#12 体育の授業が始まり、やっぱり女子側な椎菜
翌日。
今日は家に帰ってから配信する予定だけど、当然学生なので日中は授業があります。
しかも、普通に今日は体育があるって言うね……。
ただ、この体になってから身体能力は上がったから、きっと大丈夫!
むしろ、楽しみかも!
なんて、そう思っていた体育でしたが……。
「……今日っ、水泳だったっ……!」
今日は水泳の授業でした。
僕が通う姫月学園の水泳授業は、基本的に九月末まで行われます。
昔はなかったみたいなんだけど、最近の九月は暑い日が続くため、授業を入れた、とのことらしいです。
そんな水泳授業は、ちゃんと男女別になっていて、交互に入れ替わる仕組みになっているんだけど……今日は女の子側の水泳の授業でした。
それで、僕なんだけど……心は男の子でも、体は女の子であるため当然……
「うぅっ……行きたくないよぉ……」
女の子側の授業に参加しないといけません……。
内心行きたくない、行きたくない、って思っていても、学園には行かなきゃいけないため、制服と一緒に受け取った水着をプールバッグに入れて、持って来ました。
だけど、いくら体は女の子になったとしても、心は男の子なので……その……女の子に申し訳なさが出てしまうと言いますか……。
「あー……椎菜、大丈夫か?」
「……だいじょうぶにみえる……?」
「見えない」
「うぅぅ~~! やだよぉ……絶対冷たい目で見られるよぉ~……僕、女の子だけど、女の子じゃないよぉ~……」
「その言い方、なんか哲学みたいだな」
「もぅ! 茶化さないでよっ、柊君っ!」
茶化してくる柊君に、ちょっぴり怒る。
「うっ、す、すまん…………(お前その怒り方は反則だろ……)」
あれ? 柊君の顔が赤い?
「柊君、どうしたの? 風邪? 赤いよ?」
「ん、あぁ、いや、気にしないでくれ。……ってか、椎菜なら大丈夫だとは思うがなぁ」
「大丈夫じゃないと思うけど……だって僕、元々男だよ? 今はこんな姿だけど……」
「そりゃそうだけどさ……なんというか、椎菜はあんまり男として見られてなかったからなぁ」
「……自分でも自覚しているだけに、すっごく胸に刺さる……」
ぐさり、と柊君の言葉のナイフが僕の心に突き刺さる。
自分でもちょっと女の子っぽいかなぁ……なんて、顔を見る度に少しだけ憂鬱な気分になっていたわけだしね……。
「あ、その唐揚げ一個くんね?」
「あ、うん、いいよ。はい、あーん」
話題転換とばかりに僕のお弁当に入ってる唐揚げを欲しがる柊君に、お箸で一つ掴むと、それを柊君の口元に持っていく。
「……椎菜、今までのノリでやってるんだろうけどさ……」
「ふぇ?」
「傍から見たらカップルだからな?」
「カップル? ……ふあぁ!?」
「おっと、もったいない」
柊君が言って来た言葉の意味が最初はわからなかったけど、すぐにその言葉の意味を理解して驚いてしまった。
その時に掴んでいた唐揚げが落っこちそうになっちゃったけど、それを上手く柊君がキャッチ。
「ん、美味い」
「ご、ごめんね」
「いやいいって。俺は元の椎菜との交流が深かったから、椎菜相手に恋愛感情を持つ! なんてことはないけどさ、あんまし椎菜と関りが深くない奴にはするんじゃないぞ? あと、俺にもしないでくれお願いします」
「え、どういうこと?」
「いいか? 椎菜。まず、今のお前は超が付くくらいの美少女だ」
「あ、う、うん、そう、なんだ?」
可愛いとは思うけど、美少女とはあんまり思ってないんだけど……。
「仮にお前が元男だったとしても、今はれっきとした美少女なわけだ」
「う、うん」
「そんな美少女と昼飯時、しかも教室であーんとかされてみろ。俺が殺される」
「物騒じゃないかなぁ!?」
そんなことで殺されるようなことになっちゃうの!? なんで!?
