おっさん、オバサン、若い子と飲み会
さて、やって来たのは、いつも行く飲食店街の裏道にある小規模の飲み屋。
サスケに教えてもらったアズマ料理や酒を出すお店だ。
見た目は木造りの二階建て。障子の引き戸に赤提灯が吊るしてある。
裏通り……治安よくないイメージだが、飲食ギルドが金を掛けて整備しているので、治安は悪くない……むしろ、かなりいいらしい。
道端に酔っ払いとか寝てたりするけど、まあ飲み屋街っぽくていい。
そんな飲み屋に、俺たち『底なしおっさんズ』たちがやってきた。
「ちょっと、レディーもいるのに『おっさんズ』とかやめないかい。ねえビンカちゃん」
「あ、あはは……うちはその、大丈夫です!!」
店の前で、ビンカとグロリアに言われてしまった。
すると、遅れてやってきたのはホランド、ヘクセン。
「悪い、遅れちまった。カミさんの機嫌取るのに苦労したぜ」
「オレも似たようなモンだ。妻子持ちは辛いな、ヘクセン」
ホランド、ヘクセンはすぐ仲良くなった。
というわけで、今日はこの五人で飲み会だ。
◇◇◇◇◇◇
店に入ると、なんと誰もいなかった。
カウンター席が七席、四人掛けの椅子テーブルが二つに、奥に座敷のある店だ。
そして、カウンターにいたのは……なんともまあ、美人ママ!!
「いらっしゃい。五名様ね……奥の座敷へどうぞ」
ヘクセン、ホランドが「おおう」と女将を見て喜び、グロリアはニヤニヤしながら「アンタらの奥さんに言ったら面白いことになるねぇ」と二人を脅す。
ビンカちゃんも緊張してるのかペコペコ頭を下げた。
女将、黒髪を丁寧にまとめ、薄化粧を施し、流し目で俺たちを見てクスっと笑う……着てる着物は高そうだけど、割烹着と合わせると庶民的に見える。
奥の座敷は掘りごたつっぽくなっており、畳に慣れていないホランドたちも安心していた。
俺も座ろうと靴を脱ごうとすると、女将がススッと近寄って来た。
「……ゲントクさん」
「ひゅぉっ」
耳元で色っぽい声を聞かされ、ぞくぞくっとした。
なんつう色気……二十代半ばくらいの女将。紅を引いた唇がなんとも……あれ?
唇が、ニヤッとした形へ変わる。
「へへ、オレだよ。わかる?」
「…………え、お前、まさか」
「最初に言ったよな? オレ、変装の名人だって」
「…………アンビリバボー」
なんと、色っぽい超美人女将の正体は、サスケだった。
嘘だろ。性癖ぶっ壊れそうなんだが。
美人女将ことサスケは言う。
「おっと、内緒にしてくれよ。へへ……さっそく店に来てくれるなんて嬉しいぜ。今日は貸し切り、んでオレの奢りだから、好きなだけ飲み食いしてくれよ」
「え、お前の手料理?」
「シノビに必要なスキルなんだよ。例えば……料理に毒を盛る時なんか、見た目が美味そうじゃないと食ってもらえない、とかな」
「…………」
「冗談だって。ささ、今日は好きなだけ食べて……遊んでいってね」
サスケの声だったのに、最後だけ色っぽい女将の声に変った。
ってか、こんな変装見破れるわけねえ!! 着物だけど、体形とか仕草とかどう見ても女じゃん!!
「おい、なにしてんだよ」
「ゲントク、アタシはこの雑酒にするよ。アンタもさっさと注文しな」
「ビンカ、好きなのタ飲んでいいぞ」
「はい親方!! えと……じゃあこのイモの煮付けを」
とにかく、今日は飲み会だ!! 楽しむか!!
