第16話 俺たちの戦いはこれからですぜ兄貴!

 俺と大山が殿しんがりとしてのんびり街に戻ると、既にギルドの周りが大騒ぎになっていた。


「ほ、本当にアンタたちが全部やったのか!?」

「これはあたしが盗賊に盗まれたやつだよ! ありがとうねぇ取り返してくれて!」

「娘を! 娘を助けてくれてありがとう!」


 街の人に囲まれていた染井は俺を見つけると群衆をなんとか抜け出し、こちらへ駆け寄ってくる。


「助けてくださいお頭! 俺はカタギと話すのは苦手なんだ!」

「神代はどうした?」

「神代の若頭は報酬を受け取ってさっさと宿に戻りましたよ! マサも向こうですぜ!」

「吉野もか……」


 俺と大山もこういう場は慣れていない。

 どうしようかと困惑していたところに、あの受付嬢がやって来た。後ろからギルド長らしき初老の男もついてきている。


「あ、あの! 先程は失礼な態度をとってしまい申し訳ございませんでした! 皆様のお陰で街は救われました! 本当にありがとうございます!」

「私からも礼を言わせて欲しい。ありがとう!」


 二人は俺たちに深々と頭を下げた。


「い、いや、俺たちは自分たちのシノギを見つけるために、……金のためにやっただけだ。感謝されるようなことじゃ」

「それでも、街を救ったのは事実です! 改めまして、私はこの街の冒険者ギルド長を務めております──」


 お偉いさんの登場に騒ぎはどんどん大きくなり、人が次々に集まってくる。


「ちょ、ちょっと俺たちは急がなきゃならねぇんだ! また今度なギルド長さんよ!」

「ああ! お待ちを!」

「行くぞ大山! 染井!」


 俺たちは走ってその場を脱し、宿屋へ向かった。









 街の人に見つからないようなんとか宿屋に帰ると、宿屋は宿屋で大騒ぎをしていた。


「本当に凄いです!」

「そうでしょう? ウチの男どもは凄いんだから!」

「……ロン、あんまりおだてるな。そしてお嬢、なんでお嬢がそんなに自慢げなんですか……」


 そう言ってもお嬢は俺の言葉など意に介さないようにロンとカレーンに演説を続けていた。


「おい吉野! これはなんの騒ぎだ!」

「ああお頭! ……ここを買ったんですよ。このたんまりある報酬の一部でね!」

「買っただと!?」


 カウンターの向こうで店主はちじこまって「へへへ……」と笑っている。


「聞いた話じゃ、これだけあれば組員全員が一年暮らすのに十分だそうです。ギルドでの稼ぎば馬鹿にならない。なら、あのシノギを俺たちが独占してこのシマを本拠地に活動していくのが何かと都合がいい! だったらこの宿を買い取って事務所にしようって事になったんですよ!」

「な……! アンタはそれでいいのか?」

「まあ、このご時世ではどの道宿屋にお客は来なかったので……。それにこれからも料理や掃除の雑用として雇って貰えるならむしろ願ったり叶ったりとも……」


 微妙な歯切れの悪さは、きっと極道流の交渉で値切られたりしたのだろう。だが本人も納得して契約書にサインしたのなら問題はない。


「なあ兄弟! この世界には俺たちを縛る法律はない! むしろ皆に感謝される仕事ができるんだ! ……俺たちでもう一度、櫻庭組の名前をこの世界に轟かせねぇか!?」

「やりましょうお頭!」

「お頭!」

「桜木のお頭!」


 もう吉野はその方向で諸々を進めている。神代や他の組員たちの思いも痛いほど理解できる。こんなに生き生きしたお嬢を見たのは初めてだ。

 こうなればもう迷う余地はなかった。


「……よし分かった! これから櫻庭組はここキルシュバオムの街をシマに、異世界の裏社会も表世界も牛耳ってやろうじゃないか! 櫻庭組の伝説的、第二章の開幕だ!」

「「おおおお!!!!」」






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

あとがき


 皆様ご愛読ありがとうございました! 本作は初めて書く本格的バトルもの、ヤクザものとしての挑戦的な作品でした。そのため短編としたのですが、もし反響があればここまでをプロローグとして全体を中〜長編にするプロットもあります。よろしければ評価、感想から皆様のご意見・ご感想等のお声を頂けたらと思います。

 次回作、あるいは続編もよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

破門極道異世界組〜最凶の漢たちは異世界の裏社会を牛耳ります!異世界にカチコミじゃァ!〜 駄作ハル @dasakuharu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