大福、白玉

 翌日。

 別荘で迎える初めての朝……畳敷きの部屋、木製ベッド、窓を開けると雪景色。

 天気もよく、窓から差し込む光がやけに明るいと思ったら、どうやら雪が降ったのか地面の雪に光が反射し、部屋に差し込んでいたようだ。

 俺はブルっと震えた。


「……さむっ」


 寒い……暖炉はあるけど、いちいち薪を燃やすの面倒くさい。

 ストーブ系の魔道具もあるけど、この別荘にはないんだよな。

 とりあえず……今日、商業ギルドに行って素材を大量に買って、全部屋にエアコン付けよう。『温風』の魔導文字はまだ登録されてないよな?

 この世界のストーブって、薪を燃やす暖炉がメインで、魔道具では『熱』の魔石をはめ込んだダルマストーブみたいなやつが主流なんだよな。

 ストーブそのものを高熱にして、その熱で部屋を暖めるという……なんか危ないぞ。


「とりあえず……エアコン全室、コタツを一階に用意するか。今日は買い物だ……ん?」

『ニャア』

『ミー』


 部屋の隅に敷いた毛布の上に、白い百年猫が寝そべっていた。

 昨日、子猫が生まれたんだよな。ヨチヨチ歩きで母猫の周りを歩いている。まだ目も開いていないし、歩き回ってすぐに母親のところでお乳をもらっている。

 母猫は、子猫をペロペロ舐めたりしてるし……可愛いな。


「……猫用のトイレとか、爪とぎとか用意するか」


 俺はベッドから起き、寒さに震えながら着替えをした。


 ◇◇◇◇◇◇


 一階に降りると……なんか空気が重かった。


「「…………」」


 ロッソ、ヴェルデが顔を見ようとせずにドンヨリしている。

 俺は居間に入らずキッチンへ。

 キッチンではマイルズさん、シュバンが朝食の支度をして、アオとブランシュは座ってお茶を飲んでいる。

 まず、マイルズさんのところへ。


「ゲントク様。キッチンをお借りしています。まもなく、朝食の用意ができますので」

「あ、ありがとうございます。あの~……なんか暗いんですけど、なんかありました?」

「……私の口からはなんとも」

「じゃあシュバン、教えてくれ」

「オレもちょっと……」


 とりあえず……二人は言うつもりがなさそうだ。

 朝食の支度を任せ、俺はアオの元へ。


「おす、いい天気だな」

「おじさん、おはよう」

「おはようございます。おじさま」

「おう……なんかあったのか?」


 ボソッとアオに聞くと、うんと頷いた。


「昨日、二人は仲直りしたよね。で……今朝起きたら、二人とも裸でベッドにいたの」

「え」

「おじさま、勘違いなさらぬように。飲み過ぎた二人が「暑い暑い」というので服を脱がせたら、一緒のベッドに潜り込んで寝ただけですわ」

「そ、そうか」

「で……昨日、キスとかもした二人、起きたら裸だったし、なんか暗い」

「あ~……」


 気恥ずかしいのかな。「やっちまった……」って感じの雰囲気もする。

 でも、喧嘩したというか、気まずいだけだろう。

 俺はブランシュに「なんとかしてくれ」というと、ブランシュは頷いた。


「ロッソ、ヴェルデ。二人ともしゃんとなさいな。今日は、わたくしの別荘に行くのよ?」

「え……私も? いいの?」

「ええ。ふふ、ヴェルデはもうお友達。だから、わたくしの別荘に招待しますわ」

「ブランシュ……あ、ありがとう!!」

「……ヴェルデ。私も友達だよ」

「アオ……その、いろいろとごめんなさい。私……」

「もう謝った。だから、もうおしまい。ロッソも、ちゃんと許したから」

「ロッソ……」

「……ああもう!! そーね、なんかいろいろぶっちゃけたけど、もうおしまい!! ヴェルデ、これからは友達よ。しばらくレレドレで過ごすんだから、楽しくいくわよ!!」

「……ぁ、うん。うん!! 一緒に遊ぶ、冒険する!!」


 ヴェルデは笑い、涙を拭った。

