#13 プールの後と、まさかの遭遇

 今回も掲示板回を突っ込むんですが、ちょっと#12についたとあるコメントを見て、お、やってみるか、と思ったことがあり、今日は3話投稿になります。

 15時に、男時代の椎菜の話を投稿し、18時に掲示板回を投稿します。

 男時代の話は、まあ、椎菜君の時のプールの話しですね。思い付きですが。

 ただ、視点は椎菜ではなく、親友の柊になっているので、ご了承ください。


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 あの後は麗奈ちゃんや、麗奈ちゃんのお友達と一緒に遊んだり、なぜか抱っこされたり、撫でられたり、色々されながらも、楽しい時間を過ごしました。


 最初は嫌だと思っていた水泳だったけど、みんな受け入れてくれたおかげで気持ちが楽になりました。

 ……ただ、やっぱり元男としては、すっごく目のやり場に困っちゃったけどね……。


 公衆浴場とかにも行きたいんだけど、しばらくは無理かなぁ……気分的に。


 なんてことを思いつつも、水泳の授業が終わり、麗奈ちゃんと一緒に教室に戻ると、クラス内には既に男子のみんなが戻ってきていました。


 あ、すごくボディーシートの匂いが……。


 あれだよね、多分男子高校生あるあるだと思うんだけど、運動部の人たちが暑い日とかに体育から戻って来ると絶対にボディーシートを使っていて、その人たちよりも後に帰って来ると、教室の中がボディーシートの匂いになるんだよね。

 結構匂いが強いよね、ああいうのって。


「お、戻って来たか、椎菜。どうだったよ」

「意外と受け入れられました……」

「だろうなぁ。ま、いいんじゃないか? その方が。受け入れられないよりかはいいだろ」

「そうだね……ただやっぱり、心はまだ男だから、すっごく申し訳ない気持ちもあるけどね……」

「あー……まあ、中身男なのに、プールの方はともかくとして、更衣室の方はそりゃなぁ……」

「うん……授業中、男子の方に参加しちゃだめか訊いたら、先生だけじゃなくて、他の女の子にも阻止されました。食い気味に」

「だろうな」


 苦笑交じりに肯定されました。

 柊君的にも、そうなることは想定内だったようです。

 柊君、今の僕がどんな風に見えているのか、一度問いただしたくなるよ。


「ま、慣れるしかないわな、そこは」

「うん……」

「まあ、お前は元々女子人気はあったしなぁ」

「え、そうなの!?」


 知らなかった情報が突然飛び出してきて、思わずぎょっとする。


「あぁ。といっても恋愛的というより……こう、可愛がりたい的な人気だがな」

「あ、あー……そっちなんだね……」

「なんだ、モテたかったのか?」

「うーん、別にモテたい、とかはないんだけど……けど、そうだったら嬉しいでしょ? けど、それが可愛がりの方面だとちょっと……」

「男としては複雑だろうな」

「あはは……」


 なんだろう、本当に釈然としない……。

 もしかして僕、生まれて来る性別を間違えたのかなぁ……。


「あ、そういや近くの公園に美味いアイスクリームの屋台が出てるらしいぞ。行くか?」

「うん、いいねっ。行こ行こ!」

「決まりだな」


 暑い日はアイスが食べたくなるからね。



 HRを終えて、柊君と帰宅。


 麗奈ちゃんも一緒に帰る! って言いだしたんだけど、部活動があったみたいで、三年生の人に引きずられるように連れていかれるのを、二人で苦笑いしながら見送り、目的の公園へ。


「おー、おじさんこのアイス美味しいね!」

「お、わかるかい?」

「うん! いやぁ、ふらっと立ち寄って正解だったよ! ありがとう!」

「いいってことよ」


 目的のアイス屋さんの所へ行くと、一人の女性が楽しそうに店主のおじさんとお話していました。


 あれ? あの声、どこかで聞いたことがあるような……?

