#8 新学期になり、案外受け入れられるTSっ娘
えー、あらかじめここで言っておきますが、男との恋愛なんて考えてませんからね? 男の友達は絶対必要だろうと言う私の拘りです。なので、本作はどちらかといえばガールズラブ寄りです。なんか、心配になるであろう人がいる可能性があるなと思ったでの書かせていただきました。
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「ふぅ……」
四度目の配信を終えて、椅子に深く座り込みながら小さく息を吐く。
よくわからないリクエストがあったけど、視聴者さんたちが喜んでくれていたのならよかったかな。
「それにしても……明日から学校かぁ……」
行きたいか行きたくないかで言えば、正直行きたくない……。
周囲がごくごく普通の生徒しかいない中、一人だけ小学生みたいな姿で学園に行かなきゃいけないんだもん……。
それに、とスマホ(僕所有の)を覗く。
そこには、お友達からの心配するメッセージがいくつも入って来ていた。
特に、ずっと仲が良かった、
元々、今年の夏祭りは柊君と一緒に行く予定だったんだけど、僕がこんなことになっちゃったから、今年は他の人と行ってほしいって言っちゃったんだよね……。
そしたら、すごく心配されちゃったんだけど、僕がこの有様だからどう話せばいいのかわからず、時たまチャットで『大丈夫』とか『元気だよ』という、素っ気ないメッセージを送っちゃってるわけで……それでも、未だに心配してくれるのが本当に嬉しく思うのと同時に、心が痛いです……。
今日なんて、『明日から学園だけど、本当に大丈夫なのか……?』ってすごく心配そうにしてくれてることがわかる文面を送ってきたもん。
これに対して僕は『うん、大丈夫。僕が会わなくなったことも明日わかるから……』って送りました。
さすがに、ずっと逃げ続けるわけにはいかないからね……。
そしたら『了解。けど、無理すんなよ』って返って来てちょっと泣きそうになりました。
柊君、本当にいい人……。
「……うん、頑張ろう」
ぽつり、と呟いて目を閉じると、僕の意識はすぐに落ちて行った……。
◇
そして、新学期の朝。
「ふぅ……大丈夫……特に集会で紹介されることもないから大丈夫……」
僕は先日受け取った制服に身を包んでいました。
姿見に映るのは、特注サイズの制服に身を包む僕で、スカートの下は……普通に、TS病と断定された結果貰った下着です。
さすがに、この姿で男の物の下着は色々と問題がある気がしたので……。
ロングスカートならよかったのかもしれないけど、姫月学園はロングスカートじゃないので……。
デザインとしてはブレザーではあるんだけど、まだ九月で暑いとあって、Yシャツでの登校になるから、まだマシ……マシ、なのかな?
首元にはネクタイではなくリボンを着けるのがちょっと恥ずかしい。
「それじゃあ……今日から頑張ろう……!」
僕は気合を入れると、忘れ物が無いか(特に宿題)を確認して、意を決して学園へ向かう。
まだまだ残暑は厳しく、日差しも真夏と変わらない状況であるため、今日は日傘をさしての登校に。
先生から連絡があって、問題なく許可が得られたみたいなので、遠慮なく使わせてもらっています。
ただ、やはりと言うべきか、周囲からの視線がすごい……。
そもそも、見た目小学生(胸だけは違うけど……)が高校の制服を着ていて、尚且つ日傘をさしていたら、それは注目も集めるよね。
そのせいか、学園生とすれ違うたびに、ひそひそ、と何か噂されているような気がしてなりません。
悪いこと、言われてないかな……?
さ、さっさと学園に行かないと……。
◇
道中、ものすごい数の視線を貰いつつ学園に到着。
昇降口に入り、靴をしまおうとして……手が届かなかったので、近くにあった踏み台を使って下駄箱を開ける。
「んっ、んん~~~~っ! はぁ……取れたぁ……」
踏み台を使ってもなかなか手が届かなかったので、そこでも背伸びをしながらぐぐっ、と手を伸ばす。
そうすることで、ようやく靴をしまうことが出来、上履きを履くことが出来ました。
(((何あれ、可愛い……)))
な、なんだろう、すごく視線が増えた様な?
