第10話 準備万端ですね兄貴!

「ではまずは登録からどうぞ」

「ここはおカシラにお願いします」

「おう」


 しかしここで俺の中に一つの懸念があった。それは言語だ。

 登録の紙を渡されたが、ここに日本語で名前を書いていいのか。そもそも登録書の内容を読めるのか。


 しかし、そんな心配はすぐに杞憂となった。

 その紙には明らかに日本語ではない、地球では見た事のない文字が書かれていた。だというのにスラスラと違和感なく読めてしまう。

 なんとも気持ち悪い感覚だった。


「──ええと、名前は桜木大和で……」


 文字も何故か現地のよく分からない文字がスラスラと書けてしまう。そんな自分の手が不気味に思えた。


「……この“パーティー名”ってのはなんだ?」

「それはこの集まり全体の名前のことです。依頼は個人ではなく、パーティーへ向けてご案内させて頂きます。なお、報酬の分配や誰がどの仕事をやるのかはパーティーの自由となっております」

「ほーん。つまりこれでいいな」


 俺はパーティー名の欄に「櫻庭組」と書き記した。


「次にパーティーのリーダーか」

「それはもちろん兄弟、お前だな」


 親父亡き今、時期組長となる若頭である俺がこの組のトップであった。

 リーダーの欄にも自分の名前を記す。


「──よし! 俺が書く部分はこれで終わりだ! お前ら、パーティーメンバーの欄に自分の名前を書いてけ!」

「「おす!」」


 俺は運悪く転移に巻き込まれた組員の顔と名前を把握するため、彼らが名前を書いていく様子を横から眺めていた。

 そしてしばらくして、登録書の裏面までびっちりと組員全員の名前の記入が完了した。


「……はい、確認しました。では次に仕事の流れをご説明します」


 受付嬢はカウンターからフロアに出てきて、掲示板の方へ向かった。

 俺たちもその後を追う。


「こちらに全ての依頼が貼られています。依頼の内容は大きく分けて三つ。低難易度順に、採集、護衛、討伐となります。採集は薬草や鉱石の採取を依頼主に代わって行う最も単純な依頼です」

「お使いクエストってことか」

「…………? 次に護衛ですが、これはロン君が受けていた街の護衛や行商人の護衛です。護衛については、何事もなかった場合はただ着いていくだけで報酬が貰えますが、もちろん盗賊などに襲われる危険もあります」


 多少の危険はあるが、採集よりは遥かにいい報奨金が書かれている。


「そして最後、討伐。これは主に国が依頼主となっています。討伐は、街の周辺にモンスターが大量発生した際や盗賊のアジトなどが作られた場合に、自ら赴いてそれらを討伐するという内容となっています」


 自ら戦いに行くのだから、当然絶対に戦闘になる。それは必ず死の危険がそこにあるという意味だ。

 もちろん、それだけのリスクに見合う報奨金となっている。


「初めての仕事となりますと、普通は採集依頼からがよろしいかと」

「……いや、俺たちは既に盗賊を倒している。そしてモンスターってあの兎みたいなやつだろ? それも倒している。……なんでもいいが、明日は討伐依頼を紹介してくれ」

「はあ……。万が一何かあってもギルドは責任を取れませんが」


 システム上問題なくとも、彼女たちも人として見知らぬ新参者に国からの仕事は任せたくないのだろう。

 だかこちらも入り用なのだ。


「構わないぜ。な、お前たち!?」

「おうよ!」

「……ではまた明日お越しください」


 今日の所はこの世界で生きて行くための目処がたった。それだけで大きな収穫だろう。

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