第4話狂う
あの子が死んで以来、私はあの子の爪を優しく手に取り、自分の頬に突き刺す事を日課にしていた。
その甘美な痛みに、私の唇は歪に弧を描く。
あの子の体から離れたばかりの爪はとても柔らかで、頬に突き刺すたびに軽くしなっていた。しかし月日が過ぎて彼女の爪はかつてのしなやかさを失い、白さを失い、固くなり薄らと黄ばんでいる。
あの子が老いていくようで、酷く悲しかった。けれどいくら老いて古びて朽ちようとも、この爪はあの子の一部であることに変わりはない。この爪は確かにあの日まであの子の指先と繋がってたのだ。
あの子の爪先が私の頬をチクリと刺している。私に触れている。あの子に愛されているのだ、と錯覚する。
あの子はすでに、火葬された。この世に残るあの子の体は、もはや私の手元にしかない。
今、あの子に触れられるのは、あの子に触れられているのは、この世で私だけなのだ。これを愛と呼ばずして、何と呼ぶ。
グリグリとあの子の爪で自分の頬を抉る。頬の一部が熱を持ち、突き破られた皮膚から生温い感触がつつ、と伝う。頬の傷が増えるたび、私はあの子をより近くに感じることが出来た。
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