#4 次の予定は決まるが、別方面が心配になるTSっ娘

 ちゃんと配信が切れているかどうかを確認して、問題がないとわかったところで……


「はあぁぁぁぁ~~~~~~~っ……」


 僕は大きな溜息を吐いた。


 き、緊張したぁ……すっごく緊張したよぉ……。

 心臓は痛いくらいばっくばくで、汗もすごく、なんだか眩暈もある気がする。

 だけど、なんとかやり切ったという気持ちが僕の胸の内にあって、不思議と嫌な気分は一切ありませんでした。


「お疲れ様です、桜木さん」

「あ、はい、ありがとうございます……」


 配信を終えると同時にスタッフさんが労いの言葉をかけてくれる。


「いやー、すごくよかったですよ。やはり、声がいいですし、途中謎にえんがわについて熱く語っていましたが、あれも面白かったです」

「うぅっ、すみません……つい……」

「いえいえ。SNS等の反応も上々です。それと、明後日ですが」

「明後日……?」

「はい。明後日、三期生全員でコラボ配信をしますので」

「ふぇ!? に、二回目なのに、もうですか!?」


 突然のコラボ配信に、僕はぎょっとして聞き返す。

 だ、だって、まだ初配信したばかりだよ!?

 普通そういうのって、もう少し活動をしてからじゃないかなぁ!?


「反省会ですね、要は。今日の初配信を話のタネにしつつ、四人に来たましゅまろへの返信をしていく、そんな内容になります」

「えぇぇ……」

「一応、オフコラボ案も出ているんですが……」

「むっ、むむむむ無理です無理です!? まだ無理ですよ~~~!」


 僕、普通にちょっと前までなんてことない男子高校生だったんだもん!

 しかも、三人は全員年上で、大学生か社会人……その時点で、会うのがすっごく緊張するからぁ!


「ですよね。コミュ障とまでは行かずとも、椎菜さんは人見知りが少しあるみたいですし」

「はいぃ……」

「なので、次回は椎菜さんだけオンライン、他の三名はオフコラボ、という形になります」

「それ、僕が仲間外れみたいじゃないですか……?」

「それが嫌なら、オフコラボでも――」

「オンラインで大丈夫です!」

「わかりました。時間については明日伝えますので、確認をよろしくお願いします」

「は、はい」

「それでは、以上になります。あとはこのまま帰宅してくださって大丈夫です。あ、送迎は必要でしょうか?」

「……できればお願いします……」


 正直、初配信で体力を酷く消耗しちゃったので、今すぐにでも倒れそうなくらい足ががっくがくなんです、僕……。

 なので、スタッフさんの申し出はすごく嬉しかったです……。



「――つ、つっかれたぁぁぁぁ~~~~~~~……」


 初配信を終えて、事務所の人に送ってもらって自宅に到着後、僕はぼふっ! と汗をかいている事すら忘れてお布団にダイブしていました。

 あぁぁ、お布団がきもちぃ~……。


「はぁ……なんとかなったけど……と、トワッター、見てみようかな……?」


 家に帰って来てまずすることがエゴサって……どうなんだろうと思いつつ、マイナスな言葉ばかりで埋め屈されていないかな? って心配になって、ドキドキしながら見てみると……なぜかえんがわがトレンド入りしていた。あと、天使ボイスとえんがわ狐娘も。


 ……これは一体……いや、えんがわはなんとなくわかるけど……。

 天使ボイスが気になって見てみると、どうやら僕のことみたいでした。


 なんでも、


『声がバチクソ可愛い!』

『天使の囁き』

『俺、あの声だったら普通に死者の国から迎えに来てほしい』

『(昇天)』


 などなど、色々な反応がありました。


 ちなみに、他の同期の三人についても何らかの形でトレンド入りしていました。

 まさか、自分のことがトレンドに載る日が来るなんて……。

 なんだろう、一ヶ月すら経ってないのに変わりすぎじゃないかなぁ……。


 なんて思っていると、ブー! ブー! とスマホが着信を知らせて来た。

 画面には『お姉ちゃん』と表示されていました。


 あ、もしかしなくても、配信のことかな……?


