閑話#1 一年生時のプールの話

 この回は柊視点です。椎菜視点じゃないよ!

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 これは、まだ椎菜がロリ巨乳美少女になる前の話。


「暑いぃ~~~~……」


 高校生になってから最初の夏。


 年々暑くなっていく夏だが、今年は本当に暑くて、今にも溶けるんじゃないかと思うくらい暑く、現に俺の小学生の頃からの親友である桜木椎菜も机に突っ伏するようにして、ぐでんぐでんになっている。


「椎菜、大丈夫か?」

「暑いよぉ、柊君……」

「そりゃ夏だからな」


 椎菜に熱いよぉ、と言われたが、俺としては夏だからなとしか言いようがない。


「まあ今日はプールがあるんだし、ちょっとはマシだろ?」


 幸いと言うべきか、今日からプール開きだ。

 姫月学園の水泳の授業は男女別であるため、当然交代制。

 今日は男子からということになっている。


「そうかもしれないけど……でも、高校でプールがあるって珍しいよね」

「どうなんだろうな。公立校じゃ無い学校も普通に多いらしいが」

「んー、別の学校に言ったお友達が、プールが無いから夏は地獄そう……って言ってたよね」

「あー、言ってたなぁ。そう考えれば俺たちはいい方か」


 小・中では水泳の授業は当たり前ではあるが、高校では当たり前じゃないらしい。

 無い学校の存在も特段珍しいわけじゃないしな。


「多分」

「……まあ、椎菜の場合、別の心配がありそうだがな?」

「ふえ? 別の心配? 何かあったかな……?」


 ぽつりと呟いた俺の言葉に、椎菜がこてんと首を傾げる。


 俺の親友である椎菜は、それはもう可愛い。

 お前絶対生まれて来る性別間違えただろ、と思うくらいに。


 初対面であれば確実に女子だと思うだろうし、かく言う俺も椎菜と初めて会った時は女の子だと思ってたしな。


 まあ、そこから色々と付き合っていく内に、普通に男だと認識するようになったが……それはどうやら俺くらいのようで、椎菜と仲良くなった男子の中には未だにドギマギするような奴もいる始末だ。


