まずは試作から
エーデルシュタイン王国に帰って数日、仕事を再開した。
主な業務は魔道具修理と新作の製造だ。でも、帰ってすぐに『日本知識でチートアイテムを作って異世界の連中を驚かせる!!』なんてモノは作らない……というか、もうすでにけっこうやってる。
スノウデーン王国で、俺のアイデアを大放出したし、しばらくはアイデアだけメモして、自分の趣味のオモチャを作らせてもらう。
現在、俺は職場の一階作業場で、メタルオークの骨を加工していた。
火魔法で指先をバーナーにし、骨を切断、接合、形状を整える。
「……よし、こんなモンか」
作ったのはホイールだ。
でも、大きさはそれほどじゃない。円盤投げの円盤くらい。
俺はバイクを作るつもりだった。でも、まずはミニチュアで作ってみる。
「タイヤ部分は、ラバーコブラの皮を使うか」
ラバーコブラ。見た目は真っ黒な蛇で、その特徴は『ゴムのような皮膚』である。
この世界ではロープ代わりに使うことがあるが、高価なのと、普通にロープのが安上がりということで、あまり使われることはない。
俺は、ラバーコブラの皮を丁寧に切る。
「……本来は、被せて空気を入れるチューブを入れるんだが、少し加工が難しいな……ホイールに巻き付ける感じでどうだ?」
俺は、ホイールにラバーコブラの皮膚を巻きつけ、ゴムタイヤの代わりになるようにしてみた。
軽く地面に落としてみると、なんとゴム毬みたいに跳ねた。
「けっこう跳ねるな……まあ、試しにこれで……ん? 待てよ」
円盤投げみたいなタイヤを見て、少し思った。
「……フレームの強度も検証したいし、少し作ってみるか」
思いついた物があり、俺はメタルオークの骨をフレーム加工するのだった。
◇◇◇◇◇◇
作業が進み、少し休憩しようと手を止めると。
「きゅうん、おじちゃん」
「ん? おお、リーサちゃんじゃないか」
『わぅぅ』
ヒコロクに乗ったリーサちゃんが遊びに来た。
意外なことに一人。ヒコロクから降り、キツネのぬいぐるみを抱っこし、俺の傍へ。
俺はしゃがみ、リーサちゃんの頭を撫でる。
「いらっしゃい。珍しいな、今日は一人?」
「きゅう……クロハ、ママとおでかけ、わたしのママ、パパのお手伝いで、ユキもママと一緒なの」
なるほど、ユキちゃん、クロハちゃんがそれぞれのママと時間を過ごしていて、リーサちゃんのママはパパの手伝いでいないってことか。で、俺のところに遊びに来たと。
「おじちゃん、あそぶ……いい?」
「ああ、もちろん」
リーサちゃん、ユキちゃんやクロハちゃんの後ろにいるイメージが強い。今もぬいぐるみで顔半分隠しているし、大きなキツネ耳もちょっとだけ萎れている。
もともと、引っ込み思案なんだろうな。俺には多少気を許しているみたいだけど。
「……あ、そうだ。なあリーサちゃん、ちょっと俺の仕事、手伝ってくれないか?」
「おてつだい?」
「ああ、お給料もちゃんと払うから、な」
「……うん、わかった」
おお、大きなフカフカ尻尾が揺れた。
俺は作業場の椅子にリーサちゃんを座らせると、二階の事務所から大福が降りてきた。
大福は、リーサちゃんの傍で丸くなる。リーサちゃんは大福を撫でて笑顔を浮かべた。
この隙に、俺はフレーム加工を終わらせ、タイヤをくっつけ、サドルとペダルを付ける。
「よし完成。リーサちゃん、いいかい?」
「きゅ……これ、なに?」
俺が作ったのは、子供用の『三輪車』だ。
まんま、幼児が乗る三輪車。前輪にペダルをくっつけたシンプルなもの。バイク制作のため、こういう乗り物のデータも必要なのだ。
「リーサちゃん、まずこの椅子に座って」
「きゅう」
リーサちゃんは三輪車の椅子に座り、グリップ部分を手で掴む。
