ガワは見た目だけ

 現在、俺はバイクのエンジン部分を作っていた。

 まあ……ガワだけだ。というか、いくら俺でもバイクのエンジンをゼロから造ることはできない。

 なので、作るのは『回転』の魔石、そしてタイヤを連動させるチェーン、『停止』の魔石と、あとは諸々細かい部分。

 まあ、魔石があるので造りは単純。タイヤを『回転』させて、ブレーキレバーを握って『停止』させる構造だ。

 タイヤを回し、止める。本来ならクラッチとかギアとかあるんだが……まあ、必要ない。

 なので、ガワにはこだわることにした。


「……できた」


 エンジン完成。

 彫刻家になった気分で金属加工した。

 俺の前には、立派な空冷式4気筒エンジンがあった。まあ……ガワだけ。中身は空っぽ。

 中には魔石を入れる予定。取り外しも簡単で、魔石の交換も容易だ。

 俺は芸術品のようなエンジンを見て言う。


「かっけえ……今じゃ廃れつつある空冷式、しかも4気筒……これがわかる男と酒飲みながら語り合いたい。まあいないけど」

 

 あとはフレーム、タイヤに、必要ないけどマフラー、あとカウルも作らなくちゃいけない。

 三輪車のデータから、ホイールはメタルオークの骨でいける。ゴムも被せるタイプじゃなく、ラバーコブラの皮を巻きつけるだけで十分グリップを得られる。

 

「あ、そうだ。ヘルメットも作るか。フルフェイス式……ジャケットとか、プロテクターも俺好みのオーダーメイドしちゃおうかな~と」


 やべえ、ワクワクしてきた。

 そして、頭に浮かんだ光景。


「……バイクの荷台にキャンプギアを積んで、郊外の森とかでソロキャン……」


 う、おおお……!! 想像したらメチャクチャいい、いいぞ!!

 馬車よりも移動は早いだろうし、マジでいい!!


「バイク作れるなら車もいけるな。昔、じいちゃんが中古で買ったゴーカートの修理手伝ったこともあるし……マ〇オカー〇みたいなのなら作れるな。というか……そんなモン発売したら、この世界では革新的なモンじゃないか?」


 いずれは飛行機とか、それこそスマホとか……まあ、無理か。

 と、エンジンを眺めながら考えていると。


「おっさん、いるー?」


 ロッソの声。

 一階の作業場にいたのですぐに来た。

 ロッソ、ブランシュ、アオ、そしてヴェルデだ。


「やっほー、遊びに来たよー!!」

「……おじさん、忙しい?」

「ふふ、おじさま、お土産を持って来ましたわ」

「へえ……ここがゲントクの仕事場なのね。魔道具開発所……なかなか広いじゃない」


 姦しい、ってこういうのを言うのかね。

 俺はエンジンから視線を離し、軽く手を上げる。


「おう、相変わらず大活躍なようで」


 四人になった『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』は、レレドレから戻るなり脚光を浴びた。

 ヴェルデの加入……ロッソとは犬猿の仲と言われていたし、冒険者ギルド壊滅寸前の大乱闘までした二人が、楽しく笑いながらギルドに入ってくれば、そりゃまあ注目される。

 そして、四人で活動を始めるなり、大型の危険魔獣を連続で討伐したり、討伐レートSSの魔獣を何匹も討伐したり、もう大活躍。

 ヴェルデの評価はこれまで最悪だったが、今では憧れの一人として人気なようだ。

 アオがため息を吐く。


「……活躍はいいけど、めんどくさいことも増えた」

「めんどくさいこと?」

「ええ。私たちのチーム、最後の一人の枠に加わりたいと、世界中の冒険者が来るようになりまして」

「人気者は大変!! ふふん、ねえロッソ、最後の一人、どうするの?」

「んー、別に考えてないけど。ってか今のメンバーでよくない? おっさん、どう思う?」

「そうだなあ」


 ラノベ的ストーリーなら……ここで「最弱だけど才能の塊」みたいな気弱な少年が加入し、ロッソたちと共に戦い徐々に才能を開花させ、ロッソたち一人一人とフラグを立てハーレムを形成……最終的に、ロッソたちをも超える力を手に、最終決戦で見事勝利、最後は白タキシードを着て、ウェディングドレス姿のロッソたち四人を嫁に……みたいな感じか。


