第8話 金は大切ですぜ兄貴

「そうだ、客で思い出した。宿泊費は……この人数なら一本でいいか?」


 俺は胸ポケットから札束を取り出し机の上にポンと置く。部屋やサービス内容は分からないが、百万円もあれば五十人を一泊はさせてもらえるだろう。

 この時は本気でそう思っていた。


「ええっと……、この紙はなんですか……?」

「あ……」

「兄貴! ここは異世界ですよ! 日本の金が使える訳ないじゃないですか!」


 大山にそう言われて気が付いた。

 俺たちはこの世界では無一文だ。


「ロン君……その……、そちらの方々に助けて貰ったという事情は分かるけど、流石にいつまでもタダで泊めることはできないよ……。お礼と言っても、今日一日だけにしてくれないと、ウチも厳しいんだ……」


 受け付けをしていた店主の老人がオドオドしながらそう呟いた。


「すいやせんおやっさん! ──おい、誰か小銭持ってないか!」


 そうして俺は全員から硬貨を集めようとした。まだ紙よりは金属の方が価値はあるだろうと思ったからだ。

 しかし葬式に小銭をジャラジャラと持っていく人間はおらず、紙幣しか集まらなかった。こんな時代でもかなり潤っていた櫻庭組だが、ここではそれが裏目に出た。


「本当に申し訳ない……。今日の所はこの葉巻で勘弁してもらえませんか……」

「き、気持ちは受け取るけど、お金じゃないとね……。金貨や銀貨、銅貨で頼むよ……」


 このままではどうしようもない。何をするにも金は必要だ。


「ロン……、この街にシノギはあるか?」

「し、しのぎ……ですか?」

「ああ。仕事を紹介してくれる場所があれば案内して欲しい」

「ああ! それならギルドというのがあります。着いてきてください!」

「お前ら仕事だ! 行くぞ!」


 俺たちは一旦宿屋を後にし、ロンの案内でギルドとやらに案内してもらうことにした。


「私も行くわ!」


 俺たちが宿屋を出ようとすると、お嬢も着いてこようと立ち上がった。


「お嬢はここで待っていてください」

「桜木、私も働くわ」

「ダメですよお嬢。お嬢にそんなことさせれません。ここでカレーンちゃんとお話でもしながら待っていてください」

「え私……?」


 二人とも不満そうな顔をしていたが、女同士でないと話しずらいこともあるだろう。

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