第12話 姫乃姉妹はつなぎたい 前編

「恭二。お前にこれ、やるわ」


 女子たちによる冴奈ガードがようやく解けた放課後。

 

 正木がヒラヒラな紙チケットを俺に見せてきた。見るからにどこかの施設のチケットっぽく、何故か一枚じゃなくて三枚もある。


「……うん?」

「やるよ。それを使って姫乃姉妹と遊んでこい」


 ……と、半ば強引に手渡されてしまった。

 そのチケットには、『正木様特別優待券』と書かれている。


「――って言われても訳が分からないんだけど? 俺に分かりやすく教えてくれ、修斗」

「見てのとおりだ。ベイエリアの近くにある屋内プールで、好きなだけ遊べる優待券をお前にやるってだけだ」

「ベイエリアのプールって、確か乗り継ぎしまくらないと行けない場所だっけ?」

「まあな。俺は部活が忙しくて行けないんだ。代わりに恭二が行ってくれ」


 ――ということがあり……。

 

「……貴様、あたしを見たな?」

「そ、そりゃあ見るよ。だって堂々と立ってるわけだし」


 タダ券を使って、俺と姫乃姉妹とで屋内プールに来てしまった。屋内プールというか、ちょっとお高い屋内温水リゾートプールだけど。


 ここではレンタルで水着を貸してくれる。俺はあまり水着にこだわる必要が無いからいいとしても、姫乃姉妹はそれぞれ好みの水着を選んだようで目のやり場に困る。


 それよりも、一番驚いたのは姫乃姉妹……姫乃美涼が素直について来たことだ。姉の冴奈は一日中女子たちに守られて俺と話すことを許されなかった反動もあってか、誘ったら速攻でいい返事をしてくれた。


 しかし姫乃妹の美涼はそんな簡単には誘いに乗らないと思っていただけに、こうして同じ場所に水着姿で立っていることには驚きしか生まれない。


「立っている? 貴様、どこを立たせている! 身に覚えが無いとは言わせぬぞ」

「ええ!?」


 まさか俺の意思に関係無く美涼の水着姿を見ただけで俺の股間が反応してるんじゃなよな?


 恐る恐る下半身に目をやると、特に何の反応も示していない。

 何て紛らわしい物言いなんだ……。


「立ってないから安心して」

「……ふん、冴奈を見てもそう言い切れるのか?」

「冴奈を? って、あ――」

「恭二くん、似合う?」


 後ろから冴奈の声がしたので振り向くと、そこには後ろ手を組んで少し恥ずかしそうにしている冴奈の姿があった。


 ここではさすがに無表情のままではないみたいだ。

 水着も普段の大人しさと違ってかなり攻めているような?


 冴奈の水着は露出多めの水色の三角ビキニのへそ出しスタイルで、いかに抜群なプロポーションかが一目で分かってしまう。


 妹の美涼は古風な性格に合わせてなのか、フリル多めのワンピース水着でやけに人目を気にしているようだ。


 姫乃姉妹のスタイルはほとんど違いは無く、出るところはきちんと出ているので姉妹揃って整っていると言っていい。


「恭二くん、着替えの最中も見たかった?」

「ははは……それは無いよ」

「そうなの?」


 ……などと、俺の視線の逸らしを気にせずに上目遣いは反則過ぎる。


「冴奈。そいつは常にエロいことしか頭にないから注意しろ! さっきまであたしの水着姿を舐め回すように見て立っていたのだからな!」

「立っていた……?」


 美涼の変な言い回しで冴奈が首を傾げながら何度も俺をチラ見してくるも、その意味まではつかめていないのか、俺の股間を見てくることはなかった。


 とりあえず美涼にはもう一度注意をしておこう。


「ちょちょちょ!! 美涼さん、それは完全なる誤解だからね? 立っていた意味もまるで違うから冴奈さんに余計な知恵を教えないでもらえると……」

「……ふん。まぁいい。それで、名川恭二」

「う?」

「あたしと冴奈をどこに導くつもりがある?」

「導くというと?」


 何だか知らないけど美涼にずっと睨まれている。


 嫌なら誘いを断ってくれても良かったのに、水着に着替えたことで警戒心が高まったのかさっきから妙に絡まれまくりだ。


「知らぬ! 貴様がここに連れて来たんじゃぞ? 貴様が分からなくて何故あたしらが分かる!」

「恭二くん。これからどうするの? どこか連れていくの?」

「……あ~」


 俺と姫乃姉妹の三人で来たとはいえ、俺の誘いでついて来たってことでここでの遊びは俺が決める必要があるって言いたいのか。


「う~んと……」

「貴様が決めろ!」

「恭二くん。激しくてもいいし、全身が濡れるのが確定でもいいよ?」

「ま、まぁ、水に濡れるのは確実だからね……」


 何だかいちいち紛らわしいのは気のせいだろうか?


「色んなプールがあるみたいだし、近くに寄ってみようか?」


 巨大な施設なだけあってかなり広いし、まずは歩き回ってみないと。


「……ん。じゃあ恭二くん、連れていって!」

「わ、分かった――って、何で右手をつかんでるの?」

「左手は美涼なの」

「……貴様の左手は預かった。右手の冴奈ともども離すなよ?」


 まさか姫乃姉妹と両手をつないだまま歩き回ることになるなんて、保護者的な立ち位置ってことになるんだろうか。


「じゃ、じゃあ歩くよ?」

「不本意だが貴様に従ってやる」

「……恭二くんと一緒! 楽しみ~」

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