第8話 ここで…はじめるの?
参ったな……何で美涼はあんなに怒っていたんだ?
「おっ? 恭二! 何だ、近くにいたんだな」
「本当だね~名川、近くにいたじゃん!」
……ん?
誰かと思えば俺を追ってきた溝江と堀川か。
店の外に出たはいいけど店の近くにいすぎたな……。
「何だよ、貫太。俺に何か用?」
「大ありだ。実は堀川とオレとで、お前をここのカフェに誘おうと思ってたんだよ」
「そうそう。それなのに名川すぐいなくなるしさ~……二人で大変だったんだからね?」
「知らないぞ、そんなの」
あ~そうか。てっきり追ってきたかと思ってたけど、そういうことなら納得出来るな。
「もしかして奢ってくれるつもりで?」
「まぁな。お詫びだ」
「お詫び?」
「……ウチたちが言ったことで勘違いさせたから、だから! でもさっきまでそこにいたから奢りは次ってことでいいよね?」
俺もついさっきまで姫乃姉妹と一緒にいたからな。さすがに同じ店に戻るのは勘弁してほしい。
「次でいい」
そのうち忘れてくれるだろうし、こいつらのことは放っておこう。
「おっけ。じゃ、帰ろうよ」
「一緒に帰るだろ? 恭二」
「……帰るだけだから帰る」
結局いつもの奴らと下校する羽目になってしまった。明日また姫乃姉妹、特に妹の方と話す機会があったら謝っておこう。
翌朝。
いつもの登校時間に学校へ向かおうとする俺の前に、普段絶対にいないはずの人が俺の前に現れる。
「恭二くん……お、おはよ」
姫乃姉もとい、冴奈が一人だけで通学路に姿を見せた。確か冴奈は誰よりも早く登校して教室で爆睡する女子のはず。
それなのに俺が登校する時間帯に通学路にいるとか、深い眠りから覚めたのか?
「おはよう……?」
「うん、朝だからおはよう……で合ってるよ」
溝江と堀川の二人は朝はさすがにいないからいいとして、何で冴奈は俺の登校時間を知ってるんだ?
「……恭二くん、気難しい顔してる? どうかしたの?」
そう言いながら冴奈は俺を見ながら首を傾げている。
相変わらず表情はあまり変わらないのに、明らかに態度が違ってるように思えるのは俺の気のせいじゃないよな?
昨日あれだけ美涼を怒らせたのに、冴奈は全く変化が無いどころか以前に比べてかなり親しいというか、積極的な態度になっている感じだ。
「ど、どうもしないよ。えっと、姫乃さんは何でここに?」
「駄~目! 冴奈って呼んで?」
あれ、こんな近い関係だったっけ?
無表情のままなのに何か突然可愛い感じになってるんだが?
「……冴奈はどうしてこの時間ここに? いつも朝早く教室にいるんじゃなかったっけ?」
誰とも関わりたくない閉鎖的な女子だったはずなのに。
「恭二くんと同じ通学路って分かったから一緒に歩きたくなったの。駄目……かなぁ?」
冴奈は俺に上目遣いで見つめながらペロッと舌を出してみせた――というか、何でこんな可愛い仕草を見せるようになってるんだ……。
俺が何か彼女を劇的に変えるようなことをしたとか?
「あ、いや……駄目じゃ……ないけど。み、美涼は……?」
「美涼……あの子はまだ時間、かかるから。先にわたし……が恭二くんに――するの」
途切れ途切れでよく聞こえないな。
ただ、妹の美涼の方は元から俺をよく知らなかったみたいだし、同じクラスでもないから打ち解けるのは簡単じゃないってのは分かる。
「そ、そうなんだ……じゃあえっと、一緒に歩く……でいいんだよね?」
「うんうん!」
「でもあの、誰かに見られるのは確実なんだけど、それはいいの?」
「……何が駄目……なの?」
色々なウワサがある俺と歩いてるだけで西夏学園に衝撃が走りそうだけど、冴奈はあまりというか、自分たちがウワサになってることも知らないんだろうな。
「駄目なのは俺だけだから気にしないでいいよ」
気にしてるのは俺だけか。
「……ん、そうするね」
同じ所に向かって歩いてるだけだし何も問題は無いよな。単に俺が気にしすぎなだけか。よっぽど手とか繋いでいれば問題は起きないだろうし。
「――って、冴奈さん……? 何で俺に体当たりを?」
と言っても、痛みとかがある体当たりじゃなくて、歩いてる最中に一定間隔で横から体をぶつけられているだけだけど。
「だって、恭二くん速い」
「速い?」
「本当は……繋ぎたいけど、まだそんなの早いし……でも全然、気にしてくれないから、だから……」
表情はよく分からないけど、ちょっとだけ頬を膨らませてる気がする。何もしてないはずなのに怒らせた?
「と、とにかくもうすぐ学校に着くから機嫌直してもらえると~……」
「…………(ん~どうしよっかな?)」
多分ブチ切れな様子。このまま教室までそっとしておくのが正解だろうな。
ただ横に歩いている冴奈とともに学校にたどり着いた。そのまま昇降口に入ると、いやに照明が暗くなっていることに気づく。
……照明切れか?
しかし靴の履き替えには何も問題無いので気にせずに足を上げようとしたものの、足下が少し暗くて段差につまずいてしまった。
西夏学園の昇降口はあまり段差が無い。しかし今日に限って薄暗かったことが災いして、バランスを崩した反動で床マットに両手で手をついて難を逃れた。
――はずだった。
「……恭二くん、ここで……はじめるの?」
「へっ?」
何を始めるのだろう……などとのんきに思う俺の真下には、何故か何かの覚悟を決めた冴奈の全身があった。
「……いいよ?」
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