 あと、下手な女子よりもモテるためか、小・中で告白されるようなこともままあった。


 ……まあ、全部男からだが……。


 そんな椎菜だから、当然と言うべきか……小学校の時ならともかく、中学時代のプールはかなりアレだったからなぁ……。


「いや、まあ、何でもない。気にするな」


 とはいえ、そんなことを言えるわけがない俺は、気にするなと言っておいた。


「そう? じゃあ気にしないね」

「あぁ。……今年も、変なことに目覚める奴がいないといいがなぁ……」


 目の前の椎菜を見て、俺はそう呟くのだった。



 そこからいつも通りに授業は進み、体育の時間になる。

 プールバッグを持って椎菜と一緒にプールへ向かう。


「……あれ?」

「どうした? 椎菜」

「あ、うん。なんだか見られてるような気がして……」


 ふと、話しながら歩いていると、椎菜がそんなことを言い出す。

 軽く周囲を見回し、なるほど、と一人納得する。


「あー……まあ、気のせいじゃね?」


 納得した上で、俺はそう椎菜に言った。

 知らなくてもいいことだしなぁ……。


「うーん……うん、そうかも」


 ほらな? こう言えば椎菜はにこにこ顔で気にしなくなる。

 なんかもう、俺はお前が純粋すぎて心配だよ……まったく。


「ちなみに、誰からってのはわかるのか?」

「んっと……男子もそうだけど、女の子からの方がちょっと多い……?」

「なるほどなぁ……まあ、気のせいだろ」


 椎菜は男子からはまあ、うん、恋愛的な意味でモテることもあるが、女子からはなんて言えばいいか……こう、マスコット? いや、可愛い妹……のように見られることが多い。


 元々椎菜は弟だし、姉も姉で溺愛しまくるから尚更気質が弟なのだろう。

 そのせいか、よく女子に可愛がられている光景を見かける。


 それに、椎菜は髪の毛が一般的な男子に比べると長いしやたらさらさらなためか、よく髪の毛を縛られているところも見かけることがある。

 その度に、顔を真っ赤にしてやや涙目になっているところを見ると……え、本当に男か? と思ってしまう。


 で、肝心の今だが……男子からは、え、マジで? みたいな顔をされているが、女子からは心配そうに見られているのが椎菜の周囲からの見られ方を表しているだろう。


「うーん、そうかも。はぁ、暑いねぇ……」

「そうだなぁ」


 ま、愛菜さんに椎菜を守れ、って脅――んんっ! 頼まれている以上、守りはするがな。



 さて、そんなこんなで更衣室で着替えてプールの方へ。

 基本的に椎菜と俺は一緒に行動するため、こういう場面でもほぼ一緒である。

 ってか、そうしろ、と愛菜さんに脅さ――んんっ! 言いつけられているからな。

 いやまあ、俺自身も心配だからいいんだけどさ。


「ねえ、柊君。やっぱり僕、見られてない?」

「……気のせいだ」

「あの、なんでちょっと言いにくそうなの?」

「気のせいだから、大丈夫だッ」

「言い聞かせてないかな? それ……」

「……気にしたら負けだ」

「何に!?」


 いやもう、ほんとすまん……こればかりは、純粋なお前には言えん……。

 椎菜は酷く無知だし、酷く純粋だ。

 これには愛菜さんが大きく関わっているんだが……まあ、そこはいいとして。


 実際の所、椎菜の顔は美少女にしか見えないし、体も華奢だしで、本当に女子にしか見えない。

 そんな椎菜と一緒に水泳の授業を受けるとなると……まあ、そりゃぁ、見慣れない奴からすると、ドギマギはするわけで。


 俺はもう慣れてる。

 ってか、付き合いも長いし。


「桜木って男なのに、なんかこう……」

「わかる。見ちゃいけないと思っちまうよなぁ……」

「あれで男とかマジで冗談だろ」


 などという会話が聞こえて来る。

 正直、気持ちはわかる。


「つーか、桜木と一緒にいる高宮、すごくね?」

「なんでも幼馴染らしいぜ」

「だとしても、桜木と普通に接することが出来る時点で十分すげぇだろ」

「尊敬するわー」


 ……なんか、俺もいろいろ言われてるな。

 しかし、そうか、周囲から見るとそう言う風に見えるのか……。

 俺はもう、場数だしなぁ……。


「おーし、お前ら集まってるなー。んじゃ、授業を始めるぞ」

「おっと、先生が来たか」

「だね~、はふぅ……暑いなぁ……」

「……そうだな」


 お前はお前で、汗を流す姿が妙にあれだがな……。



 今日は最初の授業と言う事もあり、特に測定をするようなことはしないそうだ。

 まずはこの学園のプールに慣れろ、ということらしい。

 そのため、自由に泳いでもいいことになっている。


「はふぅ~~、きもちぃね~~」

「そうだなー」


 そんな俺たちはと言えば、人の少ない場所で適当に水に入って過ごしていた。


 俺はともかくとして、椎菜は運動が得意かと言われると、別段そんなことはなく、むしろ得意か苦手かで言えば苦手の部類に入るだろう。

 とはいっても、平均よりやや下程度だがな。

 別に、運動が嫌いでもないが。


 じゃあなぜ二人でいるかと言えば……単純に、周囲が遠慮するからだ。


 椎菜は可愛い。


 それは誰が見てもそう思ってしまうほどで、何度も女だと間違われるくらい。

 声自体もお前変声期来たの? と疑問に思ってしまうほどで、男にしては随分と可愛らしく、女子と言われても信じてしまうことだろう。