◇◇◇◇◇◇
飲み会は盛り上がった。
最近の話、家の話、俺のアズマの話と、みんなはいろいろ話し、俺もいっぱい話した。
「いや~、アズマは楽しかったぜ。飯も酒も美味くてな、観光も楽しかった!! トクガワ寺院とか、カンフーの修行場かよ!? って思ったぜ」
「んだよカンフーって。ってかゲントク、お前の魔導鎧見せろ、改造させろよ!!」
「ダメだめ。アレ、発表してない魔石の技術とか使いまくってるからな。ダメよ~ダメダメ」
「んだと? 気になるじゃねぇか。なあビンカ!!」
「は、はい!! うち、気になります!!」
「はっはっは!! まあ、ホランドみたいな腕利きなら、すぐに発見するような技術だって。なあヘクセン」
「オレに振るなっつーの。オレぁただの中年ギルド受付だぞ? なあグロリア」
「そうだね。アタシだってそうさ。アンタらみたいな技術者とこうしてダチっぽく飲めるなんて、普通じゃ考えられないんだよ」
グロリアがそう言うので、俺は手で制する。
「いやいやそれは違うぞ!! ヘクセン、グロリア……受付がいなかったら、冒険者だって依頼受けれないし、オレらみたいな技術者だって素材の受け渡しができねえ!!」
「オレも同意する。もしギルドがなかったら個人売買になるしな。ギルドってのは職員がいてこそだろ。なあビンカ」
「は、はい。うち、難しいことはわかりませんけど……お仕事されているお二人は立派だと思います!!」
「「……」」
ヘクセン、グロリアが顔を見合わせると、デカい声で笑い出した。
「はっはっは!! ったく、バカ言いやがる……でもまあ、悪くねぇな」
「そうだね。こんなオバサンを泣かせてどうするつもりだい?」
「アホ。お前みたいな美人受付を泣かせたなんて知られたら、オレらお前の旦那に殺されるわ!!」
爆笑する俺、ホランド。
いや~楽しい。なんかこう、歳が近くて気心の知れる連中と飲むのは新鮮な感じだ。
するとサスケ……じゃなく美人女将が、刺身盛り合わせをテーブルに置いた。
「アズマの刺身です。どうぞ」
「いいね。待ってました!!」
「おいゲントク、ナマで魚って食えんのか?」
「おいヘクセン!! 騙されたと思って食ってみろ!! このアズマの醤油に付けて、ワサビも忘れんな? それと雑酒も!!」
みんなは半信半疑だったが、すぐに刺身にも慣れた。
しばらく飲み、食べ、笑い……話題は俺のことになる。
ホランドは、お猪口片手に言う。
「ゲントク、仕事はいつ再開だ?」
「そうだな……まあ、近々再開するよ。なんか面倒くさい依頼も入りそうだし……」
リチアが別れ際に言った『双子座の魔女』のことも気になるが……まあ、すぐに来ないよう言っておくってリチアも言ってたし。
「しばらくは、魔導具修理しながら、思いついた魔導具を作ってみる。まだやってないことけっこうあるんだよな……ミキサーとか作ればスムージー飲めるし、全自動のコーヒーメーカーとかも作りたいし、バイクは作ったから車も作ってみようかな。ああ、コーヒーをもっと世に広めたいし、コピの豆の焙煎とかもいろいろ試したいな……」
「何言ってるかわかんねぇけど、やる気十分って感じだな」
「ああ。世のため人のため……じゃなく、俺のため自分のために魔導具作るぜ!!」
「はっきり言いやがる……」
ヘクセンが苦笑する。まあ許してくれ、これが俺なのだ。
「ってわけで、お前らコーヒーに興味ないか?」
「「「「……コーヒー?」」」」
「ああ。苦い飲み物なんだが、慣れると病みつきになる。お前らみたいな仕事人にはぴったりだと思うんだ」
「「「「…………」」」」
「あ、ビンカちゃんには少し早いかも。大人の飲み物って感じだし」
「う、うちはもう大人です!! 十七歳ですし!!」
コーヒー店の経営か……この世界じゃ普及してないし、完全に道楽の世界になりそうだ。
とりあえず、トレセーナに飲ませてどう思うか確認してもらうかな。
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