「もしもし、おねえちゃ――」

『か゛わ゛い゛か゛った゛よ゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛ぉ゛ぉ゛!!!』

「ひゃぁ!?」


 なんか、電話口の向こうから、とんでもないだみ声が聞こえて来たんだけど!?

 あれ、お姉ちゃんだよね!?


「お、お姉ちゃん……?」

『うんっ、お姉ちゃん! 改めて言うけど、すっごく可愛かったよ! 椎菜ちゃん!』

「あ、ありがとう……?」

『やっぱり、お姉ちゃんの目に狂いはなかった! 声は可愛いし、反応も可愛いしで、もう可愛いオブ可愛いでお姉ちゃん最高だったよ!』

「う、うん、ありがとう……」


 お姉ちゃん、テンション高いなぁ……。


「お姉ちゃんも配信見てたの?」

『当然! だってお姉ちゃんが引き込んだんだからね! それに、可愛い妹ちゃんの晴れ舞台! 見なきゃお姉ちゃんじゃないから!』

「い、妹って……まあ、そうだけど……」


 この姿になってから三週間くらい経ってるけど……。


 ……そう言えば、この姿になったせいで、友達とも遊べてないなぁ……でも、事情を説明するのがちょっと怖いし……それに、学園に行けば否が応でも知られちゃうんだから、今は現実逃避しよう……VTuberになっちゃったけど……。


『あとあと、明後日のコラボ配信もちゃんと見るから!』

「う、うん。……あの、お姉ちゃん」

『何かな何かな?』

「あの、僕の今日の話し方って、どうだった……? その、VTuberの先輩的に……」

『みたまちゃんの? うーんそうだねぇ……やっぱり、初めてだから少しぶれてるかな?』

「ぶれてる……」

『うん。だけど、その辺りは慣れていけばいいだけだから大丈夫! 一応、可愛い女の子って話し方なんだよね? こう、小学生くらいの無邪気な感じの』

「う、うん。えと……こんな風にお話ししようと思ってるよっ、おねぇたま! って言う感じ……」

『あびゃあああああああああッッ――!』

「お姉ちゃん!?」


 なんか、すごい声が聞こえて来たんだけど!?

 あと、何かが倒れる音もセットで!


『はぁっ、はぁっ……ふ、不意打ちおねぇたまは死ねる……』

「え、えと……き、気持ち悪かっ、た……?」

『そんなわけないよ! すごく可愛かったですありがとうございます!』

「そ、そうかな? あ、ありがとう……」


 ……元男としては、可愛いって、すっごく違和感だけど……。


『初配信で見れば上出来も上出来! お姉ちゃん的には、早くコラボがしたい!』

「あ、あはは、それはもうちょっと先かなぁ……」


 たしか、二週間くらいはできないってお話だったはず。

 となると……ギリギリ夏休みが明けるか明けないかくらい時期、かな?


『同期以外のコラボは私が先だからね!』

「う、うん。それはいいけど……僕も、お姉ちゃんと一緒なら安心だし……」

『まっかせて! 完璧に椎菜ちゃんの可愛さを布教して見せるから!』

「それはしなくていいからね!?」


 というか、お姉ちゃん事務所内で僕のことを布教していたらしいのが、すっごく複雑なんだから!


「まったくもう……それで、電話はこのことでいいの?」

『うん! この感動を、一刻も早く伝えたいと思ったから!』

「そ、そっか」

『あ、じゃあ私、明日も朝から配信があるから、またね!』

「うん、またね、お姉ちゃん」

『はいはーい! それじゃあ、愛してるよー! んちゅ!」

「あ、あはは……」


 最後までテンションが高いお姉ちゃんに苦笑いしながら、通話は終了となった。

 途端に静かになるお部屋に、僕はふぅ、と一息ついてから天井を見上げる。


「……VTuberかぁ……」


 まさかこうなるなんて、去年までの僕からじゃ想像もできなかった事態だよね……。


 そもそも、以前からお姉ちゃんが僕をVTuberデビューさせようと画策していたみたいだし……なんだかそれがコネで合格したみたいな気がして、すっごく申し訳なくなるんだけど……だって、あの場には僕以上に本気でなりに来た人だっているわけで……。