 なので、何度も言っているように、初めて椎菜とプールに入るというのは、結構精神に来るものがあるらしい。


 これらは、俺が実際に聞かされてきたからだな、男子から。


 曰く、


『すまん、マジで悪いことをしてるんじゃないかって気分になる……』


 曰く、


『桜木が可愛すぎて、マジで性癖歪みそう』


 曰く、


『俺もう、桜木でいい気がして来た』


 などなど、いろいろ言われているし、最後の奴はノータイムで殴っておいた。

 親友に邪な目を向けるんじゃねぇ、という気持ちが無いわけじゃない。というかある。


 ってか、椎菜は普通にノーマルだよ。

 ちゃんと女子が好きだよ、恋愛的には。


 ただ、椎菜はそう言う目で見られることは正直少ない……というか、あまりない。

 多分、恋愛的というより、親愛的な意味の方が強いんだろうな。


 とはいえ、本人があまり恋人を欲しがる、ってタイプじゃないからあまり気にしていないがな。

 まあ、自分の容姿はコンプレックスになってはいるが。


「柊君は他の人と遊ばなくていいの? 僕に付き合わなくてもいいんだよ?」

「何言ってんだよ。一番仲いいのは椎菜だぜ? それに、俺がいなかったらお前ひとりだろうに」

「まあ、そうなんだけど……でも、えへへ、ありがとう」

「気にすんなって。そういや椎菜って結構色白だよな?」


 と、そんなことを言ってみる。

 実際の所、椎菜は結構色白だ。

 しかも、無駄に肌が綺麗なのも、女子に見える一因になっていることは間違いないだろう。


「そうかな?」

「おう。結構白いと思うぞ。それ、日焼けしたら痛くね?」

「うーん、別段痛くはないけど、海に行ったら痛くなりそう」

「日差しが強い所ってことか」

「そうそう」

「あー……そうだ。今年の夏休みさ、どっか行こうぜ」


 二人してぼーっとしながら、俺はそんなことを椎菜に提案した。


「あ、いいね。どこへ行こっか」

「そうだなぁ……せっかく高校生になったんだし、やっぱ遠出したくなるよなぁ。プチ旅行とか?」

「いいねいいね! 保護者は……案外お姉ちゃんが一緒に行ってくれそう」

「だな。さすがに学生だけで、ってのもアレだし、愛菜さんに言ってみるかー」

「うん、じゃあ帰ったら相談してみる!」

「頼んだ」


 それに、愛菜さん的には一緒に旅行が出来る! ってテンションが上がりそうだしな。

 高校生になったとはいえ、さすがに学生だけでそこかに宿泊するってのも、変に心配される可能性はあるし、何より愛菜さんが何言うかわからん。

 そう言う意味では、先手を打っておく必要があるだろう。


「さて、俺らもちょっと遊ぶか」

「うんっ! 何しよっか?」

「そうだなぁ。……ま、水でも掛け合うか。こんな風に……な!」


 ニヤリと一瞬笑ってから、無防備に笑う椎菜めがけて水を浴びせかけた。


「わぷっ!? うぅ~~っ! やったね~~~! じゃあ、こうだよっ!」


 いたずらっぽく椎菜がら笑うと、その細い両腕で力いっぱいに俺に水を浴びせて来た。


「ぶはっ! なかなかやるじゃないか。だが、まだまだだっ!」

「ふえ、あっ、まっ――ひゃぁぁぁんぶ!?」


 仕返しとばかりに、俺は飛び込むことで椎菜にさっき以上の水を浴びせかけた。

 それをもろにくらった椎菜は派手に転んでいたが。


「ぷはっ! はぁ、はぁ……うぅ~~~! 柊君の方が大きいんだからずるいよ~っ!」

「はっはっは! 俺が手加減をするとでも?」

「むむむむぅぅ~~~~っ!」


 と、頬を膨らませるて怒ったような表情を見せる椎菜。


 ……いやあの、すみません。あなたそう言う表情するの、マジでやめてくれません? ましてやここプールだぜ?


 いや、俺が悪いんだけどさ……その表情で男はやっぱ無理あるだろー……。

 見ろよ、周囲の男子。

 ちょっと顔赤いぜ? 中にはド直球に照れてる奴いるぜ?


 ってか、実際の所、椎菜に遊びを持ち掛ける奴がいない理由はさっきも語った通りではあるんだが……それ以外にもっと大きな理由が存在する。


 それがこれである。


 椎菜はころころと表情を変え、しかもそのどれもが無駄に可愛い。

 今なんて、可愛らしく頬を膨らませて怒ってるわけで。


 見た目美少女にしか見えない奴がそれをやったらどうなるか、答えは明白である。

 間違って惚れてしまうわけだな、恋愛的な意味で。

 男子共はそれに薄々気付いているために、こうして遠慮している。


 俺は……なんかもう、昔から接してるせいで特にそう言うことはない。


 というか、普通にいい奴だしな、椎菜は。

 こいつに好きな人が出来たら、全力で応援するつもりだがな。

 ……その変わり、俺が愛菜さんに殺されそうだけど。


「ははは、悔しかったらやり返してみるのだ、椎菜よ!」

「言ったね~~~! じゃあ、僕もやり返すからね~~!」


 などと、楽しそうにする椎菜と仲良く遊んだ。

 ……ふと思うんだが、高校生の男二人がする遊びじゃ無くね? これ。

 椎菜やべぇーー……。


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 今回、お試しで椎菜の男の娘の時の話を書いてみましたが、もし受けがいいようでしたら、今後も書いてみようかなぁと思います。

 それと、掲示板回は18時です!

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