進捗状況と四大商会
さて、俺がレレドレに来て二十五日が経過した。
エーデルシュタイン王国ではそろそろ冬が終わり春になる……まだ一月前なんだが、もう春が来るとかなんか変な感じがするな。
でも、万年冬のスノウデーンは、今日も雪が降っている。
俺は、コタツに入って熱燗を飲み、太ももの上で香箱座りをする大福を撫でつつ、のんびり新聞を読んでリラックスしていた。
大福……撫でると喉がゴロゴロ鳴るのが可愛い。
すると、インターホンが鳴る。
「はいよー」
大福にどいてもらい玄関へ。
玄関にいたのは、エアリーズにサンドローネ、リヒターだ。
三人を居間に案内し、お茶を出す……あ、大福、サンドローネの方に移動した。
ちなみに白玉はキャットタワーで寝そべっている。
「ゲントク。整地、基礎工事が終わった。これから建築に入る。合わせて、スノウデーン王国とエーデルシュタイン王国を繋ぐ街道も整備している」
「はやっ……おいおい、工事始まってまだ二週間くらいだろ? もうそこまで進んだのか?」
驚く俺。図面を見せてもらったが、スーパー銭湯の広さは都会にある大学とかの規模だ。二週間かそこらで整地、基礎が終わるなんて。
するとエアリーズ、フッとニヒルな笑みを浮かべた。
「私を甘く見るなよ? 二千年、この大地に住み、開拓をしてきたエルフ族だ。土地開拓用の魔法は大得意だぞ」
「お、おお……そういや、エルフ族って魔法の天才だっけ」
「こほん。それと、建築に必要な素材は全て、エーデルシュタイン王国にいる材木屋、大工を私が雇い、素材加工をした状態で運んでいるわ。こちらに資材が届くと同時に建築に移れるわ。それに……獣人は総勢二百名、五十名、四チームに分けて、十二時間交代で作業させているから、休むことなく作業は続いているわ」
ちなみに、スーパー銭湯建築予定地の近くには村があり、そこで作業員は休憩したり睡眠を取ったりしている。サンドローネが臨時で酒場や飲食店などを開き、作業員たちの家なども作ったそうだ。
エアリーズが言う。
「二か月で、全て終わらせる予定だ。それから、アレキサンドライト商会が主体で、王都で『スノウデーン王国・温泉観光ツアー』の宣伝もする予定だ」
「ふふん。アレキサンドライト商会で新たに観光業も立ち上げたからね。ゲントク……旅行で便利な魔道具、何か考えておいて」
「そうか。スノウデーン王国で使うなら……カイロとか、電熱ベスト、グローブとかか」
「なにそれ?」
「着るとあったかい上着だよ。ホットカーペットあるだろ? その技術を上着や手袋に流用するんだよ」
「……なるほど。いいわね。旅行だけじゃなく、スノウデーン王国でも売れるわ。コタツ、エアコン、ホットカーペットに床暖房……いいわ、実にいいわね」
サンドローネはやる気に満ちていた。
リヒターに向かって「聞いていたわね?」と言うと、リヒターは「イェランさんに報告しておきます」と言った。まあ、イェランならうまくやるだろう。
「なあ、王都からスノウデーン王国まで一週間くらいかかるんだろ? スーパー銭湯までは三日くらいの距離か? ツアー組むなら、ちゃんと休むところは必要だぞ」
「それなら問題ないわ。ちゃんと、スノウデーン王国内の町や村を経由するルートを考えているから」
まあ、そういうのはサンドローネの仕事だ。
というか、俺は思った。
「いやはや、アレキサンドライト商会……どんどんデカくなるな。手広く広げすぎじゃないか?」
「むしろ、物足りないわ。いい? エーデルシュタイン王国で一番の商会になるのは、私にとって足掛かりにすぎない。いずれ、この世界に名を轟かせてみせるわ」
「ほう、サンドローネ。お前の目標は『四大商会』の仲間入り、といったところか」
「……ええ」
エアリーズが言うと、サンドローネが頷いた。
