第13話 姫乃姉妹はつなぎたい 後編

「え~と……どっちか手を離さないと駄目みたいなんだけど……」

「ふざけるでない! あたしの手を離すのは許さんからな?」

「じゃ、じゃあ……冴――」

「恭二くん。駄目……なの?」


 まいった……。

 まいったな。どうして二人とも俺から離れてくれないんだ?

 

 ここの一番人気だというスリリングスライダーは全長数百メートルもある滑り台で、専用の浮き輪に乗って滑っていくらしい。


 それに乗りたいと言うから頂上に上がってきたのに、まさかの定員制で三人同時に乗るのは危ないという。


 正確に言えばかなり密着すれば乗れるものの、今の姫乃姉妹がそこまで俺にくっついてくれるかというとそれは疑問が残る。


 その結果として、誰かがここで待機して次に乗るってことになったわけだが……。


「駄目も何もよほどくっつかないと駄目っぽいから、それだと厳しいかなぁと」

「わたしはいいよ?」

「……ふん、冴奈がいいならあたしもいいに決まっているだろう?」


 ――といった感じで、どっちも譲るつもりはないらしい。


「う~ん……」


 平日なのが幸いして後ろにあまり並んではいないものの、このままだと変に混雑を作り出してしまいかねないし、状況的にスタッフに目をつけられてしまう。


「あっ! それなら二人だけで滑ってくればどうかな?」

「却下じゃな」

「そんなの駄目!」

「……だよねぇ」


 いよいよ行列が出来そうな気配があるので、ここは強引な行動を取ることにした。


「冴奈と美涼。手をつないだまま大人しくして」


 意地でも手を離してくれないので、二人の手を俺に引き寄せた。そのことで力が一瞬抜けてくれたようなのでそこから強引に二人の肩を抱いて、超密着状態を作り出すことに成功した。


 そのままスタッフの人に合図を送ろうとすると、気づいてくれたらしく浮き輪を押されてスリリングな滑り落ちが開始された。


「ひぁっ?」

「ひゃぅ!? き、貴様ぁ……」

「暴れると落ちるからこのまま俺に身を委ねて!」


 姫乃姉妹の肩を抱いたまま滑り落ちるということは、自分の重心だけで耐えるしかないうえ掴まるところも無いのでかなりハードな状態をキープすることになる。


 しかし――


「――き、恭二くん……つ、強く揉みすぎっ――」


 最初に反応を示したのは冴奈だった。


「えぇっ? 肩のことだよね?」

「…………(はぅぅぅ。こんな場所でこんな大胆になるの?)」


 俺の手は確かに肌すべな肩にあるはず。

 その答えを待っているのに、冴奈はすっかり黙ってしまった。


「……うううう」

 

 反対に美涼の方はずっと唸り声を上げながら体に力を入れっぱなしだ。お互い水に濡れているはずなのに、美涼の肌だけ火照っているかのように熱く感じる。


 それにしても女子の肩というか肌が柔らかいのは理解しているはずなのに、さっきから俺の両手に感じる感触は妙に生温かい気がしてならない。


 肩だから硬いはずなのに、二人とも力を入れてるせいかパンパンに張っている風船のような感触がしている。


 それともよほど肩の筋肉が硬いのか。


「も、もう少ししたら下に着水するはずだから、力を抜いて俺に身を預けて」

「……ひゃい(も、もう少しの辛抱なの?)」

「…………ふぎゅぅ(痴れ者め。覚えておれよ?)」


 結構な速度が出ているし相当な恐怖を感じているみたいだった。楽しいはずのウオータースライダーがスリリングすぎる体験になってしまうとは。


 そうこうしているうちに長いトンネルを抜けたみたいに急に視界が明るくなった。もうすぐゴールというか終わりに近づいているようで、流れる水の量が増えだした。


 そう感じた直後、バランスを崩したまま水に沈んでいた。


「うぶぶ……」


 さすがに二人の肩から手を離し、水面に顔を出すことを優先した。


「ぷわっ! ふひ~……」


 姫乃姉妹も続いて水面から顔を出しているようなので、まずはその場から上がることにする。


「あっという間だったね。二人とも、大丈夫だった?」

「…………恭二くん。恭二くんは自分が何をシたか覚えてる?」

「え?」

「貴様……名川恭二! この痴れ者め!! そこになおれ!!」

「へっ?」


 なおれと言われて何のことか分からないものの、美涼だけでなく冴奈も俺に腹を立ているようなので大人しく従うことにした。


 周りが楽しそうにしている中、二人の前で正座をして返事を待っている。


「え~と……肩、強く掴みすぎた? 痛かったのならごめん!」


 俺がそう言うと冴奈は無言で首を左右に振りだした。そのついでに彼女の肩を見つめるも、特に赤くなっていたり俺の手形がついているでもなかった。


「あっ、えっと体を密着させないと駄目だったとはいえ、嫌だったよね? 本当にごめん!」

「……それじゃないぞ、恭二! 貴様の手で感じた感触を思い出せ」

「手で感じた感触?」


 無我夢中で揉んだ……いや、パンパンに張っていたし揉んだわけじゃなかったような気がする。


 手の平に伝わったのは、硬さと弾みのある筋肉だったしそれを感じたというべきか、とにかくそんな感触だったはず。


「緊張してたのか、パンパンに張ってたよ。水から上がった今なら柔らかくなったんじゃないかな?」

「……それを恭二くんは確かめたいの?」

「どこか痛めてたら大変だし、確かめたいかな」

「…………んん」


 無表情から気難しい表情に変わった冴奈が、何か思い悩んでいる。


「貴様……初めからが狙いで連れてきたのか?」


 ん?

 何のことだ?


 連れてきたってのはスリリングスライダーのことだろうか。


「楽しそうだし一番人気だからそうかな、うん」

「そうか、貴様は楽しみたくてそれをシたわけか……男子どもの間でも一番人気の動き……か?」


 男子でもこのスリリングスライダーは人気だろうな。

 動きも激しいから間違いないはず。


「うん、もちろん! 一番人気があるよ」

「……なるほど。よく分かった」


 俺の言葉を聞いて姫乃妹は静かに頷き、冴奈と何やら相談をし始めている。この隙に俺は足を崩して楽な姿勢に直すことにした。


「美涼……どうするの?」

「こいつの所業の責任は必ず取らせる。じゃが、この場では恭二がやりたいようにやらせることにする。冴奈の心は?」


 二人は恭二を見ながら小声で話し始めた。


「わたしが先に動いていい?」

「……自分を解放して変わるつもりか?」

「うん。あんな激しく揉みしだかれたんだもん。この戦いには他の女子を混じらせるのは駄目だと思うんだ。だからわたしと美涼の二人で動こうよ」

「よかろう」

「……ん」


 う~ん……二人で何を話し合っているんだろうか?

 せっかく遊びに来たんだから他のアトラクションにも挑戦させてみたいぞ。


「恭二。待たせたな!」

「いやいや、大丈夫」

「恭二くん。今日ヤった動きを忘れずに記憶してね?」

「へっ? な、何をやったっけ?」


 訳が分からず戸惑っていると、冴奈は胸の辺りを気にしながら俺にその部分を見せつけだした。


「……恭二くん。どうしてわたしの水着……それも胸のところがずれていると思う?」

「す、水流かな?」

「ううん、恭二くんが思いきりシたからだよ?」

「え……う?」


 した?

 一体何をしたんだろう?


「でも今はこれ以上言わないから気にしないでいいからね。明日から楽しみだから。だから、今日はもう帰ろ?」

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