#11 記念配信後と、友バレ

「ん、んんぅ……はれぇ……?」


 目を覚ますと、体の節々が痛くなっていました。

 外は真っ暗だけど、室内は電気の灯りとパソコンのモニターが明るくて……って!


「あっ! 配信っ!」


 配信の途中だったことを思い出して慌ててモニターを見たけど、どういうわけか配信画面は無く、デスクトップ画面だけが映されていました。


「あれ? これは、どういうことだろう……?」


 たしかに配信はしていたはずだけど……どうして配信が終わっているんだろう?

 僕、配信を終了させた覚えがないけど……。


 とりあえず、マネージャーさんに連絡を、と思ってスマホを覗くと、マネージャーさんからのメッセージが来ていた。

 なんだろうと思って見てみる。


「あっ……」


 その内容を見た瞬間、さぁーっ……っと血の気が引いていった。


 そこには、


『気絶状態でしたので、置手紙ならぬ置きメッセージで連絡させていただいております。配信中の気絶落ちですが、猫夜はつきから連絡があり、一度愛菜さんと共にお家へお伺いし、その際に配信を終了させました。公式のSNSアカウントにて、神薙みたまの代わりに、保護者の方が配信を終了させました、という文を投稿しておりますので、ご安心ください。あれは不可抗力と言わざるを得ないので、あまりお気になさらないようにしてくださいね』


 という、少々長い文章が届いていました。

 う、うわぁ……僕、とんでもないことをしちゃったぁ……。

 まさか、ゲームで気絶しちゃうなんて……。


「とりあえず、トワッターで改めて謝っておこう……」



 神薙みたま/らいばーほーむ三期生✓ @mitama_kannnagi 0分前

 今日の記念配信で、気絶してしまってごめんなさい……。

 また後日、改めて配信の時に謝ります……。


 ○0 ↺0 ♡0 □0



「はぁ……とりあえず、寝よう……」

 トワッター簡単な謝罪のメッセージを呟いて、就寝となりました。



 翌日。


 今日は日曜日。

 もちろん、今日も配信を……と思っていたんだけど、マネージャーさんが、


『さすがにホラーゲームをやった時の精神的疲労は抜けていないでしょうから、今日はお休みで大丈夫です。その代わり、明日は配信をしていただけるとありがたいです』


 と言われたので、今日はお休みになりました。


 それと、僕が寝る前にしたトワッターの方では、それはもう温かい言葉で溢れていて、その優しさに涙が出ました。

 ファンのみんながいい人で良かったです……。


 そんな僕はと言えば……


 くぅ~~~~~……


「うぅ、お腹空いた……」


 とても空腹になっていました。


 それもそのはずで、今はお昼前。

 ついさっきまでずっと眠っていたみたいで、起きたのはなんと十時半。

 もうちょっと早く起きれたよね? と思わないでもないけど……多分、ホラーゲームの疲れが出てるんだろうなぁ……。


 最後に食べたのが昨日のお昼ご飯なので、二十四時間何も食べていないことになります。

 それならお腹も空くよね……


「でも、ちょうど食材は切らしちゃってるし……」

「……試してみようかな」


 僕はスマホを取り出すと、柊君に電話をかけ始めた。



「来てくれてありがとう、柊君」


 三十分後、僕は柊君と一緒にいました。


「いいって。にしても、珍しいな、椎菜から飯に行こうなんて言うなんてさ」

「あ、あはは……その、ちょっと色々あって、お昼前に起きちゃって……」


 まあいいけど、と笑う柊君に、僕は苦笑交じりにそう答える。

 だって、ね……。


「へぇ、そうなのか。何してたんだ?」

「あ~……ちょっと、ホラーゲームをね……プレイして……」

「……ん? ホラーゲーム?」

「う、うん、ホラーゲーム」


 僕がホラーゲームをプレイしていたことを話すと、柊君が何かを訝しむような顔を僕に向けて来た。

 ど、どうしたんだろう?


