#5 外では日傘を買い、コラボ前はやっぱり緊張

 翌日。


「はぁ……たまには散歩した方がいい、か」


 Tシャツに短パンという、最早この姿になってからの基本状態になってしまった服装で外に出た僕は、溜息を吐きながらひとりごちる。


 理由は、


『椎菜ちゃん、ずっとお家にいるんでしょ? なら、少しはお散歩すること! ずっと家にいるのは体に悪いよ?』


 というお姉ちゃんからの連絡があったからです。

 仕方ないので、外に出てみたんだけど……。


「暑い……」


 今は八月真っ只中であり、真夏真っ盛り。

 外はとてつもなく暑く、外に出た瞬間からじっとりとした空気と熱気が、エアコンが効いたお部屋でだらだらしていた僕の体を包み、一瞬で汗が噴き出した。


 しかも、今日はカンカン照りなので、強い熱を持った太陽光が今の小さな体に突き刺さる。


 ……今ってかなり色白になっちゃってるし……これ、多分だけど日焼けしたら相当痛い、よね……?


「……この体になってから食費も少しは抑えられているし……それに、全然お金も使ってないし……日傘でも買いに行こうかな」


 今後、必要になるかもしれないと思ったのと、少し肌が痛くなってきたので、それをどうにかするために僕は近くのファッションセンターくまむらへ向かうことに。


 というわけで、お店の中に入ると、ひんやりとした、死ぬほど暑い空気にさらされ続けた僕に、まるでオアシスのごとき涼しさの室内が僕を出迎えた。


 あぁぁ~~~、涼しぃ~~~~……。

 あまりの涼しさに、思わず頬が緩む。


 って、いけないいけない。今は日傘を買いに来てるんだった。


「えと、日傘、日傘……うっ、下着売り場が近い……」


 日傘コーナーへ行くと、すぐ隣が女性用下着売り場になっていて、すごく小さな呻き声を漏らした。


 ……はい。今の反応でお察しの通り、僕は未だに胸は包帯でどうにかして、パンツも……お察しです。

 だって、元々僕男だよ!?

 三週間近く経っているとはいえ、すぐには無理だよぉ!


 で、でも、いつかは買わなきゃいけないと思うし……い、いつか、いつかね? うん、いつか買います……。


 そ、そんなことより、日傘日傘……。



 結局、白の可愛らしい日傘をなぜか購入。

 よく街で見かける大人がしているような、普通の日傘にしようとしたら、店員さんに、


『あなたのような可愛い子はこっちがお勧め! と言うかこっちにしてくださいお願いしますっ!』


 って熱意たっぷりにに言われてしまったので、そっちを買いました。

 ただ、値段的にはこっちの方が安かったし、サイズ感も丁度良かったからいいんだけど……。


「うーん……それにしても、やっぱり視線がすごい……?」


 ちらちらとすれ違う人達に見られるのがなんだか落ち着かない……。


 たしかに自分でも可愛いとは思うけど……芸能人を見てると、僕よりも可愛くて綺麗な人は多いと思うんだけど……それとも、この胸かなぁ? 身長の割にそれなりに……ううん、かなり大きいもんね、これ……。


 Tシャツのサイズが大きいから、ちょっとだけぶかぶかになってるんだけど、そのせいで少しだけ胸元が見えちゃってるし……まあでも、元男だからかなぁ……不思議と、これくらいじゃ恥ずかしいとは思わない辺り……。

 それに、女装自体も割とさせられてたし、ね……。

 それもあるんだと思う。


「はぁ……もう少しだけ歩いたら帰ろう……」


 夏休み終了まで、残り二週間程度しかないからね……。

 その間に、学園に通うための心の準備をしておかないと……。


 ……そう言えば、最終日より少し前に制服が学園に届くって言ってたっけ。

 その時に書類を書かなきゃいけないってお話は聞いたからいずれは行かないといけないんだけど……正直、不安しかない。


 うーん……まあ、でも、多分何とかなる、よね?


