第十一章 独身おじさんの平和な日々

お土産

 十日後……俺たち一行はエーデルシュタイン王国に帰って来た。

 連結馬車のおかげで快適だ。問題点や改善点もけっこう出てきたので、それを元に連結馬車を改良……あとは、スノウデーン王国の移動手段に使えるだろう。

 馬車は俺の会社前に到着した。ここで解散となるのだが。


「がうー、かえってきた!!」

「きゅうう、おかえりー」


 会社脇の広場で、クロハちゃんとリーサちゃんが、友達の子狼、子狐と一緒に遊んでいた。

 そして驚いたことに。


「おかえりなさい、ゲントクさん」

「ば、バレン? なんでお前がここに」

「オレもいるぜ」

「うちもいるよ~」

 

 ウング、リーンドゥも一緒にいた。

 空き地に置いたベンチに座って、子供二人を見守っていたのだろうか。

 驚いていると、ロッソたちも降りてきた。


「……なんでアンタらが」

「嫌だな。誘拐事件があったんだ、かわいい子供二人だけで遊ばせるわけにはいかないじゃないか」

「……そうなんだ」

「ま、そういうこった。裏はねぇよ」

「まあ、子供二人で遊ぶのに監督が必要なのはわかりましたわ」

「でしょ? 怪しまなくていいって~」


 微妙に険悪だな……前は協力して『クーロン』を潰したんだが。


「にゃあ。おみやげ」

「がうう、おおかみのおきもの!!」

「キツネもいる!!」

「おかしもあるの。みんなで食べよう」

「がうう」「きゅううん」


 子供たちはお土産で大喜びしているな……実に平和な光景。

 子狼、子狐、子猫こと白玉も身体を擦りあって再会を喜んでるし。

 サンドローネたちは……おいおい、すでに荷物をリヤカーに積んでさっさと帰っちまった。

 サスケは……あれ、なんかいつの間にかいないし。てか俺のポケットに手紙入ってる。


『なんか険悪だし、オレはここで。オッサン、楽しかったぜ。近いうち、アズマ関係の店を紹介するから、その時は飲みに行こうぜ。じゃあな』


 おいおい……そういやあいつ、忍者なんだっけ。

 というか、アズマでそれ関係のイベント起きると思ったが、特に何もなかった。いやそれでいいんだけど……どこまでもイベントを回避する俺。


「って、それどころじゃない」


 険悪なロッソたち。

 そういや、険悪になるだけの理由があるんだっけ。

 俺はヴェルデを見て言う。


「……お前は本当に安心できるな。対立者がいないから」

「余計なお世話よ!! で、どうするの?」

「そりゃ決まってんだろ」


 俺は六人の間に割り込み、荷物からお土産を出す。


「バレン、ウング、リーンドゥ。これ、アズマの土産だ。ミニクラーケンの塩辛だ。酒のつまみ、特に雑酒と合うから試してみてくれ」

「わお、お酒だって!! やったあ」

「……へえ、雑酒と合うのか。そりゃいいな。ありがとよ」


 リーンドゥ、ウングは受け取ってくれた。

 バレンも受け取り、ロッソたちを見て苦笑する。


「ま、今日はお疲れのようだし……ゲントクさん、ありがたく頂戴いたします」

「ああ。今度、暇なときにでも飲むか。エーデルシュタインでいい店があるんだ」

「ぜひ。その時は、ボクら『殲滅の薔薇アナイアレーション』と四人で……では」


 バレンたちは行った……アナイアレーションってチーム名かな。かっこいいわ。

 ロッソたちは微妙な顔をしているが、俺がロッソたちと同じように、バレンたちも友人として見ていることから、特に何も言わない。

 そして、連結馬車からそれぞれの荷物を取り出した。


「じゃ、アタシらは帰るね。おっさん、楽しい旅だった!! また遊ぼうねっ!!」

「……おじさん、ありがとね。今度いっしょにご飯食べようね」

「ではおじさま、ここで失礼しますわね」

「じゃ、ゲントク。レシピありがとね!!」

 

 四人、そしてシュバンとマイルズさんは行ってしまった。

 スノウさん、ユキちゃん、クロハちゃんとリーサちゃんも。

 残ったのは、会社前にポツンと置いてある俺の荷物、そして大福だけ。

 俺は大きく伸びをして、空を見上げた。


「っっぁあ~……帰ってきたなあ」

『なぁご』

「ああ、そうだな。荷物とアーマーを会社において、今日はうちに帰るか……明日はヘクセンたちに土産渡しに行こう」


 俺は会社の格納庫にアーマーを収納し、荷物を持って家に帰るのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 俺は冒険者ギルドへ。受付にいるヘクセンに手を振った。