「……なぁ、椎菜。もしかしてお前、気絶した?」

「ふぇ!? な、なんで知ってるの!?」


 僕が驚いてそう返すと、柊君はマジか……みたいななんとも言えない表情をしていました。


「……椎菜、お前まさか……神薙みたまなのか?」


 そして、ハッとなった柊君は神薙みたまの正体を当ててきました。


「ふぇぇ!? ち、違うっ、よ!? ぜ、全然違うからね!? か、神薙みたまじゃないもん! お、おにぃたまとか、おねぇたまなんて言わないもんっ!」

「いや墓穴を掘ってどうする……」

「あぅっ!」

「それに、その驚き方、神薙みたまそっくり……じゃないな。違うか。神薙みたまの驚き方が椎菜だからな……そりゃ、声も似てると思うわなぁ」

「あぅぅ~~~……」


 バレた! バレちゃった!

 お友達の柊君にバレちゃったよぉ~~~~っ!


 うぅ、絶対にバレたくなかったのに、何やってるの、僕……。


「とはいえ、いきなり『僕、神薙みたまやってるんだ~』なんて言われても、信じられ……いや、信じられるな……椎菜は若干天然入ってるしな……」

「それどういう意味なの!?」

「言葉通りだ。……まったく、驚いたぞ? しかし、なんだってそんなことに?」

「あぅ……その成り行きと言いますか……」

「……そういや、配信で言ってたな。姉が原因だって」

「う、うん……って、そう言えば柊君視てるの……?」

「おう。元々らいばーほーむは好きだったしな」

「そ、そうなんだ」


 そっか、そういえば二学期初日に神薙みたまのお話をしてたっけ……。

 それにしても、お友達が視ていたなんて……なんだろう、嬉しいような、気恥ずかしいような……って、それって――!


「それ、僕がお、おにぃたまとか、おねぇたまって言ってる姿を見てるってことだよね!?」

「あー……まあ、そうだな。可愛かったぞ?」

「んあぁぁぁぁ~~~~~~っ!!!」


 は、恥ずかしい! 恥ずかしいよぉ!

 一番仲のいいお友達に、僕が恥ずかしい姿を晒していることが、すっごく恥ずかしいよぉ~~~~~っ!

 うぅ、知り合いに中身バレするのって、こんなに羞恥心が凄まじい物なんだね……。


「まあ、安心しろよ。絶対誰にも言わないからさ」

「うぅ、ありがとう……」

「というか、椎菜の今の姿でそれがバレるとなぁ……正直お祭り状態になると思うしな……」

「お祭り……? えと、どういうこと……?」

「いや、気にしないでいい。……んじゃ、飯行こうぜ。何食うよ?」

「ラーメンっ!」

「ははっ、なら、あの店だなぁ」


 元気に答える僕に対して、柊君は楽しそうに笑いながら、二人で目的のお店に向かう。


 ただ、いつも行くお店はかなり人気があって、昔は地元の人たちが多く通う、知る人ぞ知るお店! って言う感じだったんだけど……YouTuberの人や、テレビで紹介されちゃって、たくさん人が来るようになったんだけど……それがきっかけであまり行けなくなっちゃったんだよね。

 だけど! 今日はすっごくお腹がペコペコなので、並んででも食べます!