 ふと、その女性の声を聴いていると、どこかひっかかりがあると言うか、どこかで聞いたような気がして、首を傾げる。


「どうした、椎菜?」

「あ、えと、あのお姉さん、聞き覚えのある声だなぁって思って」

「へぇ、そうなのか。案外知り合いかもな」

「うーん……そうかも。まあでも、気のせいかもしれないし、僕たちもアイス買お、アイス!」

「だな」

「お、いらっしゃい! 兄妹かい?」

「いや、同級生っす」

「おっと、そいつはすまないね。お嬢ちゃん、間違っちまって悪いね」


 おじさんは一瞬驚いた顔を見せたけど、すぐに快活な笑顔に戻ると、謝って来た。

 兄妹に見られちゃうよね、これ……。


「い、いえ、仕方ないですよ。それより、注文いいですか?」

「おう! 何でも言ってくれ!」

「柊君は何にするの?」

「あー……俺はバニラとチョコのミックスで。椎菜は?」

「僕はレモンがいいな。おじさん、バニラとチョコのミックスと、レモンをお願いしますっ!」


 食べたい物を決めて、僕がおじさんに注文を告げる。


 やっぱり、暑い日はさっぱりしたアイスがいいよね。


「――!?」

「あいよ! すぐに作るんでちょいと待っててな! あ、そっちの嬢ちゃんは近くにベンチがあるから、そこで食うといいぞ。ちょうど今の時間帯は日陰になっているからな!」

「あ、ありがとう、おじさん! ……今の声ってもしかして……」

「~~~♪」

「おいおい、椎菜、鼻歌が出てるぞ」

「だって、美味しいって評判なんでしょ? 楽しみで出ちゃうよ~」

「そうか」


 楽しみな物があると、ついつい鼻歌が出てしまうのは、僕の昔からの癖です。

 悪い癖ではないから別にいいんだけどね。


「っと、悪い、椎菜。俺、ちょっとトイレ行って来る」

「あ、うん。わかったよっ! アイスは僕が持っておくから、安心して!」

「あぁ、悪いな。ちょっと行って来る」


 そう言って、柊君は公園内のお手洗いへ。


「おし、嬢ちゃん、アイスが出来たぞー。って、お? あのあんちゃんはどうした?」

「あ、お手洗いです。代わり僕が受け取るので」

「そうかそうか。んじゃ、合計で七百円だ」

「はい、丁度です」

「毎度! またよろしくな!」


 僕はアイスを二つ受け取ると、近くのベンチへ移動してそこに座る。

 ふぅ、暑いなぁ……。


「……や、やっぱりこの声は……あ、あの!」

「ふぇ!? あ、な、なんですか?」


 不意に、さっきのお姉さんに声をかけられて、思わずびっくりしてしまう。


 さっき、おじさんとお話してた人だけど……よく見ると、すごい美人さん……。

 セミロングの焦げ茶色の髪に可愛いと綺麗の丁度中間くらいの印象を受けるバランスのいい整った顔立ちに、すらっとした体躯。

 Tシャツとロングスカートというシンプルな服装だけど、ところどころにあるアクセサリーがなんだかお洒落な印象を与えて来る。


 な、なんだかモデルさんみたいだけど……やっぱり、どこかで聞いたような声……。


「その驚き方……もしかして……みたまちゃん?」

「……え!?」


 そして、女の人は突然僕の正体を言い当てて来て、僕は驚きの声を上げた。

 え、ど、どういうこと!? な、なんで突然!?


「あ、え、えと、あ、あのあの……わ、わた……じゃなくて、僕は神薙みたまじゃないです、よ……?」

「や、やっぱり……! うわぁ、まさか住みが近いなんて驚き! そっかそっか、この辺りに住んでたんだね。その制服を見るに……姫月学園かな? あたしもそこが母校でね!」


 驚く僕をよそに、女の人は楽しそうに笑いながら、そう話していく。

 え、え!? えぇ!?

 どういうことか全くわからず混乱していると……。


「あ、ごめんごめん。そうだよね、あの時は顔を合わせていないし、わからないよね。えーと、こほんっ! 対面では初めまして、かな? あたしは、琴石寧々こといしねね!」


 明るい笑顔とテンションと共に自己紹介をしてきました。


「あ、は、はい。えと、桜木椎菜、です……?」

「そっかそっか、椎菜ちゃんって言うんだね! なるほどねぇ……身長が低いって話してたけど、本当にちっちゃいんだ。うんうん、とっても可愛いと思うぞ!」

「ふえ!? か、可愛い……って、え? 思う、ぞ?」


 あれ、その語尾ってたしか……。

 ……え、も、もしかしてこの人って――!


