海鮮バーベキューで盛り上がろう

 喧嘩になりそうだったので、水中スクーターは『おあずけ』になった。

 俺が二台作るまで待つことになり、アオとロッソが「早く早く」と急かす……悪いけど、今日メチャクチャ頑張ったから、すぐには無理。

 海から上がり、スノウさんと一緒にバーベキューの準備をする。


「スノウさん、そっちどうです?」

「もうすぐ五十本目です。あと何本作りますか?」

「あいつら、特にロッソが食うからな……あと二十本くらい」

「わかりました」


 現在、スノウさんに肉や海鮮を串に刺してもらっている。

 その動きの速いこと。さすが屋台経営者。

 ユキちゃんは、ロッソたちが波打ち際で遊ばせている。


「……ゲントクさん。本当に、ありがとうございます」

「え?」

「いえ。夫に先立たれ、あの子を養うだけで精一杯だった私に、手を差し伸べていただきました」

「……あの、聞いていいですか? ザナドゥは旦那さんと暮らした土地ですよね。ロッソたちと一緒にエーデルシュタイン王国に行って大丈夫なんですか?」

「はい。夫と言っても、私は七人目の妻だったので」

「……七人目?」

「はい。獣人の男性は、多くの妻を持つことを理想としていますので、一夫多妻は当たり前なんです。ただ闇雲に妻を娶ればいいというわけではなく、きちんと養い、苦労をさせないことも結婚の条件でして……私の夫は商人で、十二人の妻がいました」

「スノウさんは、七番目の妻ということですか?」

「ええ。求婚され、私は受けました。ユキを授かり、夫とは会話もなく、苦労することなく生活していたのですが……病気であっさり亡くなってしまい、商会もあっという間に親族に乗っ取られ、妻だった私たちはそのまま放り出されました」

「……そりゃひどいな」

「ええ。他の妻たちと違い、私は世渡りが下手で……次の夫を見つけることもできず、ユキを抱えて、なけなしのお金で屋台を買い、細々と暮らしていました」


 そこに、俺が来た、ってところか。

 スノウさんは微笑む。


「まさか、有名な『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』に専属で雇われるなんて、思いもしませんでした」

「ははは。あいつらのところなら苦労しないと思いますよ。見ての通り、優しい連中ですから」


 ロッソたちは、ユキちゃんと遊んでいた。

 みんな笑っている。幸せそのものだ。


「ゲントクさんは、その……奥様などは」

「あ~、俺はそういうの興味ないんです。一人でやりたいことやる生活が好きなんで、奥さんとか恋人とかは考えてないし、必要とも思ってないですね」


 ……そう言って、ちょっと失礼だったかなと思う。

 スノウさんはポカンとして、すぐクスっと微笑んだ。


「奇遇ですね。実は私……ユキを授かったことは嬉しいですが、夫との生活は苦痛でした」

「ははは。じゃあ俺ら、気が合いそうですね」

「そうかもですね。ふふ」


 なんか、スノウさんは『アパートの隣の部屋に住む子持ちの奥さん』って感じがする。恋愛には発展しないが、いい雰囲気になるような。

 まあ、美人で巨乳だとは思うが、ドキドキしたりするようなことはない。

 俺より年下なんだが、不思議な『母性』を感じた。


「にゃー」

「ん? ははは、貝殻をくれるのか?」


 足元にユキちゃんがいれ、俺に貝殻を差し出してきた。

 なんか嬉しいな。ユキちゃんの頭を撫で、ネコミミを揉む……このこの、このネコミミめ。

 撫で終わると、ユキちゃんはスノウさんの抱き着いた。


「おかあさん」

「はいはい。あ、ゲントクさん、ちょうど終わりました」


 スノウさん、喋りながらも串を完成させていた。

 さて、さっそく焼き始めますかね。


 ◇◇◇◇◇◇


 魔導バーベキューコンロに魔力を流すと、魔石から熱が出た。

 網が高熱になり、俺は串を一気に十本並べて焼く。

 その間、スノウさんに飲み物を用意してもらうと、ちょうど三人娘も戻って来た。


「いい匂い~!! おっさん、早く食べたい!!」

「ははは、待てマテ」

「……ごくり」

「アオ、はしたないですわよ」


 いい感じに海鮮串焼きが焼けてきたので、俺はキンキンに冷えたエールをグラスに注ぐ。

 三人娘は果実水、スノウさんもエールを手に、俺は言う。


「じゃあ、乾杯するか。かんぱーい!!」

「「「かんぱーい!!」」」

「ふふ、乾杯」

「うにゃー」

 

 俺は冷えたエールを一気に飲む……し、痺れるぅぅぅ!!


