第5話幻想に浸る
とある日、私の頬の傷の理由を知った親から「狂っている」と罵られた。鼻で笑い飛ばしてやった。自分でもそうだと分かっているので、罵られようが蔑まれようが特に気には留めない。
「これが私とあの子の愛なのだ」と私が答えた時の親の顔といったら。苦虫を噛み潰したようなその表情は、怒りなのか悲しみなのか。今になっても分からない。
とある日、私の頬の傷の理由を知った香織から「可哀想にね」と泣かれた。同情なのかと尋ねたら違うと首を振られたので、只々戸惑った。何故香織が泣いているのか、分からなかった。
「私は幸せだよ」
私がそう言って慰めた時の香織の反応といったら。「だからだよ」と一言呟いて、大きな瞳からボロボロと涙を零すだけだった。あの言葉の意味は、どんなに考えても分からない。
面倒くさいことや分からないことは、放っておくに限る。
深く考えることを拒否した私を前に、親や友人の意味深な表情と言葉は、記憶の片隅にポツンと突っ立つことしか出来なかった。
周囲からの問いかけは、現実への誘いであることを私が一番よく知っていた。それでも私は、幻想の至福だけを貪っていたかったのだ。
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