サンドローネ現る

 さて、宴もたけなわ……今日はもう寝る時間だ。

 俺、「魔法は魔道具開発に使う」なんて言ったが、いくつか生活のために覚えた魔法がある。その一つが浄化魔法……光属性の魔法だ。

 簡単に言えば『綺麗にする』魔法だ。種類がいくつかあり、ゴースト系魔獣を消滅させたりするものもあれば、身体を綺麗にするものもある。

 俺が覚えたのは『口の中を綺麗にする』魔法だ。虫歯とか怖いし、この世界の歯ブラシってなんか微妙なんだよな。


「ちょっと、何を考えているのか知らないけど……いい別荘ね」

「そりゃどうも。あの、俺もう寝るわ。お前も宿に帰れよー」

「私も寝る。おじさん、おやすみ」

「ああ。風呂はいつでも入っていいからな」

「こら!! 無視しないでよ。それに、今到着したばかりで宿はないわ。今日、ここに泊るから」

「…………」

「何その顔」

「いや別に。おいリヒター、近くにいい飲み屋街あるけど行くか?」

「いえ、今日は遠慮しておきます」


 リヒターは「なんかいろいろすみません……」みたいな顔をしていた。

 俺はため息を吐く。


「シャワー、風呂は一階にある。二階に客間あるから使え。ああ、ロッソたちもいるからな。それと……俺、仕事するつもりないからな」

「さっきの水中スクーターっていうのは?」

「遊び道具だよ。ああ~……明日、ロッソたち用に作るんだ」

「じゃあ、見学させてもらうわね。それと、シャワーも借りる。リヒター、お部屋の支度よろしくね」

「かしこまりました」

「リヒター、相変わらず苦労してんな。ふぁぁ~……ねむ。俺もう寝るわ」


 サンドローネか……なんかいきなりで、いろいろめんどくさいわ。おやすみ。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 俺のいいところは、いくら飲んでも翌日に影響しないところ……そんなわけで、ばっちりと目が覚め、大きく欠伸をして一階へ。

 まだ誰も起きていない。俺はお湯を沸かし、全員分の朝食を作ることにした。

 