「おっす、ヘクセン」

「なんだなんだ、懐かしい顔じゃねぇか」


 冒険者ギルドのおっさん受付、ヘクセンだ。

 ってか、仕事中なのに受付で新聞読むなよ。


「お前、アズマに行ってたんだって? 金とヒマある奴はいいねえ」

「まあな。いやあ、楽しい旅だったぜ」


 俺はカウンターに近づき、ヘクセンと笑い合う。

 ヘクセン。既婚者で、息子は独立して飲食店やってるんだっけか。

 

「仕事か?」

「いや、今日はお前の顔見に来た」

「気持ち悪りぃな。こんなオッサンの顔見に来るなんて、暇してんのか?」

「おいおいそんなこと言っていいのか? せっかく、アズマの雑酒とツマミを土産に持って来たんだがな」

「馬鹿、それ先に言えよ!!」


 俺は土産屋で買った陶器の酒瓶と、ミニクラーケンの塩辛をカウンターへ置く。

 ヘクセンは嬉しそうに酒瓶を手にした。


「へへへ、晩酌が楽しみだぜ。ありがとよゲントク」

「ああ。今日はそいつじゃなくて、エーデルシュタイン王国にあるアズマの酒を出す店に行かねぇか? グロリアと、ホランドも誘ってよ」

「いいね。ってか、そんな店あったのか?」

「さっき教えてもらったんだよ」


 実はさっき、サスケと合流してアズマ関連の店を山ほど教えてもらった。

 全部、サスケの知り合いの店だ。ここだけの話……『シノビ』の隠れ家であったり、資金源となる店だったりするそうだ。俺だから教えてくれたけど、あんま聞きたくなかったぜ。

 ヘクセンと約束し、俺は隣の商業ギルドへ。

 受付のグロリアに挨拶し、酒と調味料を土産に渡す。


「ん~いいねえ。アズマのお酒なんて最高じゃないか。ありがとねゲントク」

「ああ。ヘクセンと今夜飲むけど、お前もどうだ?」

「もちろんさ。いい店、紹介してくれるんだろう? 旦那と行く前に、あんたらと行くさね」


 グロリアとも約束し、俺はギルドを出た。

 さて次は、ホランドの魔導武器屋に行くとするかね。


 ◇◇◇◇◇◇


 ホランドの魔導武器屋。

 魔導武器は前に説明したっけ。武器に魔石をはめ込んで、特殊な効果を持たせた武器のことだ。燃える剣とか、凍る剣とか。

 で、加工した魔石と武器を融合させて魔導武器を作る職人は、けっこう貴重らしい。

 ホランドは、王都でも指折りの魔導武器職人だ。ここ一年ほど行方不明だったが、『クーロン』から戻ってきて仕事を再開。

 職場は、俺の会社から徒歩十五分ほどの場所。

 俺はホランドの店に到着し、ドアを開ける。


「いらっしゃい!!」

「あれ? どうも……ホランドはいるか? ゲントクが来たって伝えてくれ」

「はい!! 親方、ゲントクって人が来ましたー!!」


 誰だろうか……十代後半くらいの少女が店の奥へ。

 ホランドの娘であるジェシカちゃんじゃない。親方とか言ってたけど。

 なんとなく、店を見回してみる。


「魔導武器か……俺には縁のないモンだな」


 壁には、剣や槍、斧や棍棒が掛けてある。

 他にも、鎧やら盾やら……武器だけじゃなく防具も豊富で、全部に魔石が埋め込んである。ここにあるのは全て、魔導武器、魔導防具だ。

 そして、店の奥からタオルを頭に巻き、髭を生やしたホランドが出てきた。


「おう、久しぶりだな。アズマから戻って来たのか?」

「ああ。土産を渡しにな。それと、今夜のお誘いだ」

「いいね、飲みに行くのか? 付き合うぜ」


 俺は酒瓶、ミニクラーケンの塩辛を渡す。

 そして、ホランドの後ろにいる女の子を見た。


「娘さん、ジェシカちゃん以外にもいたのか?」

「違う違う。この子はビンカ。オレの弟子だ」

「弟子……いつの間に」

「魔道具職人、魔導武器職人は普通、弟子を取って育てるんだよ。お前んとこが普通じゃないだけだ」


 ビンカは十七歳。魔導武器職人に憧れ、ホランドに弟子入りしたそうだ。

 当然、魔力持ち。


「あ、そうだ。せっかくだし、ビンカも連れて行っていいか? ヘクセンとグロリアも来るんだろ?」

「ああ。俺はいいけど、ビンカ……ちゃん、はいいのか? オッサン、オバサンの酒飲みなんて、若い子にはつまんないだろ?」

「そんなことありません!! あの、ゲントクさんってあの……オダ魔道具開発所の、ゲントクさんですよね!! 数々の魔導具を生み出した天才の!!」

「て、天才ではないな……俺、オッサンだし」

「尊敬します!! お話、聞かせてください!!」

「あ、ああ、まあ、いいよ」


 というわけで……今夜は久しぶりに、サンドローネやロッソたち以外との飲み会だ。

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