「うめぇ!! っぷぁぁ!!」

「おいしい~!! 夏はこれだねえ!!」


 飲み干したグラスをロッソと合わせる。

 そして、俺は串を皿に盛ってテーブルへ置いた。


「さあ焼けたぞ!! 食いまくれ!!」

「いただきまっす!! ん~おいしっ!!」

「肉うまし」

「ふふ、おいしいですわ~」

「ささ、スノウさんも遠慮なく」

「ありがとうございます。さ、ユキ、大好きなお魚食べようね」

「にゃう」


 俺は追加の串を置き、さらに町で買ったカキやサザエっぽい貝を置く。

 醤油があればいいんだが……ないので我慢。

 そして、でっかいカニ足を網に置いた。


「いやぁ、すげぇな。貝類だけじゃなくカニまで売ってるとは」

「これ、ドレッドクラブじゃん。魔獣だよ?」

「美味いんだろ?」

「うん。味濃くて美味しいって!! 焼いたらちょーだい」

「おう。俺も食うか」


 海鮮串を手にし、焼きエビを齧る。

 

「……うん、まっ!! 味濃っ……異世界のエビってこんなうまいのか」


 味が濃い。ジュワっと濃厚な汁が口を満たす。シンプルな塩味だが、これが合う!!

 肉串も齧り、エールで流し込むと……もう至福。


「はぁぁ~……うまい」


 これはもう、幸せしかない。

 ああ、これこそ俺が求めていた、スローライフ……人生最高の日だぜ。


 ◇◇◇◇◇◇


 この日は、夜まで酒を飲み、バーベキューを楽しんだ。

 いい気分になったので、スマホに入れておいたジャズベストを流しみんなで踊ったり、飲み比べをしたり、一本二百万セドルした高級ワインを開けたりした。

 

「今日は泊まっていけよ。風呂でかいぞ風呂!! はっはっは!!」

「いいわねぇ~!! んふふ、おっさん一緒に入る? 背中流す? あっはっは!!」

「ロッソ、あなた酔いすぎですわ……ひっく」

「……ブランシュも酔ってる。スノウさんは?」

「私、お酒で酔ったことがなくて……あら」

「ふにゃ……」


 ユキちゃんは寝てしまったようだ。

 スノウさんは「すみません、ユキが寝たので」と二階の客間へ。

 ロッソもテーブルに突っ伏し、ブランシュが肩に担いで部屋に連れて行った。

 俺は水を飲みながら椅子に座り、星空を眺める。


「あ~……いい夜だな」

「そだね」

「ん? おおアオ、まだいたのか」

「うん。おじさん、水中スクーター、ちゃんと作ってね」

「ああ、任せておけ」


 ジェットスキーとかも作りたいな……今ある材料で作れるかな。

 

「なあアオ……水中スクーターって魔道具、見たことあるか?」

「ない。海で泳ぐのはわかるけど、魔道具を使って泳ぐとかは見たことない」

「そっかあ……水中スクーター、売れると思うか?」

「売れる。ここ、リゾートだし、お金持ちいっぱいいるし、売れる。ってか私買う」

「ははは……あ~、アレキサンドライト商会がザナドゥにあればなあ。なあ、どっかデカい商会とかに持ち込んだら売れるかな?」

「売れる。おじさん、お仕事するの?」

「あぁ~……どうすっかなあ」

「あら、聞き捨てならないわね。アレキサンドライト商会じゃない商会に持ち込むですって?」

「いやあ、そう思ったけどよ、今はバカンスだし、めんどくさ……ん?」


 ふと、聞き覚えのある声がした。

 アオは人差し指を差す。そちらを見ると……いた。


「さ、ささ……サンドローネ……な、なんで?」


 アレキサンドライト商会、商会長のサンドローネが、薄緑のワンピースに麦わら帽子を被っていた。

 傍には、護衛のリヒター。

 サンドローネは帽子をクイッと上げ、相変わらずの笑顔で言う。


「アレキサンドライト商会、ザナドゥ支店を作るために来たわ。ふふ、さっそく商売の香りがするわね。水中スクーター……だったかしら? 話、聞かせてくれる?」


 お、俺のバカンスは……まだ始まったばかりだ!! うん!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る