第14話 ヤりたかったの?

「恭二!! どういうことなのか詳しく訊かせてもらうぞ! 姫乃姉妹とスパリゾート涼音へ行った挙句、オイシイ目に遭ったなんて、恭二……お前、どんな手を使ったらそんな急展開になるんだよ!」


 何気ない日の昼休み時間。


 俺から明かしたでも無い姫乃姉妹とのイベントのことを知った溝江貫太率いるクラスの男子数人が、血相変えて俺に詰め寄ってきた。


 いつも学食オンリーな男子が、今日はパンの気分だと言って購買部で先に買ってきたパンを手にして教室に留まっていると思ったけど、その理由はこぞって俺に詰め寄るためだったらしい。


 運がいいのか悪いのか教室の中は見事に野郎ばかりで、冴奈は堀川が気を利かせ女子たちと学食に行っててこの場にはいない。


「なぁ、名川。どんな手を使ったんだよ?」

「正直に吐けって! 難攻不落の双子姉妹がお前の誘いでプールとか、どんな弱みを握った?」


 何て人聞きの悪いことを。


「スパリゾートのことは修斗に訊けば教えてくれると思うけど……」


 俺の言葉に男子たちが顔を見合わせたかと思えば呆れ顔になったうえ、首を振りながらすぐに反論する。


「正木? サッカー部は数日前から合宿でいないだろ。この期に及んで正木のせいにするつもりか?」


 一応俺もサッカー部なのに合宿でいないとは知らなかった……。


「まあ、待てお前ら。恭二が嘘をついてないかはこのオレがよく知っているからな。ここはオレに任せろ! 後で詳しく報告するから」

「溝江が言うなら引き下がってやる」

「頼むぞ、溝江!」


 ……などと、俺じゃなく溝江の言葉に素直に従って野郎どもは俺の周りからいなくなった。


「……で、真相は?」

「溝江にお任せとか、随分と頼もしいことだな全く」

「オレのことは貫太と呼べよ。ダチだろ?」

「貫太なら俺のナゼが分かるだろ……」


 溝江呼び改め、貫太の奴が俺に理由を訊いてくるということは、修斗からは何も聞かされていないということを意味する。


 仲が良さそうでそうでもないってことなんだろうけど。


「修斗がお前のことをオレに話すと思うか?」

「……思わない」


 いつも堀川と行動する貫太とサッカー部の修斗では話が合わなそうだし。


「だろ? ダチのダチはダチってことでもないからな!」

「紛らわしいな」

「――で?」

「でも何も、スパリゾートのチケットを修斗からもらったから試しに姫乃姉妹を誘っただけだよ。誘ったらついてきた……それだけ」


 何も問題は起きていないわけだし、深堀りされるでもない。


「それだけだ~? そんなわけないだろ! お前、朝から今の今まで姫乃冴奈と話が出来てないだろ? 違うか?」

「だって堀川とか女子がガードしてるから」

「それはちげー! 堀川が言うには、姫乃冴奈はお前の手でヤられてショックだったって聞いてるぞ? 恭二だけがオイシイ目に遭ったってこともな!」


 俺だけオイシイ目に遭った?

 それに俺に何をヤられたって?

 俺の記憶だと、姫乃姉妹の肩を抱いて肩を触りまくっただけなんだけど。


「お前のことだからどさくさ紛れに姉妹のおっぱいを同時に揉んだとか、水着姿を上から下まで舐め回すように眺めまくったとかじゃねーの?」

「それはさすがにない! 俺がしたのは姫乃姉妹の肩を抱いたくらいで……」

「はぁ? 肩ぁ? お前それは酷すぎねえ? ――って、あ……と、とにかく素直に謝っとけよ!! じゃあな、恭二!」

「何を謝れっていうんだよ? 逃げるなっての!」


 昼休みはまだ時間に余裕があるうえ、他の男子たちは適当飯を食べ終えくだらない話で楽しそうにしている。


 それなのに貫太は逃げるかのように、男子たちの方に行ってしまった。

 何なんだよ……まだきちんと理由を話して無いだろ。


「…………恭二くん、やっぱりヤりたかったの?」

「えっ」


 隣の席ではなく、背後から聞こえてくる声からは少しだけ怒りのような波動を感じた。


 その声の主はもちろん――


「――さ、冴奈さん!? え、いつからそこに?」

「どうなの? 姫乃姉妹とヤりたくて誘ってくれたの?」

「それの意味が何なのか分からないけど、俺が誘ったのは姫乃姉妹と遊びに行きたかっただけで、そこに深い意味は……」

「…………(堀川さんたちの言ってることと違うけど、どっちが本当なんだろ?)」


 俺の答えに冴奈は首を傾げつつ、怒りが収まったのか自分の席に座った。


「な、何か久しぶりに話す気がするね?」

「……うん。ごめんね、恭二くんを放っておいてずっと女子たちと一緒にいて」

「え、あ、うん……」


 などと、何故か冴奈が俺に頭を下げている。


 てっきり堀川が強制的に冴奈を俺から守っていたのかと思っていたのに、冴奈の方から女子たちについていたってことなんだろうか。


 教室の空気は何となく緊張感に包まれている気がしないでもないものの、冴奈と話す俺に女子が変な視線を浴びせてるでもないから気にしなくても良さそう。


「あのね、聞いたの」

「……な、何を?」

「恭二くんがわたしの胸を揉みまくったのは、ヤりたいのが目的だって」

「――ふぁっ!? え? 揉みっ……え? いつ?」

「スリリングスライダーの時……だよ?」


 スリリングスライダー……スパリゾート――。

 

 あ、あ~……。

 肩だとばかり思っていたのに胸だったとか、まさか、そんな……。


「恭二くん、わたしとヤりたかったの?」

「えっ……いや、あの……」


 これはの意味で合ってるんだよな?

 

 ピュアそうな冴奈から出そうな言葉の意味じゃなさそうだけど、それで合ってるとしたら俺は正直に言うべきなんだろうか?


「……正直に訊かせて?」

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