 というわけで、そのお店に行ってみると……


「お、ラッキー! 全然並んでないぜ」

「ほんとだ! じゃあ、早く食券を買わないと!」

「あ、おい、椎菜、走ると危ないぞ!」

「だいじょーぶ!」


 すててて、と食券を買うために駆け足気味に券売機に。

 んーと、何にしようかなぁ……。


「椎菜は何にするんだ?」

「うーん……そうだねぇ……やっぱり、ネギ丼は外せないよね」

「あー、わかる。ここのネギ丼……ってか、ネギがマジ美味いんだよなぁ」

「うんうん。とりあえず、ミニサイズの方は買って……ラーメンは……うん、全部乗せかなぁ」

「お前、それ食べきれるのか?」

「大丈夫! 食べる量は元の体よりもちょっぴり減っちゃったけど、全部乗せとネギ丼小くらいだったら食べられるよ!」

「……意外と椎菜って飯食うよな。外見に似合わず」

「美味しい物だからね♪」


 なんて話をしながら、食べたいラーメンの食券を購入。

 中に入ると、店員さんがいて、注文を尋ねて来る。


「いらっしゃいませ! 食券をお預かりいたします!」

「お願いしますっ」


 大好きなお店のラーメンとあって、僕の今のテンションはとても高い。

 そのせいか、ちょっと子供っぽくなっちゃったけど……。


「あらあら、可愛いお嬢さんね。えーっと……全部乗せ? 全部乗せでいいの? これとっても量があるけど……」

「大丈夫です! あ、味は醬油で、全部普通でお願いします」


 手渡された食券に書かれていたものを見て、店員さんが食べきれるかどうか心配、という気持ちが見え隠れする言葉をかけて来たけど、僕は大丈夫と返答。

 それにつけ足して、味についてを言いました。


 あ、補足です。

 このお店では、食券を店員さんに手渡して、そこから『醤油・塩・味噌』の三種類を選んで、今度は『麺の硬さ・味の濃さ・油の量』を言うシステムになってます。

 ただ、味の方に関しては例外もあって、味が既に書かれてるメニューに関しては言う必要はないです。

 あと、一部のラーメンも同じだよ!


「わかりました。お兄さんはどうしますか?」

「お兄さんって……あー、まあいいや。えーっと、俺は味噌で、麺硬め、味は普通、油の量は多めで」

「かしこまりました。それでは、カウンター席へどうぞ」


 店員さんに言われた席に二人並んで座る。


「~~~♪ 楽しみ~♪」

「椎菜はほんと、食うことが好きだよな」

「美味しい物は正義です!」

「ははっ、そうか」


 僕と柊君は他愛ない会話を楽しみつつ、ラーメンが来るのを待つと、


「はい、おまちどおさまです。全部乗せと、豚トロチャーシューの味噌、それからネギ丼小です」


 目の前に注文した物が置かれて、テンションが上がる。


「ありがとうございますっ!」

「どうもです。……んじゃ、食うか」

「うんっ」

「「いただきます」」


 二人揃っていただきますをしてからラーメンを食べ始める。

 僕が注文した全部乗せというのは、このお店のトッピングが全部乗ったラーメンです。

 乗っているのは、海苔、もやし、ネギ、わかめ、チャーシュー、豚トロチャーシュー、煮卵、コーンの計八種類。

 もちろん量もすごくて、成人男性でもこれ一杯でかなりお腹いっぱいになるし、食べきれない人も普通にいるくらいだと思います。


 ここにネギ丼も付けるのが、僕の中の鉄板です。

 あ、ネギ丼というのは、ラーメンにもトッピングされてるネギをご飯に乗せた物です。

 ネギがすっごく美味しくて美味しくて……チャーシューももちろん柔らかくて、臭みも無くて美味しいんだけど、なんだかんだネギが一番美味しいくらい。

 どうやったら作れるんだろう? って思って、いつも挑戦するんだけど、上手く行ってません。


 そんなラーメンの味はと言えば……。


「ちゅるちゅるちゅる~~~~~っ! むぐむぐ……んっ、とっても美味しい!」


 最高でした。


「だな、やっぱ美味いわ」

「うんっ! はむっ……!」


 スープは豚骨ベースだけど、そこに色々なお野菜も煮込まれていてすっごく複雑な美味しさ。

 面もちぢれ麵なので、よくスープが絡んでいて美味しいし、チャーシューは濃縮された旨味っていうのかなぁ、味がしっかりついていて、とっても柔らかくて美味しい!


 あとやっぱり、ラーメンの海苔っていいよね!

 スープに浸して食べると最高だよっ!


