エアリーズの秘湯

「あぁ~、かわの、ながれの、よぉぉぉぉ~にぃぃぃ~……ってかあ」


 スーパー銭湯計画が始まって一週間……俺の仕事は終わり、ただひたすら温泉を満喫していた。

 現在、別荘の露天風呂でデカい声で歌を歌いながら湯を満喫。

 いい感じに温まり、俺は風呂を出た。


「あぁぁ~……朝風呂最高」


 浴衣に着替え、タオルで髪を拭きながらキッチンへ。

 冷蔵庫に入れておいた自己流の浅漬け(野菜を適当に塩漬けしただけ)と、キンキンに冷えたミニ樽からジョッキにエールを注ぎ、コタツに入る。

 そして、まずはエールを一気飲み。


「っかぁぁ!! 朝ビール最高ぅぅ……ぉう」


 この背徳感……最高。

 俺は浅漬けを食べる。異世界の白菜、人参、キュウリなどを漬けてみたが、意外にも美味い。

 でも、白菜は青く、キュウリは黄色、人参は桃色なんだよな……異世界じゃこれが当たり前だけど、形だけ俺の知ってる野菜で色だけ違うのは、ちょっと食うのに勇気が必要だった。

 鍋とかで使う野菜は普通の色なんだが……この辺でしか収穫されない野菜らしい。

 まあ、うまいからいいや。


「はぁ~……今日は何すっかなあ」

『みー、みー』

「ん? おう白玉。今日は何する?」


 この辺はだいぶ散策した。

 観光地なので、酒場よりは土産物店やカフェが多い。

 細道を通って隣の区画に行くと、飲み屋が豊富にあったのでよく利用している。

 昼間から飲み歩くのも悪くない。それか、別荘の反対側にある温泉スポットを巡るのもいいなあ。


『……にゃ』

「ん? おう大福。珍しいな」


 考えていると、大福が俺の元へ。

 頭を撫でると、そのままコタツに座る俺の胸元へ潜り込み、白玉と一緒に丸くなった。

 コタツに猫……最強の組み合わせだ。

 しばし、猫二匹を撫でていると、インターホンが鳴った。


「はいはーい。悪いなお前ら、来客だ」


 猫たちをどかして玄関へ行くと、そこにいたのは。


「おっさん、やっほー!!」

「ふふ、おじさま、遊びに来ましたわ」

「……おじさん、飲んでる?」

「もう、だらしない生活ね!!」


 ロッソ、ブランシュ、アオ、ヴェルデ。もはやおなじみとなった四人だ。

 四人を居間に案内すると、アオがさっそくコタツに入り大福を抱っこする。

 ブランシュ、ヴェルデが並んで座り、ロッソがその向かい側、俺はアオの向かい側に座る。

 果実水を出し、俺はロッソに聞いた。


「今日はどうした? 何か用事か?」

「うん。あのさ、エアリーズお姉さんから『レレドレの秘湯』の話聞いてさ、おっさんのこと誘いに来たのよ」

「……レレドレの、秘湯?」

「うん。えーっと、なんだっけ……ブランシュ、お願い」

「はいはい。エアリーズ様曰く、『温泉の町レレドレで一番の名湯』らしいですわ。そこはエアリーズ様が管理している場所で、エアリーズ様が認めた方しか入ることのできない湯だそうです」

「そんな湯があるのか……すげえな」


 一番の名湯……なんか、聞くだけでワクワクする。

 アオは、大福を撫でながら言う。


「エアリーズ様、おじさんを誘ってみんなで入っていいって。鍵もらった」


 アオの手には、ゴツイ金属のカギがあった。

 

「ふふん、ゲントク。最高の温泉を味わいに行きましょう!!」

「いいね。よし、今日は最高の温泉でゆっくりするか」


 さっそく、俺たちは最高の温泉とやらに向かうのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 エアリーズが管理している温泉地は、レレドレの北部、エアリーズが住む区画にある。

 やはりエアリーズもエルフ。エアリーズの管理する土地は森に包まれ、入口には木製の門があった。

 アオは、その門に鍵を差して捻り、門を開ける。

 その先には道があった。


「この奥みたい」

「すごいな……町の中なのに、森の中みたいだ」


 森の道を進むと、小さな建物が見えた。

 掘っ立て小屋……と言うにはしっかりした作りだ。一軒家なのか二階建て。

 家に入ると、そのまま脱衣所になっていた。二階は休憩所で、そのまま寝れそうだ。

 脱衣所の奥に扉があり、開けてみると。


「「「「「おお~……!!」」」」」


 俺たち五人、驚いた。

 そこにあったのは、二十五メートルプールほどの大きさの岩風呂だった。

 目隠しも何もない、森の中にポツンとある巨大な温泉。

 濁り湯。乳白色の湯だ。触れてみると温かく、トロッとしている。不思議と甘い香りもした。


「すっげえな。どういう成分なんだ?」

「ね、ね、入ろうよ!!」

「ちょ、おばか!! 服を脱ぐのが早いですわ!!」


 ロッソが脱ぎ始めたので、俺は二階へ避難……。


「あれ? おっさん、どこ行くの?」

「二階で寝てる。四人でゆっくり入ってくれ」

「えー? いいじゃん、みんなで入ろうよ!! ね、いいよね!!」


 いやいやいやいや、何言ってんだお前は。


「ね、いいよねブランシュ」

「う、うーん……まあ、湯気がすごいですし、広いですし……うーん」

「アオ、どう?」

「……恥ずかしいけど、見ないならいい」

「ヴェルデは?」

「い、嫌よ!! み、未婚の女性が、婚約者でもない男性と一緒に、お風呂なんて!!」


 ヴェルデの反応が正しいぞ。

 というか、そんな美味しいイベント、俺には相応しくない!!


