エンジョイライフ
「うし、四つ目完成」
俺は水中スクーターの四台目を完成させた。
三台はロッソたちで、一台は俺の。喧嘩しないよう三台作っちまった。
さらに、色も変えてある。赤、青、白の三色で、それぞれロッソたちをイメージした。
これで、あいつらが来た時に喧嘩にならないだろう。
「あ~疲れた。今日の仕事終わりにして、少し休憩……って!! 『今日の仕事終わり』じゃねぇし!! なんで俺仕事してんだ!?」
ノリツッコみ……待てマテ、なんで俺マジでこんなことやってんだ。
サンドローネが出て行って半日……今日も地下室で魔道具作り。
魔道具だけじゃない。ビーチパラソルも作ったし、俺でも持ち運びできる冷蔵庫……いやクーラーボックスも作った。
なんかもう、いろいろ作りたくて仕方ないのか、俺は。
「ダメだダメだ!! もっとリゾートを楽しまないと!! よし、ビーチに行くぞ!!」
俺は飲み物とツマミをクーラーボックスに入れ、作ったばかりのビーチパラソルとビーチチェア、折り畳みのテーブルを持って砂浜へ。
パラソルを立て、ビーチチェアを置き、テーブルを置く。
足元にはクーラーボックスを置き、テーブルの上に飲み物と灰皿を置いた。
海パンになり、ビーチチェアに寝そべった。
「ふう……」
波の音が近く聞こえ、まぶしい太陽の光はパラソルで遮断される。
海風が身体を撫でつけ、疲労のせいか睡魔が襲って来る。
俺は、クーラーボックスから冷えた果実水を出し、一緒に冷やしておいた氷入りグラスに注ぐ。
「果物とか入れてトロピカルドリンクにするといいんだが、そこまではめんどくさい……」
果実水を飲むと、心地のよい甘さが口の中に広がる。
ツマミは、乾燥させたナッツ。
煙草に火を着けて吸い、煙を吐き出す。
「ふぅ~……」
最高だ。
これこそ、リゾートライフ。
俺は読みかけの本を取り出し、スマホに入れてあったジャズベストを流す。
太陽光充電機もあるし、スマホのバッテリーは問題ない。幸運なことに、このスマホ買ったばかりだしな……でも、いつかは壊れる日が来る。
さすがに、スマホの修理はできない。
「……」
しばし俺は読書に没頭し、のんびり身体を休めるのだった。
◇◇◇◇◇◇
「起きなさい」
「んが……ああ? なんだ、サンドローネか……」
いつの間にか寝てしまったようだ。
空はすっかりオレンジ色になり、昼間より少し涼しく心地いい。
欠伸をして立ち上がり、サンドローネを見た。
「なんか用か? そろそろ晩飯だ……ふぁぁぁ」
「単刀直入に言うわ。あなたに会いたいっていう魔道具技師がいるの」
「パス。俺、バカンス中だから」
俺は背伸びをして別荘へ歩き出す。パラソルとかチェアはそのままで、クーラーボックスを担いで行く。するとサンドローネがクーラーボックスを見た。
「それ、持ち運びできるサイズの冷蔵庫ね……なるほど。海では冷たい飲み物や食べ物が欲しくなるし、取っ手じゃなくてバンドを付けて肩に掛けて歩くスタイルなら移動もいけるわね」
「好きに作れ。冷蔵庫の技術あればできるだろ……で、まだ付いてくんのか? 俺、シャワー浴びてメシ食いに行きたいんだけど」
「……バカンス中なのはわかるけど、少しくらいお願い聞いてくれない?」
「え~……めんどくさい。仕事したくないんだよ」
「お願い。話を聞いてくれるなら……」
と、サンドローネはワンピースの胸元をズラし、胸の谷間を見せつけてくる。
「水着、着てあげるわ。それと一緒に遊んであげる。どう?」
「どういうお礼だよ……はあ、わかったよ。話くらいは聞いてやる。リヒターは?」
「近くのお店で一室確保してもらっているわ。行きましょう」
「……準備のいいことで」
とりあえず、シャワーを浴びて着替え、サンドローネと共に繫華街へ向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
さて、用意をしてサンドローネと一緒に、徒歩数分の繫華街へ。
繫華街の入口にリヒターがいた。
「お疲れ様です。お店へご案内いたします」
「よ、リヒター。今日は飲もうぜ」
「ははは……ですね」
なんか疲れてるな。
案内されたのは、店の前にデカい水槽がいくつもある店だった。
すごいな、水槽が壁になり店内を囲んでいる。店に入ると、まるで海の中にいるみたいだ。
そこで、料理人がタモを手に水槽から魚を捕まえ、その場でさばいている。
なんと、ナマ……刺身が出されていた。
「こ、ここは……まさか、刺身?」
「おや、ご存じでしたか。ここは東方の文化である『刺身』を食べることができるお店です」
「……生で? ちょっと不安ね」
「大馬鹿!! 刺身だぞ刺身、俺ここ通う。ありがとうございますリヒター!! いい店見つけてくれた!!」
「は、はい。恐縮です……」
俺は見逃さなかった。