しかも、こう……微笑ましい物を見るような視線と言うか……生暖かい感じが……。
は、早く教室に行こう……。
あまり騒ぎになってほしくないという意味もあり、実は今日の登校は、割とギリギリに到着するように家を出ました。
とは言っても、元の体よりも縮んでいるので、その分も考慮はしています。
じゃないと、遅刻しちゃうから。
そんなこんなで、自分の通う教室、二年一組の教室に到着。
中では夏休みの話題で雑談をしている人が多くて、その中には僕のお友達の柊君もいた。
ただ、どこか浮かないような顔をしている辺り、僕のことを心配しているんだと思う。
自惚れかもしれないけど、柊君と一番お話をするのはクラスメートだと僕。
僕も柊君とよくお話をするし、なんだったらお昼ご飯も基本的に一緒だし、部活の助っ人が無ければ一緒に帰るくらいです。
安心させなきゃ。
正直中に入るのが怖いし、何を言われるのかわからないし、受け入れられないかもしれない、そう思うと足が竦んじゃうけど、せめて柊君には色々とお話しておかないと、と思って中へ入ろうとした瞬間。
「いやぁ、マジでらいばーほーむの三期生、全体的に当たりだよなぁ」
そんな話題が聞こえて来て、ぴた、と扉を開けようとする手が止まった。
「わかる。特にみたまちゃんに癒されるわ~」
「あれなぁ、声がマジでいいと思う」
「声もいいけど、性格や仕草も反則だと思うんだ、あれ」
「「わかる~~~」」
僕の分身である『神薙みたま』の話題が出て来たせいで、動きが止まる。
……ん、んん~~~~~っっ……!
こう、学校で自分のことが褒められているのを聞くと……すっごい恥ずかしいんだけど……。
もちろん、クラスメートは僕が正体だって知らないわけだけど……。
で、でも、こうして自分の話題で盛り上がっている状況に入って行く勇気が僕にはない。
うぅ……。
「ん? 桜木じゃないか。どうした、中に入らないのか?」
どうしようと思っていると、もうすぐ時間になるからか、田崎先生が教室前に来て、ドアの前に立っている僕に声をかけて来た。
「あ、え、えっと……ちょ、ちょっと、入りにくいなぁ、って……あ、あはは……」
「ま、その体じゃあな。だが、お前的にはどっちがいい?」
「え、と、何がですか?」
「HR前に入るか、私が紹介と称して、HR中に中に入るか」
「……で、でしたら、HR中で……」
今入っても囲まれちゃうしそうなったら、HRを挟んでまた……みたいになるだろうから、一回で済ませたいしね……。
そう言う意味なら、HRの時に入っちゃった方がいいと思うし……。
「了解だ。じゃ、ちょっと待っててな。すぐ呼ぶ」
「ありがとうございます……」
「気にしなくていい。……おー、お前たち席に着けー」
田崎先生がそう言いながら中に入ると、色々な場所で話していたクラスメートのみんながバタバタと自分の席に座りだす。
「ん、よし、全員揃ってるな」
「先生、椎菜が来てないんすけど」
「全員揃ってないです!」
「先生ボケたー?」
あはははは! と笑いが出る教室。
ちなみに、最初に僕がいないと言ったのは柊君。
気付いてくれてるのが嬉しい……。
「生憎と、まだまだボケる年齢じゃないぞー、私は。それに、桜木は来てるよ。今から呼ぶ」
「「「呼ぶ?」」」
「おし、入ってこーい」
「は、はい……」
先生に入るように促され、中に入ると、一斉に視線が僕に集まる。
「「「!?」」」
心臓がバクバクとうるさくて、手汗もじわりと出てくる。
いつぞやの初配信の時みたいにドッキドキで、喉も渇いてくる。
「あー、というわけで、桜木だ」
「さ、桜木椎菜です……」
「「「――いやいやいやいや!?」」」
「なんかおかしくないっすか先生!?」
「え、その子が桜木!?」
「うっそ!? どう見ても小学生くらいの女の子じゃないですか!」
「お前たちが驚くのも無理はないが……正真正銘、こいつは桜木椎菜だ。色々あって、この姿になってるがな。そうだろ?」
「は、はい……え、えっと、その……な、夏休み中に色々あって女の子になっちゃったけど、中身は変わらないので……い、今まで通りに接してくれると、嬉しいです……」
緊張しながらも、言いたいことを話し、最後に困ったように笑った。
すると、
「「「うええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」」」
クラスのみんながそんな叫びが、クラスを超えて校舎内に響き渡った。
◇
「ま、マジで!? マジで桜木なのか!?」
「何をどうしたらそんなことになったの!?」
「え、超可愛いんだけど! なになに、どうなんってんのそれ!?」
「え、えっと、あの……」
HR後、僕の周りにはクラスのみんなが集まって来て、僕は質問攻めに遭っていました……。
す、すっごく困惑するし、この体が小さいからか、みんながすごく大きく見える。
「おいおい、お前ら詰め寄り過ぎだぞ。見ろよ、椎菜の奴、困惑してるぞ」
と、僕が詰め寄られて困惑していると、助け舟を出す人が。
柊君だった。
「っと、すまん、桜木。珍しくてついな」
「ごめんね?」
「う、ううん、大丈夫……ただ、あんまり近すぎると、その、こ、困っちゃう、かな……え、えへへ……」
『『『ぐふっ……!』』』
僕がそう言うと、なぜかクラスのみんなが胸を抑えだした。
ど、どうしたんだろう?