「……どうしても、超えたいヤツがいるので」
サンドローネは、歯を食いしばるような顔をした。
こいつとも二年くらいの付き合いになるが、初めて見た……というか。
「四大商会ってなんだ?」
「それは、私がご説明いたします」
リヒター、ってお前……太ももに白玉が乗ってじゃれてるぞ。
◇◇◇◇◇◇
四大商会。
それは、この世界で最も有名で、金持ちで、知らぬ者はいない商会だ。
一つ。
この世界に存在する『武器』や『防具』の製造、販売を手掛ける大商会。
ドワーフ族を従える竜人族の王、バハムートが商会長を務める『アドライグゴッホ武商会』
この世界に流通する武器の六割は、アドライグゴッホ武商会に所属するドワーフたちの手によるものらしい。国に納める武器とか防具とか、みんなここが作ってるそうだ。
二つ。
銀行という仕組みを作り、商業ギルドから独立した組織として世界中に支店を持つ商会。正確には商会じゃないけど、四大商会の枠組みに存在する組織。
『ゴールデンドーン大銀行』の会長、エルフ族にして『蟹座の魔女』クレープス・キャンサー。
三つ。
異世界版のコンビニみたいな、世界中に存在する食料品店、その名も『ウェンティズ食品商会』の創業者。世界中に数千の店舗を持つ妖精族、ウェンティ・ラプライヤー商会長。
そして四つ……なんかもう情報多すぎて疲れてきた。
魔道具技師を目指す者が最初に契約を考える魔道具専門商会。
『クライン魔道商会』の商会長、ミカエラ・クライン。
この四つの商会、そして四人の商会長は、世界四大富豪、四大商会とか言われているそうだ。
ってか情報多すぎる。俺の人生で全く関わらないであろう人物たち……んん、あれ?
「……ミカエラ? なんか、どっかで聞いたような……あ!! なあリヒター、ミカエラって子、もしかして……桃色のロングヘアだったりする? イケメンの護衛とかいる?」
「え? ええ……アベルさんですか? というか、なぜご存じで?」
「いや、以前に町を散策してたら、偶然会ったんだよ」
「……そう、ですか」
と、リヒターはチラッとサンドローネを見た。
サンドローネは、どこか悔しそうにしている。
「……お前、知り合い?」
「…………まあ、ね」
う、厄介ごとの予感。
俺はこれ以上言わず、話を変えることにした。
「あ~……今日は進捗の報告か? まあ、俺は別にアイデア出しただけだし、あとは気にしなくていいぞ。ああ、ロイヤリティとアイデア料金だけもらうわ。あとは、サンドローネに任せるから」
「む、そうか。ああそうだ、今話に出たクレープスだが、お前に興味を持っていたぞ。ふふ、このアツコの肩身を修理してもらったと言ったら、クレープスもお前に会いたがっていた」
「あ、ああ……まあ、王都の店に修理依頼に来たなら、直してやるよ」
何もってるか知らんけど。
とりあえず、いろいろ情報が『濃い』から、後にしてくれ。
「それと、もうすぐ一月になるし、俺もそろそろエーデルシュタイン王国に戻ること考えないとな。明日あたり、ロッソたちに相談するか」
「何? 帰るのか……じゃあ、しばらく会えそうにないな。ゲントク、今日は私の奢りで飲みに行かないか? もちろん、サンドローネたちも一緒に」
「いいね。へへ、俺の行きつけか、お前の行きつけ、どっちにする?」
「ふふ、すっかり町の人間だな。では、一軒目はお前の、二軒目は私の行きつけにしよう」
こうして、エアリーズと最後の夜は、飲み屋で過ごすことになった。
そろそろ一月、王都に戻って仕事再開しないとな。
「ああサンドローネ、頼みあるんだが」
「何かしら?」
おっと、帰る前に、やっておくことがある。
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