座ると、大きな金色の尻尾が左右に揺れた。
「足は、そのペダル……そう、足を乗せるんだ」
「こう?」
「そう。で、ゆっくり足を動かして漕いでごらん」
「こぐ?」
「ああ、足でそう、回すと……」
リーサちゃんがペダルをこぐと、前輪が回りだし動き出した。
「わあ、うごく!!」
「ゆっくり漕いで、ゆっくり」
キコキコキコと、リーサちゃんは三輪車を漕いで走らせた。
そして、職場前の広い道路をリーサちゃんはクルクル回る。
俺は、その様子を観察していた。
「タイヤ……ゴム部分は問題なさそうだ。フレームも頑丈そうだし、変形もない……」
三輪車とバイクじゃ負担も違うだろうが、これはいいデータになる。
しばし、リーサちゃんを眺めてデータを取っていると、俺の前で止まった。
「きゅう、たのしい!!」
「よかった。なにか変なところあるかい?」
「んー、おしりいたい」
「なるほど。サドルの素材をもう少し柔らかい物にするか……」
データを仕様書に書き込んでいると。
「……また何か面白い物を作ってるのね」
「ん? おう、サンドローネたちか」
サンドローネ、リヒター、そしてイェランが来た。
あまり面識のない三人に驚き、リーサちゃんは俺の後ろに隠れてしまう。
「サンドローネ、リヒター、戻って来たんだな」
「ええ、昨日、スノウデーン王国から戻って来たわ。あとのことは別の担当に引き継いだから、またエーデルシュタイン王国で仕事漬け」
「よ、ゲントク。アンタ、またなんか作ってんの?」
「ああ。三輪車……子供用の乗り物だ」
サンドローネは、俺の前にある三輪車を見た。
「へえ……これは面白いわね」
「子供用のオモチャみたいなもんだ。魔石も使ってないしな」
「仕様書、ある?」
「一応あるけど、まだデータ取ってるからそれ持って行くなよ」
「きゅうう、わたしの……」
リーサちゃんが、俺の後ろで抗議する。
サンドローネは苦笑し、しゃがんで俺の後ろにいるリーサちゃんへ言う。
「ごめんなさいね。大丈夫、これは持っていかないから。少しだけ見せてくれる?」
「……うん」
すると、サンドローネとイェランが、俺の渡した仕様書を見ながら三輪車をチェックした。
「……面白いわね。イェラン、どう思う?」
「魔石が組み込まれていない、本当に子供用の玩具だね。デザインだけ変えれば、すぐに製造に入れると思う……へえ、面白いなあ」
「じゃあ、今月の新製品候補で、会議にかけるわよ」
「うん!! 楽しみかも」
まだ何も言ってないんだが……なんか、三輪車が新製品になるのだった。
◇◇◇◇◇◇
三輪車の試作は、バイト代としてリーサちゃんにあげた。
「おじちゃん、ありがとー」
「ああ、でも、乗る時は周りをよく見てのるんだぞ」
「うん、きゅるる……うれしい」
リーサちゃんはご満悦だ。
そのまま三輪車で帰ろうとしたので止める。そして、イェランに家まで送らせた。
そして、サンドローネとリヒターを誘って居酒屋へ。
「明日、ロイヤリティの支払いあるから」
入って席に座るなり、サンドローネが言った。
金額は、けっこうなモンになってるらしい。スーパー銭湯のアイデア料金に、マッサージチェア、そして泡風呂のユニットだ。
エアリーズからの十億もしっかり振り込まれていたし、マジで金銭感覚おかしくなる。
「ちょうどいい。まだまだ金が必要になる」
「……あなた。何を作ってるの?」
「まだ秘密だ。くっくっく」
悪いが、バイクを完成させて自由に走れるようになっても、すぐには仕様書を見せないぜ。
異世界バイク……まず、俺が楽しみたいからな。
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