「あ、最近あの口調で話してたからつい……今のでわかっちゃったかもしれないけど、あたしはらいばーほーむ三期生の、猫夜はつきだぞ! ――なんてね」


 えへへ、といたずらっぽく笑うお姉さんはなんと、はつきさんでした。


「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 そして、素っ頓狂な声が僕の口から飛び出しました。



「ごめんね、いきなり声かけちゃって。ちょっと怖かったよね」


 とりあえず、少しお話しようということになり、二人並んでベンチに座ると、開口一番に琴石さんが謝罪してきました。


「あ、い、いえ、そ、それは大丈夫です、けど……ほ、本当に……?」

「もっちろん! まさか、同じ街に住んでいたとはねぇ」

「そ、それは僕も驚きですけど……あの、よく僕が神薙みたまってわかりましたね……?」

「声かなぁ。みたまちゃんって、すっごく特徴的で可愛い声をしてるから、あ、みたまちゃんだ! ってなったの」

「な、なるほど……」


 僕の声って、そんなに特徴的なんだ……。

 でも、柊君も僕の声が神薙みたまと似てる! って言ってたし(実際には本人だけど)、すごくわかりやすい声なのかも。


「あ、そういえばさっきの男の子は彼氏さん?」

「ふぇ!? か、彼氏じゃないですよ!? あの人は、んと、小学生の頃からのお友達……というより、親友ですっ! 恋愛感情はないですよ!」

「そっかそっか。そう言えば、女の子が好き! って言ってたもんね?」

「あぅっ! き、聞いてたんですか……?」

「もっちろん! 多分、あたしだけじゃなくて、いるかちゃんやふゆりんも同じだと思うぞ! あ、また口調が」

「そ、そうなんですね……」


 そう言えば、三人とも配信中なのに僕の配信に来た時があったっけ……。

 ……今思えば、あれって大丈夫だったのかな?


「おーい、椎菜ー、どこだー?」


 二人でお話をしていると、どこからか柊君の声が聞こえて来た。


「おっと、もう帰って来ちゃったか。それじゃあ、あたしはそろそろお暇させてもらうね」

「あ、はい」

「ほんとはも~~っと! お話したかったんだけど……ほら、中身バレは色々と怖いからね。ごめんね?」


 可愛らしくウインクする琴石さんにちょっとだけ頬を熱くさせる。


「だ、大丈夫です。また今度お話しましょうっ!」

「あっ、これは……」

「あれ? どうしたんですか?」


 突然顔を赤くして、どこかぼーっとした様子の琴石さん。

 風邪かな?


「あ、う、ううん、なんでもないぞ! っと、それじゃあ、またね、椎菜ちゃん!」

「は、はい! えと……寧々お姉さん!」

「ほあっ!」


 今後も付き合っていく関係上、名前呼びの方がいいかなぁ、って思って名前呼びしてみたんだけど……なぜか、変な声を出されちゃいました。


「あ、あの、い、嫌でしたか……?」

「そ、そんなことはないぞ! あ、で、できればお姉さんじゃなくて、お姉ちゃん呼びだと嬉しいかな!」

「そ、そうですか? それじゃあ……寧々お姉ちゃん」

「ほあああ! こ、これは、死ねる……! あたし、ロリコンじゃないんだけどなぁ……」

「ふえ?」

「あ、う、ううん! それじゃあ、今度こそまたね! 椎菜ちゃん!」

「は、はい! またっ!」


 そう言って、寧々お姉ちゃんは去っていきました。


「お、ここにいたのか、椎菜」

「あ、うん。ごめんね? 探しちゃったよね」

「気にすんなって。……で、さっきの人、知り合いだったのか? なんか、話してたみたいだが」

「あ、う、うん。ちょっとね」


 さすがに僕自身のことならいいけど、寧々お姉ちゃんがはつきさんとはさすがに言えないからね。

 そこはちゃんと守ります。


「そっか。あ、そういやさ――」


 何かを察してか、柊君は特に言及することなく、話題転換をしてくれて、僕たちは美味しいアイスに舌鼓を打ちながら、なんてことないお話をしました。



 それからお家に帰り、配信の準備を進める。


 僕のチャンネルでは、基本的に雑談がメイン。

 あまりゲームが上手ではないし、歌も得意なのか得意じゃないのか自分ではよくわかっていないからね。

 なので、当たり障りのない雑談をメインにしている、というのもあります。


 でも、いずれはゲーム配信等も増やしていきたいなぁ、というのが今の気持ち。


「うーん、でも、普通の雑談だけだと飽きられちゃうかもしれないよねぇ……」


 成り行きでVtuberになっちゃったとはいえ、一度なってしまった以上、真面目にやらないといけない。

 そうなって来ると当然、飽きられちゃだめなわけだけど……でも、僕にできること、あるものって何だろう……。


 今まではごくごく普通に生きて来て、これと言って特筆すべき大きな出来事もなく、平凡に生きてきたわけで……正直な所、人を楽しませるとか、笑わせるとか、元気にするとか、それが出来るのか、という不安が当然のようにあるわけで……。


「うーん……今日はいつも通りに雑談をするとして……何がいいんだろう」


 話題……話題かぁ……今だからこその話題……夏休みの話題は前回やっちゃったから……やっぱり、二学期のお話とか?

 ましゅまろを返しつつ、適度に学校のお話をする! でいいのかも。

 それに、僕の配信って面白さというよりなんかこう……反応を見ていると、癒しの方面を求められているような気もするし。


 うん、とりあえず、また今度深く考えるとして、今日も普通にやっていこう!


 そう決めた僕は、いそいそと準備を終わらせにかかりました。

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