 でもやっぱり、ネギが一番美味しい。

 しょっぱいんだけど、甘みがあって、かと思えば奥行きのある旨味もあって……それに、食感もシャキシャキしていて小気味いい。

 それを乗せたネギ丼もすごく美味しくてね……。


 ちなみに、ネギ豚トロ丼っていうのもあるけど、それはネギ丼に豚トロが乗ってます。

 けど、豚トロチャーシュー麺か全部乗せを頼めば豚トロが乗ってるし、何よりスープも絡んでるから、あまり頼まなくてもいいです。とっても美味しいから、そこは好みだけど。


 そんな、とっても美味しいラーメンとネギ丼を堪能する。

 二十四時間以上何も食べてなかったし、何より最近はあまり来れてなかったからか、いつも以上に美味しく感じて、ぺろりと完食。


「「ごちそうさまでした」」


 ほとんど同時に完食して、お店を出ようとした時、


「あ、お嬢さん、この飴を持っていくといいよ」


 店主のお爺さんが飴をくれました。

 棒タイプですね。


「え、いいんですか?」

「もちろん。お嬢ちゃんくらいの子には上げているからね」


 あー……なるほどー……これ、僕子供だと思われてるね……。


「いやあの、嬉しくはあるんですけど……僕、高校生ですよ……?」

「「「え!?」」」


 自身が高校生であると言うと、お店の人だけじゃなくて、周囲にいた人たち全員がびっくりしてこっちを見てきました。


 だ、だよねぇ……。


「ほ、本当に高校生なのかい?」

「は、はい」

「あー、こいつ本当に高校生っすよ。同級生で同じクラスなんで……」


 なかなか信じてもらえなさそうな雰囲気だったけど、柊君がそう言ってくれたことでなんとか信じてもらうことが出来ました。

 ただ……結局飴は貰っちゃったんだけどね……。


 なんだか、今後もこういうところが出てきそうだなぁ……。



「はふぅ~~~、美味しかったぁ……」

「だな。やっぱ、あそこのラーメン屋が一番だよな」

「うんっ!」


 ラーメン屋さんで美味しいラーメンを食べた後は、二人でお散歩。

 なんだかんだ、この体で動くのも慣れておかないとだからね。


「あぁ、そうだ。椎菜って今の生活はどうなんだ?」

「どうって?」

「ほら、お前今女になっただろ? だから、色々苦労してるのか、ってな」

「あー、うん、そうだね~……とりあえず、やっぱり慣れないことの方が多いかな。それに、胸が重くて……」


 少しだけ胸を持ち上げて答える僕。

 足元が見えないくらいに大きいこの胸は、肩と胸が重くてね……。

 一応包帯は巻いてるけど。


「そういや椎菜、背の割にはデカかったな……ってかそれ何カップよ」

「わかんない」

「測ってないのか?」

「一応測ったけど……あと柊君、それ多分、僕以外だったらセクハラになると思うよ?」

「おっとすまん。嫌だったか」

「嫌というより……前と変わらないで接してくれるのが嬉しいかなぁ」


 実際に、僕を女の子扱いしないのはすごくありがたいもん。


「ま、親友だしな。姿が変わった程度じゃ変えるわけないって」

「ふふっ、そうだね。やっぱり柊君はいい人だよ。もしも僕が最初から女の子だったら好きになっちゃったかもね?」


 まあ、今の姿になったから男の子が好きになる! なんてことはないけどね。

 普通に恋愛対象は女の子だもん。


「ははは! それはそれで面白そうだったかもな! ま、俺は椎菜が女の子扱いを嫌ってるのはよく知ってたしな」

「あはは……」


 元々、女の子寄りの顔立ちだったからね、僕……。

 それが原因で初対面時に女の子扱いをされることはざらだったし、アルバイトだってなぜかナンパされるしで……あぁ、うん、思い出してもいい思い出がない……。


「柊君も初対面の時は女の子だと思ってたもんね?」

「あれについてはマジですまんと思ってる」

「あはは、いいよ。それに、今はもう否定のしようもないし」

「助かる。……ん? そういや椎菜がVTuberをやってるのは、姉が原因なんだよな? ってことは……愛菜さん、VTuberなのか!?」

「うん、そうだよ~」

「マジで!? え、誰? あ、いや、これ聞いちゃまずいか……すまん、忘れてくれ」


 好奇心でいっぱいな様子で尋ねて来る柊君だったけど、すぐにマナー違反だと思って、聞くのを辞めた。

 うん、こういうところはすごくいい所だと思います。

 踏みとどまれるんだもんね。


「あ、ううん、大丈夫。柊君ならお話しても多分、お姉ちゃんならいいよ~、って軽く言うと思うし……」

「……たしかに、あの人ならなぁ」


 柊君との付き合いは小学生の頃からなので、当然僕のお姉ちゃんのことも知っています。

 お姉ちゃんの方も柊君のことを知っていて、柊君に対して、


『椎菜ちゃんを守ってね!』


 っていつも言っていたくらい。

