第七章 玄徳のロマン

我が家へ帰宅

 レレドレからエーデルシュタイン王国への帰りは、せっかくなので『スーパー銭湯ルート』で帰ってみた。

 サンドローネから教えてもらった、エーデルシュタイン王国とスノウデーン王国を繋ぐ新しいルート。そこは横幅の広い整備された街道で、雪が全く積もっていなかった。

 これには、ロッソたちも驚いていた。


「な、なんかツルツル……ううん、ざらざらした道ね」


 ロッソが気付いた。

 そう、街道は土を踏み固めたものではない、レンガのような、石畳のような……いや、敢えて言わせてもらおう。そう、アスファルト舗装である!!

 俺は、疑問符を浮かべている少女四人に言う。


「これは『アスファルト舗装』っていう、最新式の舗装街道だ」

「「「「あすふぁると……?」」」」


 四人は馬車の窓から同時に俺を見て、声を揃えて言う……息ピッタリだなこの四人。


「まあ、正確にはアスファルトじゃない、エアリーズが魔法で地面を固めたんだ。で、その固める過程で土の材質を変化させて、表面をざらざらにして滑りにくくして、さらに水を弾くような材質に変化させた」


 まあ、これは俺が土魔法でアスファルトっぽい素材を再現できないか実験していたところ、エアリーズが興味を持ち完成させた魔法だ。

 よくわからんが、エアリーズが「この新魔法はお前の名で登録しておく」とか言っていた……魔法ギルドなる組織があるらしい。というか、魔法関係ではあまりそういうデカいところに関わりたくないというのが本音だが、エアリーズに押され受けてしまった。

 すると、ブランシュが気付く。


「あら? 道の真ん中に、穴? ……シャワーヘッドみたいな」

「お、気付いたか。よーく見てみろ」

「……よく見ると、水が出ていますわね」


 街道の真ん中に、シャワーヘッドのようなものが埋め込まれている。

 

「こいつは『消雪パイプ』っていう、雪を解かす装置だ」

「……雪を解かす。確かに、この街道には雪が全く積もっていませんわね」

 

 シャーっとパイプから水が出て、街道の左右に流れている。 

 これにより、道路には雪が積もらないのだ。


「これも俺が考案した。新しい街道を作るのはいいけど、除雪部隊の負担が増える……なら、除雪を少なくする方法を組みこんでおけばいいと思ってな」


 仕組みは簡単。アスファルト舗装前の土にパイプを埋め込んだだけ。あとは地下水を流せば勝手に穴から水が出てくる。

 この辺、温泉もだが地下水も豊富で、作業は簡単だった。

 まあ……真に驚いたのは、アイデア出してすぐに作業を始めるサンドローネや、これだけの規模の街道を作るアスファルト舗装をほぼ一人でやっちまったエアリーズだ。

 獣人たちの手伝いもあったが、リヒターに聞いた話だと、エアリーズが魔法で斬り倒した木々の撤去や、アスファルト舗装した街道にパイプを埋めたり、柵を設置したくらいだとか。

 というか……仕事、速すぎる。帰り道、こんなに楽だとは。


「……ヒコロク、歩きやすそう」

『わう』

「揺れも少ないし、快適ですわね」

「ふぁぁ~……揺れが少ないとよく寝れそう。アタシ、少し寝るね~」

「ふあ……私も少し」


 ロッソ、ヴェルデが二階へ。

 俺はコーヒーを飲みながら、しっかり舗装された道を眺めるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 それから、順調に進んだ。