「いいか、男ってのは嫉妬で人を殺しかねないんだ……」
「柊君、過去に何があったの……」
やたらと遠い目をする柊君は、どこか哀愁が漂っていました。
「だから、今度からは普通にくれると助かる」
「うん、わかったよ。……はぁ、でもプールは嫌だなぁ……」
「だろうな。ま、大丈夫だって」
「そ、そうは言うけど……あぅぅ……」
大丈夫かなぁ……僕……。
◇
嫌だなぁ、嫌だなぁ、と思っている内に、体育の時間に……。
男子の授業は外でサッカーなので、柊君とはここで別れるんだけど……
「うぅ……」
「はいはい、椎菜ちゃんプールに行くよーーー」
「あ、あの、なんで抱きかかえられてるの? 僕……」
現在、僕は女の子の中ではよく話す方である、
その周りには、朝霧さんのお友達が二人いて、時たま僕の頭を撫でて来るのがなんだか気恥ずかしい……。
「だって、椎菜ちゃん、全然行こうとしないんだから」
「そうそう。授業はちゃんと参加しなきゃだよ、桜木さん」
「あぅぅ……で、でも僕、体は変わっちゃったけど、心は男だよ……? みんな、嫌じゃないの……?」
と、僕がそう尋ねると、三人は顔を見合わせると、
「「「全然」」」
と言ってきました。
「ど、どうして? だって、男だよ? 普通、嫌だと思うんだけど……」
「まあ、椎菜ちゃんの言う事ももっともだけど……そもそも椎菜ちゃん、椎菜君だった頃からあんまり男の子って感じがしなかったし」
「むしろ、男の娘だったからね」
「男の娘は好物です」
「なんかおかしくない!?」
絶対文字が違った気がするんだけど!
あと、三人目の人、涎が出てるんだけど……。
「いいのいいの! それに、今は女の子なんだもん。問題はなし! ってね」
「か、軽いね……」
「案外こんなもんだよ? というか……クラスの女子は多分、桜木さんと一緒に水泳の授業を受けるの楽しみにしてたみたいだし」
「なんでっ!?」
どういう気持ちなのそれ!?
「うーん、元々可愛かった男の娘が女の子になったわけだし、当然裸とか気になるじゃん?」
「ならないと思うよっ!? あと、廊下で何を言ってるの!?」
そう言う話題って、むしろ男の子がすると思うんだけど!
「あはは、気にしない気にしない。ほらほら、行くよ行くよ」
「あぅぅ~~~……」
結局抱きかかえられたまま、プールに連れていかれました……。
◇
更衣室に到着後、僕は極力着替え中の女の子を見ないようにしつつ、人が少ない角のロッカーへ。
さすがに朝霧さんたちも空気を読んでくれたようで、僕を一人にしてくれたのはありがたいです……。
周囲に誰もいないことを確認してから、もぞもぞと着替えを始める。
「はふぅ……うぅ、やっぱり包帯は蒸れちゃうなぁ……」
胸に巻いていた包帯を取ると、なんとも言えない解放感が。
まだまだ暑いから、正直な所結構蒸れる。
特に、包帯は隙間がないわけだからね……おかげで、ずっと密閉されているようなものだから、じっとりとしてきて、正直な所ちょっと気持ち悪い。
だけど、僕には下着売り場に行く勇気が無いので……。
うぅ、どうすればいいのかなぁ……。
「んっしょ、と……」
とはいえ、今はそれを考えるよりも、水泳の方に意識を向けないと……。
夏休み中に受け取った学園指定の水着を着る。
「んんっ……ぴっちりしてる……」
男の時はよくあるトランクスタイプの水着だったので問題はなかったんだけど、女の子の水着……とりわけスクール水着は体にフィットしているからか、ちょっと窮屈。
特に……
「うぅ、胸がキツイ……」
胸がきつかった。
包帯を巻いている時とは違う感覚に、ほんの少し微妙な気分になる。
慣れないといけないんだよね、これ……。
「はぁ……」
とりあえず、着替えも終わったし早く行かないと……。
◇
「「「……」」」
着替えを終えて更衣室を出ると、最後は僕だったようで、ぺたぺたという足音を立てながら集合場所へ。
すると、女の子たちからじっと見られる。
な、なんだろう?
「あ、あの……?」
「「「で、でかい……!」」」
「ふえぇ!? ど、どこ見てるのっ!?」
その視線は全て僕の胸に集まっていました……。
それが恥ずかしくって、僕は胸を隠すように、両腕で自分の体をかき抱く。
うぅ、やっぱりこの体にこの胸はアンバランスだよぉ……。
絶対変に見られてるよぉ……。
「あー、お前らちょっとは落ち着こうな。とりあえず、桜木。一番後ろ……は、身長的に見えないか……よし、前に来い、前に」
じっと見て来た女の子たちに対して、田崎先生が注意してくれたけど、僕は身長的な問題で前に行かされました。
……あ、見ての通り田崎先生は体育の先生です。
「は、はい」
前かぁ……なんだか嫌だなぁ……。
というか、ここに僕がいること自体絶対におかしいよ……うぅ、すごく罪悪感が……。
し、しばらくすれば慣れる……かな?