「じゃ、三対一で、おっさんも一緒で決定!! よっしゃいちばーん!!」

「うおっ!?」


 ロッソ、素っ裸になると湯舟に飛び込んで泳ぎ始めた。

 いやいやいやいや、さすがにまずいだろ。


「……おじさん」

「お、おう。悪い、二階にいるから」

「……服脱ぐからあっち向いてて。お風呂入ったら、入ってきていいよ」

「え」

「……はあ。まあ、わたくしもいいですわ。おじさまには感謝していますし、サービスしてあげますわ」

「さ、サービス?」

「……ふ、二人とも、本気?」


 アオ、ブランシュが脱ぎ始めたので、俺は慌てて後ろを向いた……って、なんだこのイベントは!? こ、混浴イベント!? マジで!?

 二人が湯舟へ向かい、残ったのは俺とヴェルデ。


「…………」

「あ、あ~……シュバンとマイルズ、今日はいないんだな」

「……別荘の掃除をしてるわ。というか、本気で入るの?」

「……はぁ。お前が嫌なら行かないよ。ロッソたちはまあ、そこそこ付き合いあるし、なんというか……距離近いしな」

「はあ……で、あなたは皆さんのこと、どう思ってるの?」

「友人、それと相互契約相手かな。まあ、俺おっさんだし、間違っても恋愛感情とかはないぞ」

「……はあ、仕方ないわね。言っておくけど、私はロッソたちみたいに甘くないので。不埒な真似をしようものなら、ぶっ飛ばしますからね……はい、後ろ向く!!」

「お、おう」


 後ろを向くと、ヴェルデが服を脱ぐ音が聞こえてきた。

 そして、ドアが開き言う。


「じゃ、ロッソたちを浴槽の奥へ誘導しますから、あなたは手前の方ね」

「……ああ、悪いな」


 なんか混浴することになってしまった……まあ、別にいいか。


 ◇◇◇◇◇◇


 服を脱ぎ、しっかり腰にタオルを巻いて浴場へ。

 さすがに浴槽がデカい。プールサイズの浴槽の奥に、ロッソたちがいる……が、湯気でよく見えない。

 俺は素早く身体を洗い、浴槽へ。


「う、ォォォ……なんっじゃこりゃあ」


 とろっとろの湯。すごい、なんだこれ……甘い香り、そして沁み込むような心地よさ。

 ヤバイ、溶けそう。身体がドロドロになりそう。


「あぁぁ~……おっさん、ヤバいねこれ」

「おう……って、ロッソ!? おま、近いっての!!」


 ロッソが一メートルくらい隣にいた。

 

「ちょっと、近い!! ロッソ、バカ!!」

「ろ、ロッソ!! あなた。こっちに戻って来なさい!!」


 ヴェルデ、ブランシュが遠くで叫んでいる。


「……きもちいい」

「うおお!?」


 なんと、アオも近くにいた。

 首まで湯に浸かってるおかげで見えない。だが近い!!

 ロッソは俺の前を湯に浸かったまま横切り、アオの元へ。


「きもちいいね~……最高の湯ってのも納得だわ~」

「……同感。不思議な湯」


 ……まあいいや。

 肌が見えるわけじゃないし、俺も手ぬぐいを頭に乗せた。


「なぁ、ここ出たら冷たいエール飲み行かないか?」

「行く!! ね、アオもたまには飲まない?」

「……うん。おじさん、おごって」

「ああ、いいぞ」


 と……ここで、ブランシュが這うようにこっちへ。

 首から下が見えない状態で、アオの隣へ来た。


「お、おじさま……こっちを見ないでくださいね」

「おう。安心しろ、全然見えないから」

「う~……やっぱり、少し恥ずかしいですわね」

「ブランシュ、おじさんは見えても気にしないと思う。大丈夫」


 ……そ、それはどうかな。

 まあ、正直なところ……ロッソたちの裸より、温泉の気持ちよさが遥かに上だ。今はこの快楽に身をゆだねたいとおもうのが、しぜん。


「あぁぁ……なあ、今日って何日だっけ」

「えっと……十二月の、二十日くらいだったかなあ」

「そっかあ……とりあえず、今月いっぱいは温泉堪能するかあ」


 温泉、別荘、美味い物に、温泉まんじゅうに……やべえ、思考が蕩ける。

 すると、ヴェルデがすすーっとやって来た。


「こ、こっち見たら殺しますから!!」

「お~」

「……なんか適当な返事ね」


 悪い、裸より温泉だわ。

 エアリーズ、いい温泉ありがとう……今度会ったらおごってやるか。

 するとロッソ。


「あれれ、ヴェルデ……アンタ恥ずかしいんじゃなかったの?」

「だ、だって……みんな楽しそうだし、仲間外れ嫌だし」

「ふふ。ヴェルデって、とってもかわいい子ねえ」

「……女の子みたい」

「な、み、みんなして馬鹿にしないで!! この『緑』のヴェルデ、寂しいとかないし!!」

「「「ヴェルデ、かわいい~」」」

「う、うるさーい!! もう、バカにしないでよー!!」


 ヴェルデ、ざばっと立ち上がり、両手を上げて猫のように威嚇。

 俺はぼーっとしつつも、その身体をじっくり見てしまった。


「おお……」

「え? あ」


 揺れる胸、白い肌、そして見えちゃいけない部分……いやあ、お約束では湯けむりとか、謎の光が入って隠れるんだが……これ、リアルなのよね。


「…………っひ」

「すまん」


 ヴェルデの絶叫が周囲に響き渡り、森の木々を揺らすのだった。

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