第4話 転移ってやつですぜ兄貴
「カシラ、笑わないで聞いて欲しいんですが、もしかしてこれって“異世界転移”ってやつではないでしょうか……」
吉野は恥ずかしそうに眼鏡をクイッと上げながらそう俺に耳打ちしてきた。
「いせかいてんい? 何だそいつは」
「声がデカいですカシラ! ……ほら、アニメとか漫画で見ませんか?」
「俺はそういうのには疎くてな……。お嬢! この中で一番若いお嬢ならどうですか?」
銃を構えた物々しい男たちの真ん中で、お嬢は俺の問に対して肩を透かした。
「知らないわ。クラスの男子が話してた気もするけど、私もそういう軟派なものには興味ないもの」
お嬢は目を引く程の美人だが、親が大物ヤクザとなればクラスの男子たちも声は掛けられなかっただろう。
「じゃあ誰も分からねぇな。吉野、もっと詳しく話してみせろ」
「はい。私が思うに、カチコミに来たあれはいわゆる“異世界トラック”ってやつで、私たちは死んだ代わりに別の世界に飛ばられたんです」
「あれはトラックじゃなくてダンプだったぞ」
「そこはどうでもいいんですよ!」
説明しながら吉野はどんどん顔を赤くしていく。
「おい兄弟、あんまり虐めてやるなよ。……俺は知ってるぜ吉野。確かにそうじゃねぇと不可解なことが多過ぎる。だが今は性急に答えを出すんじゃなくだな──」
「──ああこれは異世界だぜ兄弟。間違いねぇ」
「…………」
それから俺たちは宛もなく辺りをさ迷っていた。すると遠くの方に街のようなものを見つけた。
そしてそっちへ近づいていくと、そこには信じられないような光景が広がっていた。
汚いぼろ切れを身にまとい、槍やナイフを持った外国人顔の男たちを、杖から炎や本から氷を飛ばして追い返していたのだ。
杖や本を持っている方の人間は口々に「ファイアーなんとか」だとか「アイスなんとか」と叫んでいる。
「ほらカシラ! あれは魔法ってやつですよ!」
「大山ァ! 俺の事一発殴ってみろ」
「え、良いんですか兄貴」
「いいから早くやれ!」
「い、行きますよ兄貴……!」
バチン!という大山の重たい平手打ちに視界が揺れた。
それから頭を振ってもう一度街の方を見てみる。しかしやはりそこにはガキの頃ゲームで見たような“魔法”が飛び交っていた。
「信じられないし信じたくもねぇ……。だが、本当に俺たちは来ちまったみてぇだな……。異世界ってやつによォ!」
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