出会い
テスト最終日の午後。
テストは午前中に終わり、テストから解放された生徒たちは颯爽と校舎から出ていく。
俺もさっさと家に帰ってゲームをしているはずだが、実際は誰もいない旧校舎の新聞部室にいた。部室のパソコンからアーカイブ記事を検索して、特集のネタの着想を得られるのではと考えたからだ。
(そもそも、人気の記事ってなんだろ。)
記事一覧を累計購読数の多い順に並び替えて検索する。
(そうきたか・・・)
累計購読数の上位を占める記事は、有名人へのインタビューや校内掲示板、文化祭レポートが上位を占めていた。たしかに、三つとも生徒の目を引く内容であるが、有名人と接点はないし、校内掲示板は夏休みまでに間に合わない。そして、文化祭は時期が異なるので論外である。
(やばいぞー。)
誰もいない新聞部室を見渡す。
机の上には、没となった原稿やメモが山積みとなっている。
自分の机は特に汚い部類だが、他の部員の机も整頓されているとは言い難い。
(前はがんばってたなぁ・・・)
一年生の頃、ちょうど今ぐらいの時期だ。この机の隣の矢板と次の記事をどうするか話し合っていた時を思い出す。あの頃は新聞部のやり方に慣れてきて、これからの可能性に心を躍らせていた。それが今となっては、退部を逃れるために一人でネタ探しをしている。別に、仲間を失ったわけではないが、落ちぶれた自分と誰もいない部室が相まって、悲壮感がただよう。
ガサッ
「!?」
自分以外に誰もいないはずの部室で物音がした。音のした方を見る。
だが、誰もいない。
(気のせいか?)
音は今自分が座っているところから離れた、部室の壁際のラックあたりで鳴った。何が鳴ったのだろうか。もやもやする気持ちを晴らすために、音の鳴った方向へ恐る恐る近づいてみる。
(ビビらすなよ・・・)
ラックの前に古い新聞紙が落ちていた。恐らく、これが落ちて音がなったのだろう。
そう思い、新聞紙をラックに戻そうとした時、ある新聞の内容が目に入った。
(消えた集落か・・・)
見出しには、"消えた集落"、そう書かれていた。これによると、この新聞が出版される十年前に放棄された集落を取り扱っているらしい。
この記事の最後には、"一部の人は、この田気集落を超自然的な現象が襲ったと仮説を立てている。一見、身勝手な妄想のように聞こえるが、筆者は取材をする中でこの仮説に疑問を抱かなくなった。いずれにせよ、この集落でその日何が起きたかは謎のままだ。"そう綴られていた。
田気集落についてパソコンで調べてみたところ、1996年に放棄された集落で、元々集落があった場所は禁足地になっているとのこと。前々から不可解な現象が多いと語られていた集落らしい。都市伝説として有名になってそうだが、意外とそんな様子もない。放棄されてから今に至るまで、集落に足を踏み入れた者はいない様子だった。
(心霊か…)
ふと、先週の部長の言葉を思い出す。
昨年、特集記事で人気があったのは心霊ものだったらしい。
(不気味だな…)
自分たちの窮地から部長の発言、突然落ちた新聞紙、そしてこの集落の話まで偶然と言い難く、不気味な運命のようなものを感じた。
ただ、心霊ものとしてポテンシャルは十分あるネタであるし、個人的にも気になる内容だ。
(これに決めた。)
長く悩んだ末、記事のネタは田気集落にすることとした。
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