 なのに、事務所にいるお姉ちゃんのコネを使って、っていうのがなんだか心が痛くて……ちょっと、マネージャーさんと話してみよう。

 この胸のもやもやをどうにかしたくなって、僕はマネージャーさんに電話をかけた。

 すると、すぐに通話が繋がる。


『もしもし、椎菜さんですか?』

「あ、はい。椎菜です……」

『どうかなさいましたか? お電話をかけて?』

「は、はい。あの、実は、ですね……一つ訊きたいというか……率直にお尋ねするんですけど……僕って、実質お姉ちゃんのコネで合格したような気がしてて……その、他にオーディションを受けに来た人に申し訳ないと思ってしまったといいますか……」


 と、僕は自分が思っていることを正直にマネージャーさんに話した。

 その途中、マネージャーさんは黙ってお話を聞いてくれて、話し終えると、うんと一つ頷いてから話し始めた。


『そうですね……まずこれは言えるんですが、コネではありません』

「……そ、そうなん、ですか?」

『はい。たしかに、愛菜さんから椎菜さんのことはよく聞かされておりました。趣味嗜好。性格。好きな物に嫌いな物。それから、以前ご友人とおふざけで撮った実況動画なんかも』

「ちょっと待ってください!? え、実況動画? 今、実況動画って言いました!?」


 聞き捨てならない単語が聞こえて来て、僕は慌ててマネージャーさんに尋ね返した。

 すると、特に悪びれた様子もなく、マネージャーさんが答える。


『そうですね。普通に上手かったので、応募してきた時は確実に一次合格にしようと思ったわけですね』


 お姉ちゃん、どうやって僕のおふざけ動画を入手したの……?

 すっごい謎だし、怖いんだけど!


「そ、そんな経緯があったなんて……じゃ、じゃあ、二次面接は? 二次面接はどうして……?」

『前も言いましたが、顔と声ですね。あと、噛んだ時の可愛さが天元突破していたので』

「えぇぇぇ……」


 理由がすごくしょうもない……あ、でも、VTuberは声が大事だし……しょうもなくはない、のかも?

 でも、碌に面接をしないまま合格にするのはちょっと……。

 それに、Vtuberに顔っている……?


『まあ、私たちの目に狂いはなかったみたいですけどね』

「そ、そうですか?」

『はい。初手ミュート芸をやらかし、かと思えば微笑ましい噛み芸も披露。さらには、可愛らしい声に、なぜかえんがわについて熱く語りだす……初手であれは、かなりの人たちの心を掴んだことでしょう。三期生の皆様は全体的に質が高く、同時にチャンネル登録者も初回配信からそれなりに付きました』

「ち、ちなみに、僕の今のチャンネル登録者数ってどれくらいなんですか……?」


 チャンネル登録者の話が出て来て、ふと気になったことをマネージャーさんに訊いてみる。

 配信中とその前後は緊張で碌に周囲が見えなくて、とんでもないことになっていたからね……なので、見る暇なんてなかったんです。


『そうですね……二万弱くらいでしょうか』

「そ、そんなに!?」

『はい。他の方たちも一万五千人以上はいますよ』

「ふわぁぁ~~~……そ、そんなに付いたんですね……な、なんだか、驚きです……」

『事務所だからこそ、ではありますね。一期生と二期生の今までの頑張りのおかげで、こうしていいスタートダッシュを切れていますから』

「なるほどです……ありがとうございました。マネージャーさん。なんだか安心しました」

『いえいえ。これもお仕事ですから。また何かお困りごとがあればいつでも仰ってください。それでは失礼します』

「は、はい、失礼します」


 通話終了。


「……よかったのか、よくないのか……わ、わからない……」


 ただ、少なからず好印象ではあるみたいだし……う、うーん……ただ、あのキャラで行くのかぁ……。


 僕、精神が持つかな……。

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