ちゃんがもがいてるから!」

「ハッ! す、すみません、ついぃ~……」

「ぷはっ! はぁ、はぁ……ふぅ……び、びっくりしたぁ……」

「ご、ごめんなさいねぇ~? その、椎菜ちゃんがとっても可愛らしかった物ですからぁ~~~」

「あ、い、いえ、あ、あの、その……だ、大丈夫、でしゅ……」


 突然綺麗なお姉さんに抱きしめられた挙句、大きな胸が押しあてられたことで顔を真っ赤にした僕は、しどろもどろになる。


「「「ごふっ……!」」」

「ふぇ?」

「……え、待って? 椎菜ちゃん可愛すぎじゃない?」

「……ん、あれはずるい……」

「……絶対に可愛らしいと思っていましたけどぉ~……あれは、神様が直接手を出したと言われても不思議じゃないですよねぇ~……」

「あ、あの、ど、どうかした、んですか……?」


 突然三人で何かをお話を始めてしまった三人に、僕は心配そうにしながら声をかける。


「あ、な、何でもないぞ! と、とりあえず、行こっか!」

「ん、暑いから早く行った方がいい」

「そうですねぇ~。行きましょうかぁ~」

「あ、は、はい……っと、その前に、あの、みなさんこれをどうぞ」


 僕はクーラーバッグ(大きいの)の中からお茶を人数分取り出すと、それを手渡した。


「お茶? どうしたの?」

「はい、外は暑いですし、飲み物があった方がいいかなぁって思って、みなさんの分を買っておいたんです。あ、いらなかったら言ってくださいね! その時は僕が飲みますので」

「「「え、いい娘すぎ……」」」

「ふえ?」

「ありがとうっ、椎菜ちゃん! ありがたくいただきます!」

「ん、助かる。特にその優しさが」

「あぁ~~~、本当に性格も笑顔も素晴らしいですねぇ~……これぞまさに、運命……」

「???」


 すっごく喜ばれているけど……うん、それならいいかな?

 千鶴お姉ちゃんはよくわからないことを言っているような気がするけど……。



 全員揃ったところで電車に乗って事務所へ向かう。


 その道中。


「……あっ! 思い出しましたっ!」


 ふと、ずっと思い出せずにいたことを思い出した。


「ん、何を思い出したの? 椎菜」

「あ、え、えっと、どこかで千鶴お姉ちゃんを見たことがあったなぁって思ったんですけど……去年、そう言えば声をかけられたなぁって」

「あらぁ~、そうなんですかぁ~?」

「は、はい」

「へぇ~、どんな感じだったの?」


 僕のお話に興味津々な様子で寧々お姉ちゃんが反応してお話の続きを促す。


「ん、んっとたしか……『あらぁ~? そこの可愛らしいお嬢さん、よければ一緒にお茶しませんかぁ~?』だった気がしますっ」

「「え、それナンパ……」」


 まあ、うん、ナンパだよね……。

 僕もまさかナンパされるとは思っていなかったけど……。


「……あぁ~! もしかして、あの時の男の娘ですかぁ~!?」

「そ、そうですそうですっ! さっき、どこかで見たことがあるなぁ、って思って、やっと思い出しました!」

「あらあらぁ~、すごい偶然ですねぇ~。まさか、あの時声をかけた男の娘が、同じ事務所でライバーをしているなんてぇ~」

「そ、そうですね……あ、あの、あの時はその、断っちゃってごめんなさい」

「いえいえぇ~、私もあの時は突然声をかけてしまってとても悪かったと思いますのでぇ~。だから、気にしなくてもいいですよぉ~。むしろ、こちらの方が悪いですからねぇ~、すみませんでしたぁ~」

「そ、そうですか……んっと、あの、き、気にしないでください……」


 正直な所、すっごく申し訳ない気持ちがあったからよかったです……。


(むしろ、結構アウトなことをしている気がするぞ)

(捕まってないからセーフと言う事にする)


「あれ? でも、千鶴さんはロリコンなんだよね? 椎菜ちゃんに声をかけたの?」

「ん、そう言えばそう。ショタコンでもあるの?」

「いえ、私は女の子一筋ですよぉ~。ただ、あまりにも可愛らしい女の子だと思ってしまいましてぇ~、人生で初めて、ついナンパをぉ~……」


 うふふ、と少し恥ずかしそうに笑う千鶴お姉ちゃん。

 あー、やっぱり女の子って思われてたんだね……。


「そんなに可愛かったんだ……ねね、椎菜ちゃん。よければその時の写真、見せてもらってもいいかな!」

「ふえ!?」

「ん、確かに私も気になる。というか、千鶴だけ知っているのは不公平」

「うふふぅ~」

「あ、え、えっと……あの、笑いません……?」

「「笑わない」」

「じゃ、じゃあ、えと……」


 僕はスマホを取り出すと、昔柊君と撮った写真を表示させて、二人に見せる。


「あの、こ、これが僕、です……」

「「……え、これ、女の子じゃないの?」」


 開口一番に言われたのは、何度も言われてきた言葉でした……。


「お、男です……」

「あ、あー、なるほどー……たしかにこれは、声をかけちゃうかも……」

「……ん、ちなみに、同性からナンパされたことは?」

「……………何度か」

「「「あー……」」」


 藍華お姉ちゃんからの質問に、儚い笑みを浮かべながら答えると、三人はなんて言ったらいいのかわからない、そんな表情を浮かべていました。


 実際に、僕は本当に同性からナンパされたことがあり、される度に男だと説明してなんとか抜け出したり、場合によってはたまたま近くにいた柊君が追い払ってくれたりと、本当に色々ありました……。


