第7話 頼ってこい! 

「き、貴様……貴様はもう呼吸するな!」

「えぇ!?」


 姫乃妹に注意されて向きを変えてもこっちは何故か……。


「く、くすぐったい……」


 ……って感じで、姫乃姉の方は敏感に反応されて変な雰囲気が作り出されてしまう。俺が小部屋に隠れなければこんなことにはならなかったわけだけど。


 せめてあいつらが店から出て行ってくれれば……そしたら全て解決するのに。


「おい、貴様。この状況を作り出した貴様が今一番頼りたいのは誰だ? もしあたしに頼るなら、ここでのことは不問にしてやる」


 いきなり何かと思えば、頼れだって?


 姫乃妹――といっても同学年だけど、もしかして人に頼まれたら断れないし嬉しくなってしまうタイプだったり?


 姉の方はすっかりこの状況に変な期待をしてるみたいだしよく分からずに興奮状態にあるからそれはまだいいとして。妹の方は最初から俺に厳しいし、逃げ場が無い以上黙って頼んだ方が俺的にはいい気がするな。


 不安なことと言えば、頼んだ見返りを後で求められてしまう恐れがあることだ。もっとも今のところ姫乃妹は、俺のことを敵とみなしているわけだから多分すぐさま求めてくることはないと思うんだよな。


「恭二くん、美涼はわたしよりしっかり者……だよ? だから、大丈夫」

「え……? あ、うん」


 姉のお墨付きってやつか。


「分かった。姫乃妹に頼むよ」

「美涼だ。貴様の頼み事を聞く代わりにあたしのことは美涼、冴奈のことも冴奈と呼べ。分かったか?」

「えっと、それは学校でも?」

「無論だ! いつでもどこでも名前で呼べ。いいな?」


 双子姉妹とまだそんなに仲良くなったわけじゃないのに名前呼びとか、ますます変な異名が広まりそうだな……。


「じゃあ美涼さん。実は店内に同じクラスの奴がいるんだけど、そいつらに見つかると厄介なことになるから、そうならないように俺を外に出してくれないかな?」

「ふん、何かと思えばそんなことか。そんなもの、堂々と見せつけてやればよいのだ!」


 双子姉妹とデートしてたぜ。とか見せつけるのはさすがにキツイ。


「あ、いや、それだと教室で面倒なことが起きるから……」

「……面倒な奴め。それなら恭二。今回は貴様の奢りをあたしが払ってやる! だから、その隙に冴奈と店を出ろ」

「え、でも……」

「つべこべ言うな! 今回の貴様の頼みはあたしに会計を代わりに頼んだってことにしておいてやる。後できちんと返してもらうが、それで済む話だ。いいな?」


 これはもう美涼に頼むしかなくなったか。


「分かった、美涼さんに頼むよ」

「御意。ならば貴様と冴奈は外に出ておけ!」


 元はと言えば俺が勝手にここに隠れたうえ変なことになりかねなかっただけなのに、古風で厳しいイメージがあった美涼は意外と優しい子なのかもしれないな。


 ……ということで、会計近くにいた堀川&溝江の二人から見つからないようにして、俺と冴奈だけ外に出ることが出来た。


「……恭二くんが見つかりたくない……のは、わたしを一緒にいるところをウワサされたくないから……?」

「いや、違うよ」

「じゃあもっと一緒にいていいの?」


 ……ん?

 この言い方はどういう意味なんだ?


 そもそも席が隣なわけだし、いつも一緒にいるようなものだから答えは『はい』で合ってるはず。


「そりゃあね。いつも顔を合わせる距離にいるし、離れる方が不自然になるんじゃないかな?」

「……う、うんうん! そうするね!」


 握りこぶしで喜ぶなんて、そんなに嬉しいことを言っただろうか。


 え?

 間違ったこと言ってないよな?

 念の為もう一度冴奈に訊いておくべきか?


「あ、あの、冴奈……さん?」

「おい」


 冴奈に声をかけようとしても何かぴょんぴょん跳ねてて可愛い……じゃなくて声をかけられそうにないな。


「おい貴様!!」

「はっ、え?」

「あたしに視線を送っておきながらフルシカトするとは、貴様はそんなにあたしが嫌いか?」

「ち、違う違う」


 あれ、何でこんなに怒らせてるんだ俺……。


「冴奈! 帰るぞ!!」

「え、うん」


 あああ……せっかく打ち解けるチャンスだったのに、何であんなに怒らせてしまったんだ……。

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