刺身のあるテーブルにある小皿、そこに黒い液体が見えた。
まさか、まさかあるのか。
「いらっしゃいませ、お席へご案内します」
二階の個室に案内され、俺は水槽を泳ぐ魚を眺める。
メニューには『雑酒』という酒があった。ワインやらウイスキーやらもあるが、なぜかこれが気になってしょうがない。
そして、料理はもちろん、『刺身盛り合わせ』である。
リヒターも刺身、サンドローネは焼き魚を注文。
運ばれてきた酒はなんと……日本酒である。
店員さんにサンドローネが聞く。
「水? 不思議なお酒ね」
「これは、ザツマイから精製したお酒になります。東方ではザツマイからお酒を造る技術があるんですよ」
「ふーん。ザツマイって家畜のエサじゃなかったかしら」
「こちらの方ではそうですね。でも、東方ではザツマイの育成が盛んで、パンに変わる主食なんです」
「へえ……」
「俺、いつか東方行きます。あの、東方のなんて国ですか?」
「アズマ、という島国ですね。船が出ていますよ」
「来年絶対行く」
「……なに興奮してるのよ」
「アホ!! これが興奮せずにいられるか!!」
「……さっきもだけど、人のことを馬鹿だのアホだの。あなた、この私に」
「ま、まあまあ。ささ、お嬢にゲントクさん、乾杯しましょう」
俺はグラス(徳利、お猪口を期待していたが違った)に瓶の日本酒を注ぎ、サンドローネはワイン、リヒターは俺に合わせ日本酒……ああ雑酒な、を注ぐ。
乾杯し、俺は日本酒を飲んだ。
「っっっっっかぁぁぁ!! これ、これだよこれ!!」
「……うるさいわね」
「……ほう、これは美味しいですね」
「だろ!? ははは、リヒターはわかってるな!! よしリヒター、今度は二人でここで飲むぞ!!」
「は、はい。ぜひ」
運ばれてきたのは、刺身盛り合わせ。
これまたすごい。俺の知る『刺身盛り合わせ』がある。皿の下に氷を敷き詰め、そこに赤身、白身の切り身を綺麗に盛り合わせている。
そして、黒い液体。
「これは魚を精製して作った『魚ダレ』です。こちらを付けてお召し上がりください」
「いただきまっす!!」
これは魚醤だ。やや生臭いけど許容範囲内……うん、甘みがあるタレに切り身がよく合う。
赤身、白身も俺の知る刺身の味。異世界の魚だが、味は似ているな。
そして日本酒……うん、うまい!!
「ははは……美味い、美味いぞ」
「……今度は悲しんでるの? ねえリヒター、ゲントクは大丈夫なの?」
「ええと、私にもよく……」
「まあいいわ。さてゲントク、さっそくだけど」
「すんませーん!! あの、この雑酒って温めて飲めますか?」
「温め、ですか? いえ、聞いたことないですね……この国では冷やして飲みます」
「そっか。燗すればもっと美味いと思うんだが、まあいいや。あの、この酒買える店とかあります?」
「はい。お向かいにある酒屋で買えますよ。種類も豊富に取り扱っています」
「よし!! 帰り買って帰るか」
「……ちょっと、話を聞きなさいよ」
サンドローネがイライラしている。悪いが刺身と日本酒を前にテンションが下がらん。
「聞いて。あなたの水中スクーターを商業ギルドに持ち込んだら、たまたま高名な魔道具技師がそれを見て、あなたに会いたいと……」
「ああん? 知るか。俺はバカンスって伝えておけ」
「あのね……その相手は、『魔女会』っていう世界最高峰の魔道具技師が所属できる特別なクランの」
「知らん知らん。はっはっは!!」
「……真面目に聞きなさい。怒るわよ」
「んん~? わ~ったよ。で、魔女? 宅急便?」
「何を言ってるのあなたは……リヒター」
「申し訳ございません。ゲントクさん」
「あ、俺の酒!!」
なんと、酒と刺身を取り上げられてしまった。
サンドローネが顔を近づける。
「いい? この世界最高の魔道具技師が集まる組織、『魔女会』のメンバーの一人が、あなたに興味を持ったのよ。わかる?」
「……お、おう」
「『水瓶座の魔女』ラスラヌフ・アクエリアス……彼女が、あなたとぜひお茶を飲みたいって」
「……なんか急にファンタジーじみてきたな……俺、ただの魔道具技師だぞ。なんだ水瓶座の魔女って」
「で、会うの会わないの?」
「お断りしておいてくれ。何度も言ったが、俺はバカンス中で、仕事するつもりはない」
「……わかった。そう伝える」
「お、お嬢。いいんですか?」
「仕方ないでしょ。やる気がないのに、会わせても意味がないわ。それに、無理強いして私から離れるようなことになっても困るしね」
「そういうこった。ってわけで仕事の話は終わり。おいサンドローネ、お前ものめのめ」
「……はあ。そうね、リヒター、飲むわよ」
「はい……ふう、よかった」
この日、俺とサンドローネとリヒターは、楽しい酒宴で盛り上がるのだった。
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