 新街道沿いにある小さな村で一泊したり、建設中の『スーパー銭湯』を見たり、新街道を進むこと一週間……ようやく雪が消え、暖かい陽気が俺たちを出迎えてくれた。

 スノウデーン王国の国境を抜け、エーデルシュタイン王国へ。

 一月の中旬……普通なら、まだ雪が残っていたりコタツの住人なのだが。


「あったけえな……」

「……春」


 すっかり春。

 俺とアオは御者席で、ヒコロクの後頭部を眺めつつ周囲を観察する。

 青い空に白い雲、温かい風、緑の匂い。

 街道を進むヒコロクも、どこかご機嫌だ。


「ああ、帰って来たなあ」

「うん。おじさん、いい休暇だった?」

「……ああ、最高だった」


 お肌もスベスベになったし、新しい家族(百年猫)もできたしな。


「おじさん。しばらくはお仕事がんばる?」

「ああ、やりたいこともあるし、仕事しつつコツコツ頑張るよ」

「やりたいこと?」

「おう。乗り物作りだ」

「乗り物……?」


 アオはヒコロク、そして馬車を指さす。

 まあ、似て非なるモンかな……とりあえずは、まだ秘密だ。


 ◇◇◇◇◇◇


 エーデルシュタイン王国に入国、馬車は俺の家より近い『オダ魔道具開発所』へ到着。

 と、職場の前に久しぶりの顔があった。


「にゃあ、おじちゃん」

「がうー」

「きゅう」


 ユキちゃん、クロハちゃん、リーサちゃんの三人が、俺の作ったボールで遊んでいた。

 馬車から降りると、三人が近寄ってくる。


「にゃあー」

「久しぶり。三人とも、ここで何をしてるんだ?」

「ここ、ひろいから遊びやすいの。わたしたちの遊び場なの」

「そ、そうなのか」


 どうやら、俺の職場前を遊び場にしていたらしい。

 ロッソたちも降り、ユキちゃんたちを抱っこする。


「ん~ネコミミ久しぶり。ユキ、元気にしてた?」

「にゃ」

「ろ、ロッソ!! その子は……?」

「ああ、ユキよ。こっちはクロハ、そっちはリーサ。うちの拠点を管理してるスノウさんの子供。かわいいでしょ?」

「か、かわいい……ね、ねえ、私もそっちの拠点に行っていいのよね?」

「ええ。アンタも『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』だしね。あ、従者二人はどうする? うちの拠点管理手伝ってくれんの?」

「もちろん!! ふふん、共同生活……楽しみ」

「にゃあ」

「ん~かわいい。よしよし、私はヴェルデ。よろしくね」


 ヴェルデはユキちゃん、クロハちゃん、リーサちゃんを交互に撫でまわした。

 と、ここで馬車から大福、白玉が降りて来ると、ユキちゃんがロッソから飛び降りる。


「ねこ!!」

『ニャア』

『みー、みー』


 ああ、同じ猫だからか……ユキちゃんは白玉を抱っこすると頬ずりする。


「おじちゃん、ねこ……」

「ああ、この子たちは俺の新しい家族でな。今日から一緒に住むんだ」

「ねこ……おじちゃん、おじちゃんのところに遊びにくれば、ねこに会えるの?」

「ああ、仲良くしてやってくれ」

「がう……オオカミ、いないの?」

「きゅうん、キツネ……」

「あ、ああ……その、今回はいなくてな」


 犬猫とかなら拾って育てることもできるが、オオカミやキツネは厳しい。クロハちゃん、リーサちゃんには申し訳ないが、機会があるまで待って……うーん、機会、あるかな?

 すると白玉、ユキちゃんをペロペロ舐め、ユキちゃんの手から離れて大福の元へ。

 そして、スノウさんが迎えに来た。


「皆さん、おかえりなさい」

「スノウさん、お久しぶりです。あ、そうだ」


 俺はお土産の饅頭を出し、スノウさんへ。

 

「これ、お土産です。クロハちゃん、リーサちゃんにも渡してください」

「まあ、ご丁寧に。あら? 猫……」

『……ニャ』

「え? はい……」

『ニャ、ニャアウ、ニャア』

「ユキが? はい、シラタマ、というのですね。はい……しかし、よろしいのですか?」

『ニャ』

「……わかりました」


 え、え、なんだいきなり。

 大福がスノウさんとお喋りを始め、なぜか白玉がユキちゃんの元へ。

 みんな首を傾げていると、スノウさんがロッソに言う。


「ロッソさん。大福さんが、白玉さんをユキに預けたいと」

「え、どゆこと?」

「はい。白玉には広い世界を見て欲しい、ユキと共に遊び、学び、健やかに成長してほしいと。自分は年を重ね、子に何かを見せてやれるような親ではないと、自分のようになって欲しくないと」

「じゃあ、拠点で飼うってこと? アタシたちはいいけど……アンタ、いいの?」

「俺? 俺はまあ、大福が決めたなら……というか、まだ生まれて一ヵ月くらいだろ? 乳離れとか大丈夫なのか?」

『ニャウ』

「もう普通の食事もできる。百年猫は寿命が長い分、知性も高く内臓も強い、最近では乳よりも魚の切り身をよく食べるようになった、と」


 そ、そうなのか。いつの間に。

 ユキちゃんは、白玉を抱っこする。


「にゃ……」

『みー』


 白猫、そして猫少女か。かわいい組み合わせだな。

 俺は大福を撫で、ユキちゃんに言う。


「ユキちゃん。その子は白玉って言って、ユキちゃんとお友達になりたいんだって。ユキちゃん……これから白玉と一緒に、楽しい時間を過ごしてくれるかい?」

「にゃあ。おともだち!! みんなと一緒に遊ぶ!!」

「ありがとう。うちには大福もいるから、遊びに来てやってくれ」

「にゃあう」


 こうして、白玉はユキちゃんに引き取られた。

 俺は荷物を下ろし、馬車を見送った。

 職場のドアを開ける。すると大福がするりと中に入り、案内もしていないのに二階へ。

 事務所のドアを開けると、ソファーに乗って香箱座り。


「お前、そこでいいのか? ここは職場で、うちは別にあるんだけど」

『ニャ』

「……まあ、いいか。ふう、久しぶりの職場だ」


 不動産ギルドが管理していたおかげで、埃も何もない綺麗な部屋だ。

 俺は椅子に座り、大きく伸びをする。


「さーて、明日は休んで……明後日から仕事再開するかな」

『ごろろ』

「はは、よし大福。お前は今日からウチの新入社員ってことで」

『ニャ』


 こうして、俺はエーデルシュタイン王国に帰って来た。

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