「まあ、空けておけばいいんじゃないか? 無理に五人にしなくても、お前たちが気に入ったヤツを入れればいいさ」


 まあ、無難な答えはコレだろう。

 というか、ハーレムなんてろくなもんじゃない。一人の男に複数女性が群がっても、アニメや漫画みたいな「みんな仲良し」なんてあり得ないぞ。男が女を洗脳でもしない限り、歪な関係は絶対に無理だ……たぶん。

 するとアオ。


「……おじさん、これなに?」


 おお、エンジンに目を付けたか。

 まあ、ガワだけだし、知らん奴が見れば「妙な鉄の塊」にしか見えんだろう。


「今は内緒。それと、完全に趣味で作ってるモンだし、たぶん製品化しない」

「……気になる。おじさんの魔道具、どれも面白いし」

「そうそう!! アタシ、水中スクーターは感動したなー、今年の夏もまたやるし!!」

「ちょっと!! 私の知らない話で盛り上がらないでよ!!」

「ふふ。ヴェルデ、今年はあなたも一緒に行きますわよ。水中スクーター、本当に楽しいのよ?」

「むぅぅ、気になるわね」


 そのうち、ヴェルデ用の水中スクーターも作るか。色は……うん、緑だな。


「あ、そうだおっさん。ヴェルデも加入したし、野営用の道具とか追加で作って欲しいな」

「ああ、そうだった……実はもう作ってある」


 俺は、地下から新しいワンタッチテントと、ホットサンドメーカーやクッカーを出してきた。

 テーブルに並べると、ロッソが目をキラキラさせる。


「わお、新品!! あれ……でも、少し大きくなってるね」

「ああ。お前たちにあげたヤツは、試作品みたいなモンだしな。ヴェルデも加入したし、素材もいいの使って、今までのよりサイズを少し大きくしてみた」


 同じのを二個より、一つのモノを立派にしてみた。

 テーブルに並べたキャンプギア、そして魔道具を、女子四人はキャッキャしながら手に取る。


「おっさん、これなに?」

「折り畳み式ナイフだ。刃はエッジマンティスの鎌から作ってみた。ちょっとやそっとじゃ刃こぼれしないぞ。予備も何本か作ったから、調理用ナイフとかにも使ってくれ」

「……鍋、大きい」

「フライパン、鍋、ポットのワンセットだ。この耐火袋にまとめて入るから使ってくれ」

「まあ、お皿も」

「皿は、魔獣の骨を加工して作ってみた。軽いし、汚れを弾くようにオイルトードの脂を塗って乾かしてある。それと、これはカトラリーセット。ナイフ、フォーク、スプーンをワンセットでまとめられるように加工してある」

「これは? 鉄の……板? 畳んであるの?」

「焚火台だ。折り畳み式で、今まで使ってたやつより少し大きい。網もあるから、この上で焼肉もできるぞ」


 他にも、ビニールっぽい素材で作った水用のタンクや、収納が簡単なランプスタンド、タープに伸縮式のポール、サイズを小さくした折り畳み椅子を四つ、代わりに少し大きくしたテーブル、魔導コンロと、考え付く限りのものを作ってみた。

 

