『射手座の魔女』ストレリチア・サジタリウス
「なっつかしいわねぇ~!! ワタシね、弓の始祖って言われるくらいすっご~い狩人なの!! で、アツコにアンタの世界の弓の話聞いてね? アツコって『ユーダンシャ』とかいう称号持ってたのよ。弓ね弓。で、ワ弓っていうキュードウの弓教えてもらったんだけどなんか合わなくてね。で、ワタシは弓を改良して、オータムパディードッグに乗って射る方法を思いついてみ~んなに広めたのよ。で、ワタシの弓は数百年かけて世界中に広まって、今はいろんな改良型が広まったってワケ!! でもねでもね、世界中からワタシに指導のお願いするヒトも増えちゃってさ、なんかいろいろめんどくさくなっちゃった。でねでね、今はアズマに住んでるってワケなのよ!! アツコから遺品でナイフもらったんだけど、錆び錆びのボロボロで鍛冶屋もサジ投げちゃってさ、今はお守りとして持ってるわけ。でさー、アズマって最高よ。飯は美味いし、まさかアツコ以外のオトコがやってきてさ、数百年前にここに国を作ったのよ。ミソとか、ザツマイとか、海でノリとかも作ってたわ。故郷の味が恋しいみたいでね、いろんな知識持っててさ。ちょ~どワタシ、百年くらいアズマから離れててさ、トクガワ・ジュウザブロウってやつがこの国を作ってさ。もうよぼよぼのおじいちゃんだったのよ。でさ、ワタシに『あとは頼む』なんて言うから、こうして数百年ここに住んでてさ……って、聞いてんの!?」
「は、はい」
助けてくれ。
話が長い、止まらない、めちゃくちゃ酔ってる。
マジな絡み酒……このエルフお姉さん、マジで酒癖悪い。
「あ~いい日!! まさか、アツコ、ジュウザブロウに続いて四人目の異世界人に会えるなんて!! 今日はいい日ねぇ~!! アッハッハ!!」
「は、はっはっは」
サスケと場所を交換した、『射手座の魔女』ストレリチア・サジタリウス。
サスケのやつ、いつの間にかいなくなってるし。
俺の隣に座っているサンドローネは静かに酒を飲み、リヒターも気配を殺している。
「あ、あの」
「で、アンタ誰だっけ。名前は?」
名乗るヒマもなかった……ストレリチアはお猪口を俺に付き付ける。
「俺は玄徳。どうもよろしく」
「あーそーそー、ゲントクね。ワタシら魔女には会ったんでしょ?」
「ああ。と、ため口でいいか?」
「いーわよ」
「えーと、水瓶、牡牛、魚には会ったな。射手座のあんたで四人目だ」
「ラスラヌフ、エアリーズ、ポワソンね。あ、ワタシのことはリチアでいいわよ」
「リチアな。で、あんたもアツコさんの遺品持ってんのか?」
さっきのクソ長い話にあったような気もするが。
するとリチア、帯に差してあった筒を俺に見せる。
「これよこれ。錆び錆びのナイフ」
「こいつは……匕首か? まさかアツコさん、ヤクザ……んなわけないか」
見せてもらったが、綺麗な黒漆塗りの鞘に収まった短刀だった。
ヤクザが「タマ取ったらああああ!!」みたいに叫んで振り回すような物だな。どちらかといえば観賞用と言えばいいのかな。
鞘から抜くと……これはまあひどいな。
「錆び錆びだな」
「でしょ? 柄とか鞘はボロボロになる前に魔法で保護したけど、刃の方はダメだったわ。さすがにアンタも直せないでしょ?」
「……あー」
さすがに刃物は厳しい。
爺さんは昔、鍛冶屋で働いていたから包丁とか自分で打ったの使ってたっけ。俺も爺さんに習って包丁くらいなら打てるけど、さすがにこんなボロボロの刃物は無理だ。
「一度溶かして、打ち直すしかないな」
「そーね。だけど、アツコの遺品だし、なーんか別物にしたくないの。拵えは立派だから、お守り代わりにちょうどいいわ」