「え? え? ど、どうしたの……?」
「ご、ごめん、可愛すぎて……」
「困ったような笑いが可愛すぎる……」
「これが、桜木……? ……いや、元々可愛かったが……」
「前のことは言わないで!?」
少なくとも、未だに思うところがあるんだから、僕!
「まあいいや、適当に話を聞かせてくれよ」
「私も!」
「う、うん。そんなに人が来なければいいから……」
そう言うと、みんなは各々自分の席に戻って行った。
それを見計らってか、柊君が僕に話しかけて来る。
「驚いたぞ、椎菜。まさか、女子になってるなんてさ」
「あ、あはは……だよね……」
「もしかして、椎菜が夏休み中遊べなくなったのって、それが理由か?」
「う、うん。どういう顔をして会えばいいのかわからなくて……その、ごめんね……」
「いや、気にすんなって。それじゃあ仕方ねぇよ。むしろ、俺が何か悪いことをしたんじゃないかって心配になった程度だ」
ははは、と笑いながらそう言ってくれる柊君に、僕も安堵の声を漏らす。
「よかったぁ……もしかしたら受け入れてくれないかも、って思っちゃったから……」
「何言ってんだよ。俺と椎菜の仲だぜ? 姿が変わった程度じゃ、関係性は崩れねぇって!」
ニッ、と笑う柊君を見ていると、たしかにこれならモテるよねぇ……なんて心の中で呟く。
実際、柊君はかなりモテる。
イケメンだし、運動神経も抜群で、運動部の助っ人をよくやっている。
たまに女の子から告白されているところを見かけるし、下駄箱にラブレターが入っているところも見かけます。
「ありがとう、柊君」
「気にすんな。……にしても、随分と可愛い見た目に、声になったなぁ。特に、声の変わりようはすごいな」
「そ、そうかな?」
「あぁ。元々、女声で普通に可愛くはあったが、今ほどじゃなかった。今なんてお前、その声だけで食ってけるんじゃないか、ってくらいだぜ?」
「そ、そう?」
「おう。だが……あれだな、その声さ、すんごい聞き覚えがあるんだけど……」
「……えっ、そ、それは、あの、ど、どこで……?」
柊君の発言に、一瞬ドキリとして、しどろもどろになりながらも、どこで聞いたのか尋ねる。
も、もしかして、柊君見てた……?
内心ドキドキしながら、柊君の言葉を待つ。
「あぁ、最近デビューしたVTuberだな。神薙みたまって言うんだけど」
「……へ、へぇ~っ、そ、そうなんだねっ! け、けど、き、気のせいじゃないかなぁっ?」
「お、おう? いやまあ、聞き覚えがあるなぁってくらいだけどさ……んー、でもなぁ、すごい似てる気がするんだがなぁ……」
「……」
ど、どうしよう、すっごく柊君が訝しんでる……!
で、でも、できる限り正体はバレたくない。
だって、ただでさえ女の子になっちゃってるのに、そこに追い打ちをかけるように、神薙みたまだってバレちゃったら、大変だもん……。
「どうした? 椎菜」
「う、ううん、なんでもない……」
「そうか? んー……ま、いいか。あ、そういや、もうすぐ学園祭だな」
「そ、そうだね。今年は何するんだろう?」
「去年は……お化け屋敷だったか? お前、お化け役だったのに、やたら女子から可愛がられてたよなー」
「あ、あははは……あれは、今でも思い出すけど……ね」
苦い思い出です……。
去年の学園祭では、僕はなぜか殺されたナースという、なんとも言えない脅かし役だったんだけど……それが原因で、脅かそうとした人たち、特に女性相手には全く効果がなく、むしろ僕が襲われかけるという、どっちがお化け役なのかわからない状況になったからね……。
「ま、この後のLHRで決まるだろうが……なんか、椎菜は色々とすごいことになりそうだなぁ……」
「ふぇ?」
「いやほら、お前すごい可愛くなってんじゃん? だからさ、あれやこれやとコスプレさせられそうだなぁ、と」
「……あ、あはは! さ、さすがにない……と思う…………よ?」
「まあ、お前はそう思ってるだろうが……さっきから、ギラギラとした目で見られてるぞ、女子から」
「ふぇ?」
柊君に言われて周囲を見てみれば、柊君の言う通り、たしかにそこにはクラスの女の子たちがじーっと期待したような、これだ! みたいなそんな顔で僕を見ていました。
え、な、なに……?
「……僕、体調不良っていう理由で、保健室に行っちゃだめかなぁ……」
「あー……とりあえず、生理ってことにすりゃいいんじゃね……?」
「柊君、さすがにその理由はちょっと……」
「すまん、俺も今のはダメだろと思ったわ……」
というか、まだ来てないよ、僕……。
……そもそも、この体で来るのかな?
いやでも、胸はおっきいし……一ヶ月くらいで来るって聞くけど……な、なんか嫌だなぁ……。
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