 ……お友達のみんなに変な態度を取られないか心配だなぁ……。



 あの後、家に帰宅してからの僕は、久しぶりの外と散歩による疲労で夜ご飯を作る気力がなくなって、出前を取ることにしました。


 え? それまでどうしてたのって? ネット通販って便利だよね。食材も買えるんだもん……割高な気がするけど……。


 そんなわけで、出前したお弁当を食べて、お風呂に入って一息ついていると、ディスコードに連絡が入っていた。

 見てみれば、三期生のサーバー内で、明日のことを軽く話しているみたいだった。


『ましゅまろ見た見た!?』

『ん、量がかなり来てた』

『すごかったわねぇ~』

『だよねだよね! 明日が楽しみだなぁ! みたまちゃんだけオンラインなのは残念だけど……』

『ご、ごめんなさい……』


 はつきさんが僕について言及していたので、つい謝罪から入ってしまった。

 なんだろう、一人だけオンラインで申し訳ない……。


『あらぁ~、みたまちゃんだわぁ~。こんばんはぁ~』

『こ、こんばんは……』

『チャットなのに、緊張してる?』

『す、すみません、みなさん、僕よりも年上みたいですから……』

『あはは! 気にしなくていいよいいよ! 年上って言っても、一回りも離れてる! ってわけじゃないからね! あ、あたしは大学二年生!』

『私は会社員で、歳は23歳。辞表提出済みで、今は有給休暇中』

『わたしはぁ~、22歳よぉ~』


 それなりに年上でした……。

 というか、お姉ちゃんとそんなに変わらないんだ。

 あと、何気にいるかさんがすごいことを言ってる……。


『え、えと、僕は16歳で高校二年生です……』

『知ってるよ! 初配信の時に言ってたもんね!』

『あ、あはは……』

『ところで、明日の配信は大丈夫?』

『は、はい。正直緊張でガッチガチになると思いますけど……だ、大丈夫、です。多分』

『大丈夫大丈夫! あたしたちでフォローするから!』

『そうよぉ~。だから、安心してねぇ~』

『ありがとうございます……』


 うぅ、みんないい人だよぉ……すごく温かいよぉ~……。

 なんとか、明日頑張れそう……。



 そうしてコラボ配信当日。


『というわけですので、ましゅまろは誰でもいいので、配信内で適当に選んで読み上げてください。頑張ってくださいね』

「は、はひっ!」

『大丈夫です。他の皆様には、年下で少し恥ずかしがり屋であることを伝えてありますので、フォローしてくれますから』

「あ、ありがとうございます……」


 マネージャーさん、そんなことをしてくれてたんだね……でもね、僕……中身男なんですよ……少し情けない気がするんですけど……今は外見通りの女の子かも知れないけど……。


『それでは、健闘を』

「なんかおかしくないですかそれぇ!?」


 ぶつっ。

 あ、切れた。


「マネージャーさん、結構自由……?」


 まあ、もういいかな……。

 色々と諦めて、送られてきた配信の仕方という説明書のようなものを読みながら、配信の準備をしていき、なんとか準備完了。

 あとは、配信時間を待つだけ。


 ちなみに、今回の枠ははつきさんということになっています。

 今後、四人でのコラボ配信の時は、順番に枠を取って行こう、ということになっていて、最初がはつきさん。次がいるかさん、その次がふゆりさんで、最後が僕という順番。


 そして現在、はつきさんの配信画面には猫耳で金髪碧眼に、大きなリボンが胸元に付いたワンピースっぽい衣装を着た美少女アバターが、『ちょっと待ってね♪』という文字と共に可愛らしいポーズで映っていました。

 待機画面はあんな感じみたいです。


 可愛い。


 コメント欄では、僕たちそれぞれのファンの人たちが待機中みたいで、『待機!』というコメントが一番多く、中には一昨日の感想を思い思いに呟く人たちもいる。

 その中に、僕のことを『可愛いロリ』とか『えんがわお狐ロリ』とか『声が天使なのに好物はえんがわで渋い』とか、そんなことが書かれているのを見つけて、なんとも言えない気持ちに……。


 そんなコラボ配信の現在の待機人数は3万人ちょっと。

 二度目の配信でこれは多いのか少ないのか……どうなんだろう?

 でも、まだ待機時間だから、本番が始まるともっと増えるかも。


「はぁ、はぁ……き、緊張する……!」


 今回は前回とは違ってコラボ……初回配信とはまた違った方向性の緊張で、またしても手汗とか全身の汗とか震えがすごい……。

 三人は慣れたように話していたのがすごいと思ったけど、僕にはまだまだ無理そう……。

 なんて思っていると、遂に配信開始の時間になった。


 そうすると、初回配信の時とは違う短めのオープニングムービーが流れて、画面に四人の美少女アバターが映し出された。


 一人は、金髪碧眼の猫耳美少女で、一人は頭にイルカの髪飾りを付けた蒼い髪の美少女で、ふんわりとした海をイメージしたドレスを身に纏っていて、一人は薄桃色の髪に、真っ白な着物……? を着たお姉さんな印象の人が、そして最後は狐耳の巫女服のようなものを着た少女、神薙みたまがそれぞれ画面に映っていた。


 そして、コラボ配信が始まる。


======================================

 例によって、今回も微妙な感じになったので、午後に掲示板回をぶっこんどきます! 15時です! まあ、読まなくてもOKですが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る