 別に仲が悪いわけでも無くて、よくお話している光景も見たから、大丈夫だと思う。


「まあでも、一度訊いといたほうがいいんじゃね?」

「うん、そうだね。ちょっと訊いてみる」


 勝手に言うのはそれはそれで問題な気もするし……一応知らない間柄じゃなくても。


 そう思って、一度お姉ちゃんにLINNで連絡を取ってみる。


『お姉ちゃん、柊君に神薙みたまってバレちゃって、それで、あの……柊君にお姉ちゃんの正体を言っても大丈夫?』

『全然いいよー。あの子なら絶対言いふらさないと思うしねー。でも一応、知り合いなんだぜー、って言わないようにって言っておいて?』

『うん、ありがとうっ!』


 と、あっさりと許可が出ました。

 本当に予想通りと言うか……うん、お姉ちゃんらしい。


「大丈夫だって」

「さすがだな……」

「知り合いだーって言いふらさないようにしてね、って言ってたよ~」

「そりゃ当然だな。絶対に言い振らさないさ。……それじゃあ、聞くけどさ……一体誰なんだ?」

「天空ひかりさん」

「……は?」

「だから、天空ひかりさんがお姉ちゃん」

「……あー……なるほど、なるほどなぁ……なんか、すっごい腑に落ちた」


 お姉ちゃんが天空ひかりさんだと知った柊君は、すっごく納得したような顔をしていました。


「そうなの?」

「まあなぁ……ひかりんはさ、三期生の初配信をミラー配信してたんだけどな? その時、やたら神薙みたまだけ反応がこう、保護者っぽいというか、そんな感じだったんだよ。で、それはなんでなんだろうなぁ、って色々言われてたわけだ。だが、中身があの人なら納得だわなぁ。愛菜さん、椎菜を溺愛してるし」

「あ、あははは……」


 正体を知って苦笑いする柊君に、僕も乾いた笑いを零す。

 お姉ちゃんの溺愛っぷりを、柊君も知ってるから。


「いやぁ、マジで驚いたよ。姉弟……あー、今は姉妹か。姉妹揃って同じ事務所でライバーをしてるなんてなぁ」

「なんかお姉ちゃん、僕のことをいつか引きずり込もうと画策していたみたいでね……」

「何やってんだよ、愛菜さん……」


 さすがの柊君も、お姉ちゃんが考えていたことを知って呆れていた。


「けどさ、応募資料はどうしたんだ? たしか『らいばーほーむ』も例に漏れず、応募用のボイス、もしくは動画を撮って送るんだよな? 椎菜、そんなの撮ってたっけ?」


 と、柊君がもっともな疑問を僕に投げかけて来た。

 まあ、そうなるよね……。


「……中学生の頃、YouTubeの動画を見て、俺たちもやろう! って言って悪乗りで作った実況動画、憶えてる?」


 僕は遠い目をしながら、柊君にその答えに繋がる言葉を吐いた。


「ん? あぁ、懐かしいなぁ。今思えば、すごい恥ずかしい……が…………って、ちょっと待て? まさかとは思うが……!」

「……そのまさかです。どうもお姉ちゃん、その動画を僕の応募資料として送ったみたい……」

「えぇぇぇ……あの動画ってたしか、消してたよな……?」

「そのはずだけど……お姉ちゃんのことだから、消す前にバックアップを取ってたんじゃないかなぁ」

「怖いな、それ」

「でしょ?」


 まさか、あの時の動画を取られてるとは思わなかったけどね……。


「……なぁ、椎菜。話は変わるけどさ」

「うん、なに?」

「……お前、なんで半袖短パン?」

「え、今更なの?」

「いや、ツッコむのもなぁ、と思って。で、理由は?」

「お洋服がないから?」

「いや買えよ……」

「今は困ってないし……あと、女の子用のお洋服を買いに行くのが恥ずかしい、から……」

「なるほどな。ま、その内買った方がいいぞー」

「そうだね……」


 その内、ね。

 絶対に買わないだろうなぁ、ということを僕は心の中で思ったのでした。

 思っただけだけど……。


 それからは特に何事もなく二人で談笑して、柊君がお家まで送って行ってくれました。


 なんでも、


『今の椎菜は誘拐されそうだからな……』


 らしいです。


 失敬な、と言いたいところだったんだけど、今の姿じゃ説得力がないなぁって思って、素直に受け入れました。

 釈然とはしなかったけど……。


======================================

 超どうでもいい補足ですが、ドシスコンな姉は、マネージャーと共に椎菜の所へ行き、泊まることなく帰っていますが、これは単純に泊まるためのセットを持ってきていなかったこと、それから両親との約束があったことなどが理由で、起きた椎菜に会わずに帰宅しています。

 尚、寝ている(気絶だけど)椎菜を抱きしめ、尚且つ匂いを堪能してから帰宅した模様。

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