「だ、だから、あの、女の子と勘違いされていたとはいえ、千鶴お姉ちゃんにナンパされたのは正直ちょっと嬉しかったです……」

「あらあらぁ~、そうなんですねぇ~。うふふ、それなら本当に今度一緒にお茶でも行きますかぁ~?」

「むっ! 千鶴さん抜け駆けはダメだぞ!」

「油断も隙もない。ダメ」

「あらぁ~、残念ですねぇ~」


 うふふ、とどこか楽しそうに笑う千鶴お姉ちゃん。

 あと、なんで抜け駆けになるんだろう?

 よ、よくわからない……。


「あ、あの、お茶、じゃないですけど、あの、よ、四人で一緒にお出かけとかできたら、いいかなぁ、って思います……え、えへへ」


 個人的に、上手くやっていけそうな気がして、ついついそんな言葉がするりと口から出て来た。

 それに、寧々お姉ちゃんたちとお出かけは楽しそうだし。


「絶対行こうね!」

「ん、必ず行こう」

「どのような困難があろうとも、絶対に行きましょうねぇ~」

「は、はいっ! 絶対行きましょうねっ!」


 よかったぁ、受け入れてもらえたよぉ……。


 ……あれ? でも僕、元男だけど、いいのかな?



 道中談笑しながら歩くと、あっという間に事務所に到着。

 中に入って三期生であることを告げると、コラボ配信用のお部屋に通されました。


「へぇ~、ここは結構広いんだねぇ~」

「ん、リラックスできそう」

「そうですねぇ~」

「な、なんだか緊張します……」


 三人は感心したような反応を見せているけど、僕の場合は単純にこういうちゃんとした場所で配信するのは二回目だし、何より初めて会う三人とのコラボ配信だから、すっごく緊張しています。

 うぅ、ぜ、絶対に失敗しないようにしないと……昨日か、すごかったからね……。


「そう言えば、椎菜のその荷物、何?」

「あ、そういえば! ねね、結構おっきい荷物だけどどうしたの?」

「えっと、あの、お昼を跨ぐなぁって思って、それで、その、お節介かもしれないんですけど、お弁当を……」

「「「え、手作り(ですかぁ~)!?」」」

「は、はい、手作りです、けど……」

「ほんとほんと!? あたし、椎菜ちゃんの料理、食べてみたかったんだ!」

「私も。反省会コラボの時からずっと気になってた」

「か、可愛らしい女の子のお弁当~~~! ぜ、絶対食べますよぉ~!」

「よ、よかったです……えと、あの、そう言えばここってご飯とか食べて大丈夫なんでしょうか……?」


 ふと、こういう場所で食べたり飲んだりしていいのか気になって呟くと、寧々お姉ちゃんが反応した。


「大丈夫だぞ! 前の反省会コラボの時に、軽食を摂ってたから!」

「あ、よかったです。じゃあ、あとで食べましょうねっ!」

「ん、それならいっそ、配信中に食べる?」

「あ、それいいと思うぞ!」

「そうですねぇ~」

「ふえ!? そ、それいいんですか!?」


 というか、なんで配信中!?


 配信中にする必要あるの!?


「いえ、実は椎菜ちゃん……いえ、みたまちゃんは料理上手なのではないか、という話題がありましてぇ~」

「そうなんですか?」

「そうだぞ。いつか料理配信をしてほしい! っていう要望もあったから、考えてみるといいかもしれないぞ!」

「な、なるほど……」


 そんな風に思われてたんだ、僕。

 うーん、でも料理配信かぁ……うん、いいかもしれないねっ。


「いつかやってみますっ!」

「うふふぅ~、その時は味見役で呼んでもらえると嬉しいですねぇ~」

「あ、あたしも!」

「私も是非」

「うんっ! その時は呼びますねっ!」


 僕がそう言うと、三人はとても嬉しそうな顔をしました。

 今まで、僕の料理をいろんな人に食べてもらう、なんてことはなかったから、すごく嬉しいなぁ。


「じゃあ、これは配信中に食べましょうか」

「うん! じゃあ、早速準備しよー!」

「「「おー!」」」


 寧々お姉ちゃんの掛け声にみんなでそう返しながら、僕たちは和気藹々と準備を勧めました。


 なんだろう、この感じ……すっごくいいね。


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 区切ろうと思った場所で区切ると、次が非常に短くなるために、一本丸々になっちまいました。

 そして、あのカオスなコラボ配信の後なのに、次回、配信回です。早いね!

 例によって、今日も掲示板を挟みます。あ、閑話も投稿予定なので、15時と18時にそれぞれ出しますね!

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