 すると、マイルズさんが山盛りサンドイッチを運んできた。


「さあさあ、朝食です。みなさん、たくさん食べてくださいね」

「やった!! ヴェルデ、アンタの従者って料理上手じゃん」

「ええ。マイルズはプロの料理人でもあるんだから!!」

「……おいしそう」

「ふふ、ならしばらくは私の別荘で料理をしてもらってもいいかしら?」

「もちろん、いいわよね、マイルズ!!」

「もちろんでございます」


 マイルズさんは一礼……まさか、料理人だったとは。

 すると、シュバンが俺に言った。


「……ゲントク様、感謝する。お嬢様に笑顔が戻った」

「いや、俺は何もしてないぞ。ヴェルデが頑張った結果さ」


 まあ、酔っ払って泣き上戸になり本音をブチ撒けただけだが。

 でも……あの笑顔が見れただけで、レレドレに来た価値はあるだろうな。


 ◇◇◇◇◇◇


 ロッソたちはブランシュの買った別荘へ。

 残された俺は、一度百年猫たちの様子を見に行った。

 すると、階段を降りて母猫が子猫を咥え、俺を横切って外へ。


「お、おい、どこ行くんだ? 外は寒いぞ」


 ついて行くと、母猫は子猫と一緒に外へ。

 近くの茂みに入ると、なんとそこで用を足す……まさかこいつ、家を汚さないために外へ?

 そして、用を足し終えると、再び子猫を咥えて家の中へ……驚いた。こいつ、ちゃんと足ふきマットの上で足を拭いてやがる。


「頭いい猫だな……まあ四十年生きてるもんな」

『……ニャア』

「え、へ、返事したのか?」


 母猫は、のそのそ歩いて一階の隅っこへ。

 なるほど、二階だと用足しが面倒だから一階か。よし、毛布を持ってきてやるか。

 毛布を一階に敷くと、母猫は寝そべる。

 俺は水の器を置き、炊いたザツマイに細かく刻んだ魚の切り身を混ぜて出す。

 母猫はモグモグ食べ始めた。


「……猫、か」


 異世界モノにありがちな、助けた動物や伝説の神獣が美少女に変身してラブラブしたり、クソカッコいい中二病な名前を付けてめちゃくちゃ強かったりとかじゃなさそうだ。

 ただ、長生きなネコ……まあ、俺みたいなおっさんには相応しいか。いきなり美少女に変身するとかだったら嫌だけど。


「なあ、お前……俺が飼ってもいいか? 面倒見させてくれ」

『…………』

「その代わり、メシの用意とかする。たまに撫でたり抱っこさせてくれ。今はまだ何もないけど……この別荘も、お前が、いやお前とお前の子供が過ごしやすく、快適にするからさ」

『…………』

『ミー、ミー』


 おお、子猫がすり寄って来た。

 まだ肉付きも薄く、撫でると頭蓋骨の硬さしか感じない。眼も開いてないしな。

 

「そうだ、名前が必要だな」


 さて、どうするか。

 異世界系なら、ガロとかナイトとかハクアとか付けるんだろうけど、俺そういうの嫌いなんだよね。

 真っ白なネコ、その親子か。


『…………ごろろ』

『ミー、ミー』

「ふむ……白い、そして今は真ん丸になってるから……よし、お前は『大福』だ。そして小さい丸い子猫は……『白玉』だな」

『…………』

「い、いいか? お前は、大福」

『にゃぁぁ』


 いいのかな……欠伸して丸くなったけど。

 子猫も欠伸をすると、母猫の傍で丸くなって寝てしまった。


「よし、いいと取るぞ。今日からお前は大福、お前は白玉だ」


 こうして、俺は別荘で猫を飼うことにした。

 白い猫の親子。親は大福、子猫は白玉だ。


「さて、エアコンとコタツ、あとホットカーペットもあった方がいいな。エサ皿、あと猫トイレ……魚の切り身とかいっぱい買っておこう。さて、商業ギルドに行くかな」


 とりあえず、今日は買い物して、別荘の環境を整えることにするか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る