確かに、着崩した着物の帯に匕首が差してあるの、妙に似合う。
ってか、肩が剥き出しなので胸の谷間見えるし、足を組み換えると際どい部分まで見えそうなんだが……ラスラヌフの水着は水着で際どいけど、こういう和服が着崩れるのもエロいな。
「……ふんっ」
「いっで!?」
サンドローネに足を踏まれた。なんだこいつは。
するとリチア、ようやくサンドローネを見た。
「あれ? そーいやアンタ……ああ、ファルザンが言ってたサンドローネだっけ?」
「わ、私を御存じなのですか?」
「ええ。ワタシら『魔女』はみんな連絡取り合ってるからね。ああ、クレープスのヤツは連絡遮断してるけど、あのヤローめ」
リチアは酒をグビグビ飲む……何杯目だろうか。
「クレープスって?」
「クレープス・キャンサー、蟹座よ。カニよカニ。近くの海でいくらでも取れるわ。ね、カニ鍋好き?」
「大好き!! あんのか!?」
「もちろん!! 二軒目行く?」
「行く!! よっしゃここは俺の奢りだ!!」
「いぇい!! おばちゃ~んお会計~!!」
俺はお会計。リチアはデカいヒョウタンを担いで外へ。
「おいサンドローネ、お前たちも来いよ」
「十二星座の魔女のお誘い、断るわけないじゃない……明日の朝まで覚悟するわ」
「……わ、私もですよね」
リヒター、今日は帰れないと思え。
◇◇◇◇◇◇
今更だが、アズマは海に面しているので海産物も有名だ。
特に、カニ!! ザナドゥではあまり食わんかった。魚とかは食うんだが。
西日本、東日本で獲れる魚が違うみたいな。
現在、俺たちはアズマで有名な鍋屋へ来ていた。
リチアが入るなり超ビップ対応。個室を用意され、しかもデカいカニ鍋がいきなり登場……雑酒で乾杯した。
そして、俺の前に出てきたのは白い切り身……まさかこれは。
「アズマはカニもだけど、ミニクラーケンも美味いわよん」
「ミニ、クラーケン……?」
「クラーケンって知ってる? それのちっちゃいヤツ。刺身で食うと絶品なのよ!!」
「食う!! なあ、カニ味噌とかもあるか?」
「なにそれ。カニ、みそ? カニは足の身をほじって食うのが美味いのよ!!」
「それもだけど、美味い食い方があるんだよ!! すんませーん!!」
こいつはやるしかない……『アレ』を。
俺は店員さんにお願いし、魔導コンロ、ボイルしたカニ、雑酒を用意してもらった。
サンドローネ、リヒター、リチアは興味深そうに見ている。
「いいか、まず甲羅を……」
カニの甲羅をパカッと開ける。
このカニ、俺が知ってる毛ガニみたいなカニだ。ちゃんとした名前はあるんだろうけど。
甲羅に酒を注ぎ、網をセットしたコンロに甲羅を置く。そして火にかける。
直火じゃ甲羅が割れる危険があるんだが……こっちの世界の甲羅は固いから問題ないだろう。
すると、雑酒と味噌が混ざり、いい香りがしてきた。
「な、なにこの香り……」
「……いいわね」
「おお……」
「ふっふっふ。甲羅酒っていうんだ。旨味がすごいんだよ」
俺は甲羅酒を手に、チビチビ飲む……う、おおお、うまい!!
「うっま!! あぁぁ~……最高」
「わ、ワタシも!! ワタシも欲しい!!」
「……私も」
「わ、私も欲しいですね」
というわけで、みんなで甲羅酒を楽しんだ。
リチアは気に入ったのか、嬉しそうに俺の背中をバンバン叩く。
「最高!! ゲントク、いいもん教えてくれたわ。ありがとー!!」
「はっはっは!! 気にすんな。もっとのめのめ!!」
「……リヒター、おかわり」
「はい、お嬢」
この日、四人で朝まで飲み続けることになるのだった……まあ、こんな日もあっていいか。
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