第12話 アンタが二代目ですぜ兄貴!
「──お嬢はどう思いますか」
「私に振らないでよ桜木……。でも、私は別に戻りたいとは思わないわ。戻ったって、楽しいことなんてないもの。……それに、こっちでは友達もできたしね」
お嬢の出自を知らないカレーンは、何の偏見もなくお嬢と仲良くなれる。それはこの世界だからこそのお嬢にとってのメリットだった。
「……俺個人としても戻りたいという気持ちはない。戻ったところで、日本にあるのは厳しい暴対法と、その隙を突いた外国マフィアによる裏社会の乗っ取り。首輪を失ったチンピラのガキ共の台頭だ。俺たち極道の生きる道は無くなり、日本の裏社会は滅茶苦茶になる」
シマ、という概念が無くなってからは個人が仕入れた粗悪なシャブが出回り、治安は崩壊した。薬厳禁の極道を追放し、どんどん招き入れる外国人によって運ばれるヤクの量は計り知れない。
「それに俺たちは解散届を出した。明日には全国ニュースで櫻庭組の終わりが告げられるだろう。裏社会にも、表社会にも、もう俺たちの居場所は無い」
親父は組員たちの今後を俺に託した。だがそれはあまりに重すぎる責任だった。
筋モンに向けられる世間からの目は依然として厳しい。親父の言う通り、もう俺たちの時代は終わったのだ。
「だがこの世界は違う! 俺たちを必要としている仕事がある! 俺たちを必要としている人がいる!」
「兄貴……」
生きるべき道は与えられるのではなく、自分で見つけなければいけない。それが親父に教わったことだ。
「俺は賛成するぜ兄弟。少なくとも、この一宿一飯の恩義に報いるだけの働きはしねぇと仁義に反するな」
「カシラ! この世界にはまだ見ぬビジネスがごろついてます……! このチャンス、逃すことはできない!」
「俺はマサが賛成ってならカシラの意見に賛成だぜ。……戦争の匂いがプンプンするしなぁ……」
神代、吉野、染井が口々に賛成の意を示した。これに同調して後ろの若いモンも「俺もだおカシラ!」「どこまでもアンタに着いてきます!」などと叫びだす。
「……よぉ大山、帰る方法を探してもいい。だがしばらくこの世界を楽しむぐらいの心持ちでどうだ」
「……ハナから兄貴の考えに反対なんてするつもりはなかったですぜ。ただ、その固い決意が聞けてよかった」
大山はそう言って口角を上げた。
「よし! じゃあここを本拠地とし、これから異世界で生きていく!」
「さながら櫻庭組異世界支部ってところか兄弟?」
「いや神代さん、櫻庭組を存続させて名乗っていくにはカシラは正式に組長を継ぐべきだ」
「そいつは名案だ吉野! よお兄弟! いや、二代目!」
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