「ふんふんふ~ん」


 ノリで作ったオーブントースター(パン専用)で食パンを焼き、野菜やベーコンを挟んで切る。

 ゆで卵を潰してたまごサンドを作ったり、ジャガイモを潰してポテサラサンドイッチを作る。

 個人個人ではなく、大皿にサンドイッチを盛っていると。


「にゃ」

「ん? おお、ユキちゃんか。お母さんは?」

「おふろー」

「風呂か。よく寝れたかい?」

「うん。ベッド、ふかふか」

「ははは。そりゃよかった。そうだ、こっちおいで」

「にゃあ」


 ユキちゃんがちょこちょこ歩いて俺の足元へ。

 俺はゆで卵をカットし、ユキちゃんにあげた。


「はい、食べていいぞ」

「にゃう。おいしい」

「ははは。もうすぐ朝飯にするから、ソファでくつろいでくれ」

「にゃあう」


 ユキちゃんはソファに飛び乗り、コロコロ転がった。

 すると、スノウさんが来た。


「おはようございます。ゲントクさん……あ、食事の支度ですね。お手伝いします」

「もうすぐ完成しますんで。あ、ロッソたちは?」

「私と入れ替わりでシャワーを浴びてます」


 それから十分しないうちに、ロッソたち三人、サンドローネ、リヒターが来た。

 サンドローネの登場にロッソたちは驚くかと思ったが、特に驚きもしない。

 だが、ちょっとだけ意外な展開があった。


「…………」

「おいリヒター、おーい」

「え、ああ……す、すみません」

「なんだよお前、ぼーっとして」

「い、いえ」


 リヒターが、スノウさんを見て硬直していた。

 サンドローネはスノウさんに挨拶。スノウさんも丁寧にお辞儀。

 そして、俺の作ったサンドイッチの山を見て言う。


「……あなたが作ったの?」

「おう。料理は得意って前に言わなかったか?」

「そうだったかしら。とりあえず、好きに食べていいのね?」

「ああ、スノウさんもリヒターも遠慮せず」

「はい。いただきます」

「いただきまっす!! おっさんのご飯って美味しいんだよねー」

「ふふ、たっぷり食べて、冒険者のエネルギーにしませんとね」

「……もっと遊びたかった」


 ロッソたち三人は、これから依頼を受けるそうだ。

 冒険者ギルドからの指名依頼らしく、高レートの魔獣を討伐しに行くらしい。

 その間、スノウさんとユキちゃんは、ロッソの別荘を掃除したり、食材を買って冷蔵庫に補充。ロッソたちが戻る前に食事の支度をしたりするそうだ。


「おっさん、水中スクーター、今度の休みに遊びに行くから用意しておいてね!!」

「わかったわかった。任せておけ」

「にゃー」

「ん……何? ふふ、煙草はまだ早いわ。二十歳になってからね」

「にゃ」


 ユキちゃんは、煙草を吸おうとするサンドローネに興味を持ったのか、ジッと見ていた。

 煙草……子供の前で吸うなって普通は言うんだが、この世界じゃむしろ吸うことを推奨しているんだよな。健康食品みたいなモンで、吸えば吸うほど身体にいいとか。そのぶん、値段は高いが。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 さて、三人は冒険に出かけ、スノウさんもユキちゃんと買い物へ。

 今日は俺一人だし、水中スクーターでも作ろうかと思ったんだが。


「水中スクーターとかいう魔道具、実物あるなら見せてくれる?」

「いいけど、これ海で使うヤツだから陸じゃ使えんぞ」

「リヒター」

「はい、お嬢」


 すると、海パンのリヒターがサンドローネの後ろへ。

 お約束なら、サンドローネが水着姿になってサービスするんだが……うん。


「私の水着姿が見たかった? ふふ、残念だったわね」

「うるせ。まあいいや……じゃあリヒター、使い方教える。その前に、海に入るなら準備体操しておけよ」


 さっそく、水中スクーターの使い方を説明。

 リヒターは海に潜ると、水中スクーターを使いグングン泳ぐ。

 驚いたことに、三分以上海で泳ぎ浮上……息を切らすことなく言う。


「……正直に言って、とんでもなく面白いです」

「……そ、そう」

「お前、羨ましいんだろ」

「……殴るわよ」

「じょ、冗談だよ」


 リヒターは、とても饒舌になった。


「これは面白いですね。海の国ザナドゥならではの魔道具と言えます。泳ぐのが得意な人はいますが……これは呼吸さえ止めれば、誰でも水中散歩を楽しめます。間違いなく、売れるでしょう」

「まあ、仕様書とそのサンプルをやるよ。アレキサンドライト商会、ザナドゥ支店の販売第一号商品に相応しいんじゃねぇか?」

「そうね。よし……リヒター、不動産ギルドで支店となる建物を探しに行くわ。いずれはこっちにも魔道具開発工場も欲しいわね……」

「難しいことはお前が考えることだ。さて、俺は水中スクーターを作るかな」

「ええ。ふふ、ゲントク……さっそくいい物を作ってくれたわ。お礼に、今度私の水着姿を見せてあげる」

「そりゃ嬉しいね。じゃ、頑張れよー」


 サンドローネとリヒターは機嫌よく去って行った。

 さて、ようやく一人になり、俺はウッドデッキにある椅子に座り、煙草を取り出す。


「ふう……」


 みんなと遊んだり、飲んだり、メシ食ったりするのは嫌いじゃない。

 でも、こうして煙草を吸い、波の音を聞く時間も同じくらい好きだ。


「……そうだ。新聞契約するか。夏の間だけ」


 もうちょっとだけ波の音を聞こうと思い、俺は目を閉じるのだった。

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