「よし。さて、まずは準備運動を、と言いたいところなんだが……あー、まず事前に言っておくぞ。知っての通り、今回から桜木がこっちの授業に参加するわけだが……お前ら、間違っても桜木に変なことはするんじゃないぞ」
「「「はーい!」」」
「桜木も、何かあったらすぐ私に言うように。いいな?」
「は、はいっ。ありがとうございます」
田崎先生、本当にいい先生だよぉ……。
僕のことを着にかけてくれてるのがわかって、すごく嬉しい。
でもその注意事項、普通僕の方に言う事じゃないのかなぁ……もちろん、する気はないけど……。
「んじゃ、準備運動するから、適当に広がれー」
「「「はーい」」」
とりあえずは何事もなく、授業は進みそうです……。
◇
「いっちにー、さんしー」
「「「ごーろく、しち、はち」」」
先生の後に続く形で体を動かしていく。
全体的に問題はなかったんだけど……一つだけ、問題がありました。
それは……ジャンプです。
どうしてジャンプに問題があるのか……それは至ってシンプルで……飛び跳ねる度に胸が揺れて痛いからです……。
だって、一回ジャンプする度に、ぽよんぽよんっ! なんて生易しい効果音じゃなくて、ばるんばるんっ、みたいな音がしそうなくらい揺れるんだもんっ!
おかげで、付け根が痛くて、その衝撃が肩の方にも来て痛いしで……あぅぅ、不便だよぉ……。
「えぇ、めっちゃ揺れてる~……」
「マジででかくない?」
「ロリ巨乳……よきよき……」
あと、すっごく見られてる気がするんだけど……。
僕、慣れることができるのかなぁ……。
なんて、色々と心配になりながらも、準備運動は終わり、これから簡単に体を水に慣らして、その後一学期の各々技量に合わせたコースに分かれて泳ぐんだけど……。
「あー、桜木。お前、足着くのか?」
「わ、わからないです」
「そうか……一度中に入ってくれるか? あぁ、安心しろ。私がすぐ傍にいるから」
「わ、わかりました。それじゃあ……」
軽く水を体にかけて慣れさせるんだけど……。
「ひゃっ!」
この体はどうやら体温が高いみたいで、プールの水が思った以上に冷たく、びっくりして小さな悲鳴が出てしまった。
うっ、恥ずかしい……。
「え、可愛くない?」
「あれで元男の娘なんだよね?」
「桜木君、可愛くなっちゃったんだなぁ……」
何か話してるような気がするけど……も、もしかして、元男の僕がここにいることを良く思ってなくて、それについてお話しているとか……?
うぅ、早く終わらないかなぁ……。
「大丈夫か?」
「は、はい、だ、大丈夫です……じゃ、じゃあ入りますね」
「あぁ、気を付けろよ」
脚からゆっくりと水に入り、ざぶん、と水に浸かる。
結果と言えば……
「……あー、これはビート板がいるな」
ギリギリ全身が水に浸かっちゃう位でした。
「よし、引き上げるから手を出せ」
こくりと頷いて、手を差し出すと、先生が手を掴むなり引き上げてくれた。
「はふぅ……ありがとうございます」
「いやいい。しかし、そうか、やはり深いか……桜木、どうする? さすがに命の危険も出るかもしれないんだが……」
たしかに、全身が水に浸かっちゃうのはかなり問題だよね……。
下手をすると窒息しちゃうかもしれないわけだけど……。
だって、これって小学生の子供が高校生のプールに入るようなものだもん。
うぅん……。
「先生、あの、僕女の子側の授業じゃなくて、男子側の授業に出るのは……」
「「「「絶対ダメ!」」」」
「ふやあぁぁ!?」
男子の授業に参加しちゃだめかどうか尋ねた瞬間、先生だけでなく、周囲にいた女の子からもバッサリ却下されました。
「いい? 椎菜ちゃん! 今の椎菜ちゃんは、それはもう可愛いの!」
「そうそう! しかも椎菜ちゃん、ちょっと無防備な所もあるし、元々男の娘だったから距離感も違うんだから!」
「そんな状態で男子の方に行ったら、ぱくって食べられちゃうよ!」
「た、食べっ……?」
「そうだな。今の桜木の体は紛れもない女子だ。正直、マラソンのような授業以外では女子の方に参加しないとまずいだろう。お前、高校生だぞ? 何が起こるかわからないんだからな?」
「え、えと……は、はい……」
すごい勢いで捲し立てられた僕は、最後に先生のお話に頷いた。
僕って、そんな風に見られてたんだね……。
◇