「とりあえず、機能を損なわず、できるだけ収納しやすいように作ってみた」

「……すごい」

「ああそうだ。アオ、これ」


 俺は、伸縮式のサオをアオに渡す。


「……これ、竿?」

「ああ。前に渡したヤツよりも短い。海釣り、遠投用の竿じゃ川で使えないしな……普段使いならこっちのがいい」

「……おじさん、ありがと」


 アオは竿を受け取り、笑顔を見せてくれた。

 ついでに、ケースに入れた俺特製の糸セット、針セット、重りセットも渡す。釣り友として頑張って欲しいぜ。


「とりあえず、これで全部だ。使ってみて気になることがあったら教えてくれ」

「ってか、これいくら? 代わりの欲しいとは言ったけど、こんなすごいの出てくるなんて思わなかったわ」

「金はいい。もしかしたら、アレキサンドライト商会で販売するかもしれんし……使い心地の報告とかでいいや」

「ふふ、おじさま、ありがとうございます」

「……感謝。ねえ、今度のお休み、釣りに行こう」

「ゲントクの道具……本当にすごいのね。私、感動してるわ」


 みんな喜んでくれたようで、俺も嬉しい。

 そう思っていた時だった。


「こんちゃー!! おっちゃん、いるー?」

「……ったく、声デケェっての」


 お客さん……と思ったら、どこかで見た顔だった。

 一人は、金髪ポニーテールの巨乳少女、もう一人は背中に刀を二本背負い、口元をマフラーで隠した紫色の髪を逆立てた少年だった。


「あれ、お前たち……ああ、リーンドゥにウングだっけ? エーデルシュタイン王国に戻ってたのか」

「うんうん、ウチら……って、あれ」

「……おいおい、マジか」


 すると、ロッソが冷たい声で言った。


「リーンドゥ、ウング……なにアンタら、ここに何の用事?」

「本当にそうですわね。まさか、あなたたちの顔を見ることになるなんて」

「そりゃこっちのセリフだし。ウチら、おっちゃんに仕事の依頼しに来たんだけど、なーんであんたらがいるわけ~?」

「……ウング」

「ようアオ。相変わらず、辛気臭いツラしてやがる」


 な、なんだ? 妙に険悪な気がする。

 すると、ヴェルデが俺の隣に来てコソッと言う。


「ちょっと、なんでこいつらがここに来たのよ」

「こいつらって、前にレレドレで会ったんだよ。まあ、挨拶程度だけど……なんだ、仲悪いのか?」

「最悪、ね。私もロッソといろいろあったけど、この二人……ううん、三人ほどじゃないわ」

「三人?」

「ええ。『黄』のリーンドゥ、『紫』のウング、そして最後の一人」


 すると、オレンジの髪に額当て、オレンジの鎧一式を見に纏った少年が現れた。

 一瞬、太陽が歩いてきたのかと思った。それくらいイケメンで、眩く見えた。


「やあロッソ、久しぶりだね」

「バレン……」


 にこやかな少年は、ロッソに太陽のような笑みを向ける……だが、すぐに俺に視線を向けた。


「初めまして。自分はバレンシア・オランジュと申します。一応、オランジュ男爵家の三男です」

「これはどうもご丁寧に。ここの所長の玄徳です」


 なんと、お貴族様でした。というか……なんだろうか。

 ロッソとバレン。アオとウング。ブランシュとリーンドゥがそれぞれ睨み合っている。バレンはニコニコしているだけだが。

 

「……因縁があるのよ、この六人」

「そ、そうなのか? ん……じゃあお前は?」

「う、うるっさいわね!! どうせ仲間外れだし!! 『七虹冒険者アルカンシエル』で最も孤独だし、文句ある!?」


 俺はキレたヴェルデに詰め寄られた……というか、これはマズい。


「ちょい待った。お前たち、なんか因縁あるのか知らんが……ここで暴れるなよ。それとロッソたち、お前たちがどう思おうと、ここに来た以上は俺のお客だ、商売人としてそこは譲らんぞ」

「「「…………」」」

「ふふん。おっちゃんってばわかってる!! ウチ、おっちゃんのこと気に入ったかも!!」

「はいはい。で、本日のご用件は?」


 とりあえず……ロッソたちも微妙な顔してるし、さっさと仕事しますかね。

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