第13話 二代目櫻庭組、始動ですぜ兄貴!

 次の日から本格的に俺たちの異世界生活が始まった。


「──俺が組長ってなると、組織図を書き直さないといけないな」


 順当にひとつずつ位を上げればいいと言うほど単純ではない。


「俺が組長なら、まずここにいる全員と親子の盃を交わさないとな」

「すいません兄貴、水しかないそうです」

「いやそれで十分だ」


 特定の手順を踏み、最後に木の器に満たした水を飲み干す。それを兄弟以外の全員とやり、正式に組の一員となる。


「これからよろしくお願いします、桜木の親父!」

「お、おう……」


 若いモンから向けられるキラキラした視線は何ともこそばゆい。


「そして大山は舎弟頭だ」

「叔父貴! 大山の叔父貴!」


 組員たちに囃されへへへと鼻を擦る大山だが、周りからそれだけ慕われるだけの分け隔てない優しさを持つ男だ。


「兄弟! お前には俺に万が一のことがあった時に後のことを任せたい。次の若頭はお前だ。引き受けてくれるな?」

「おう兄弟! 寝首掻かれんように気を付けるんだな!」


 神代はニヤニヤそう言うが、この世で一番信頼できる男だ。背中はコイツにしか任せられない。


「次、若頭補佐! 吉野、染井! お前たち二人だ。どちらかなんて選べない。お前らは一心同体だからな」

「へっ! マサと一緒なら向かうところ敵無しだぜ!」

「ヒロのくせに随分難しい言葉を知っているじゃないか? ……まあ、その通りなのだがな!」


 やっぱりこの二人は引き離すことはできない。正反対な二人だからこそ、足りない部分を互いに補うように生きてきた。それはこれからもだ。


「──そんじゃァ、この世界で初めての仕事に行くぞ!」

「「おう!!!」」






◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆






 ギルドではロンとカレーン、そして受け付けの女が話していた。

 女の手には大量の紙の束があった。


「おはようございます皆さん!」

「おはようロン」


 カレーンはキョロキョロと俺たちの方を見渡す。しかしそこにお嬢の姿がないと分かると落胆の表情を浮かべた。


「──で、そっちが例の?」

「はい、全てまとめておきました。ただし、この中には討伐だけでなく護衛の依頼なども含まれています」

「と言うと?」

「これらは全て近場に住み着いた盗賊に関する依頼です。最も報酬が大きいのは国から出された盗賊全員の討伐。他にも個人から盗られたものの奪取などの依頼が出されています」


 彼女の抱える紙の厚さが、どれだけこの街が盗賊に苦しめられているかを物語っている。


「つまり、盗賊を全員殺れば解決って事だな?」

「細かい条件はありますが、概ねその理解で合っています」


 俺たちにとって一番の得意分野だ。


「ちなみに盗賊の頭数は分かっているか?」

「そうですね……百は下らないかと」

「それはこの前街を襲ったレベルの人間が百ということか?」

「はい、そうです」


 そこまで聞いた組員の中から笑い声がこぼれてきた。

 受付嬢は不審がるが、笑いたくなるのも仕方がない。あんな弱いのが何人いようが俺たちの敵ではないからだ。


「吉野! お前と何人かは残ってお嬢の護衛、情報収集、それと細かい依頼を達成しろ! その間に俺たちで全て片付ける」

「はい組長!」


 吉野は数人の部下を連れ走り去った。


「よし行くぞお前ら! 盗賊のアジトにカチコミだ!」

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