結局、泳ぐには泳ぐけど、危ないと思ったらすぐに誰かに言うようにするというのと、近くに誰か一人が僕の傍に付くように、ということでお話は進みました。
それと、今日は新学期と言う事もあって、記録を取るようなことはしないで、プール内で自由に遊んでいい、ということになりました。
正直、その方が嬉しい。
まずは慣れないといけないからね。
というわけで、極力人が密集していないところで軽く泳いでみると、TS病のせいか、かなり動きやすくなっていました。
実際、身体能力は今の方が高いしね。
「ぷはっ……はぁ、はぁ……ふぅ……」
軽くクロールで泳いでみたけど、特に違和感が無くてよかったです。
ただ、足が着かないので、プール内で休む時は仰向けになるんだけど……。
この体は軽いからね。
胸は重いけど……。
「椎菜ちゃん、泳ぐの速いんだね?」
と、近くにいた朝霧さんがどこか楽しそうに話しかけて来た。
今日、僕の傍にいるのは朝霧さん。
なんだかんだクラスだと一番仲がいい女の子ということもあって、僕からお願いしました。
ちなみに、朝霧さんはかなりモテるタイプです。
なんというか、モデルさんみたいにすらっとしていて、綺麗系な顔立ちなのに、すごくフレンドリーに接してくれるので、男女問わず人気です。
実際、何度か告白されるところを見たことがあるくらい。
正直な所、仲がいいから頼みはしたけど、それでも罪悪感はあるわけで……なるべく、それを感じさせないようにはしているけど……。
「うん、TS病って身体能力が向上するみたいなの。だから、前よりも早くなってるんだぁ」
「へぇ~、不思議な病気だねぇ。でも、どうしてそんなに小さくなっちゃったんだろうね?」
「それは僕にもわからないよ……」
「あはは、そうだよね。でも、中身が変わってなくて安心したよ、椎菜ちゃん」
「それはそうだよ。僕は僕だもん。女の子にはなっちゃったけど……」
「そっかそっか。あ、そうだ。椎菜ちゃん」
「うん、なぁに?」
「これからは、麗奈、って名前で呼んでくれないかな?」
「ふぇ? 名前で?」
「そうそう。だって、あたしだけ名前なのちょっと距離を感じるし、それにこれからは女の子同士、仲良くしたいなーって。ほら、学園生活において、一緒にいてくれる女子がいた方がいいでしょ? 色々と。相談にも乗れるし」
「た、たしかに」
朝霧さんの言う通り、つい最近まで男だった関係上、僕の交友関係はどうしても男子の方に偏っている。
女の子のお友達もいるにはいるけど、多いわけじゃないし……たしかに、朝霧さんが言うように、色々相談ができる女の子がいるのはありがたいかも……。
それに、どうせだったらもっと仲良くなりたいしね。
「うんっ、じゃあ、麗奈さんって呼ぶね!」
「さん付けかぁ……あ、でも、椎菜ちゃんって基本的に敬称付けるタイプだし……あ、それならちゃん付けにしてほしいな」
「ちゃん付け?」
「そうそう。だって、同い年なのにさん付けっていうのもあれだし」
「うぅん……たしかにそうかも?」
言われてみれば、同い年の人相手にさん付けって、別に悪いわけじゃないけど、それでも少しだけ距離は感じちゃうかも。
かといって呼び捨て個人的に合わないから……。
「うんっ、わかったよ! それじゃあ、麗奈ちゃんって呼ぶね!」
「ありがとう! じゃあ、改めてよろしくね、椎菜ちゃん」
「うんっ! よろしく、麗奈ちゃんっ!」
「ごふっ……」
にこって笑って言うと、麗奈ちゃんが少しおかしくなった。
「ど、どうしたの?」
なんだか顔が赤いし、様子がおかしかったので訊いてみると、すぐにいつもの様子に戻っていました。
「気にしないで、ちょっとハートをやられただけだから」
「そ、そうなの? それならいいけど……あの、調子が悪かったら無理はしちゃだめだよ……?」
「……え待って可愛すぎん?」
「麗奈ちゃん?」
「あ、いや、なんでもないよ! あ、どうせだから一緒に遊ぼっか?」
「うん! 遊ぼっ!」
折角誘ってくれたのなら、遊びたいと思った僕は、笑顔を浮かべてそう返しました。
「えー、待って、椎菜ちゃん天使すぎない……?」
「???」
また何かを呟く麗奈ちゃんに、僕はこてんと小首を傾げるのでした。
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