第四章 海の国ザナドゥでバカンスを

バカンスへ

「……バカンス、ね」

「おう」


 『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』と一緒に海の国ザナドゥへ行くことを決めて数日。出発の準備を終え、俺は仕事場に来たサンドローネにそのことを説明した。

 サンドローネ、ペリドット商会の後始末で、なかなか俺のところに来れなかったんだよな。リヒターに馬車を頼んだのも今朝だし、夕方になってようやくサンドローネが来た。

 で、明日海の国ザナドゥへ行くことを伝えたら、なんともまあ不機嫌に。


「私は残務処理で忙しく働いていたのに、あなたはバカンスで頭がいっぱい、ね……」

「いやまあ。俺は魔道具作るだけだしな。めんどくさいことはお前の仕事だろ」

「…………まあ、そうだけど」


 サンドローネが煙草を出すと、リヒターがマッチで火を着けた。

 俺も自分で煙草に火を着ける。


「まあ、一か月くらいで戻ってくる……と、思う。あっちでいい別荘買って、今年の夏は優雅に過ごすぜ」

「…………」

「そ、そんな目で見るなよ……もうだいぶ貢献しただろ?」

「まあそうね。すでに、アレキサンドライト商会の二年、三年分以上の売り上げを確保したわ。王家とも深い繋がりができたし、ペリドット商会とジャスパー侯爵家に恩も売れた」

「ジャスパー侯爵家って、バリオンの?」

「ええ。被害者のケアをするための資金援助をしたの。腐っても侯爵家だし、評価が地に落ちたとはいえ貴族だからね。今後、役立つかもしれないし」

「お前、ほんと大物だな……」


 サンドローネ、逞しい。

 俺はリヒターに言う。


「な、馬車だけど」

「ええ。長距離用の寝台馬車を手配しました。明日、こちらに届く予定です」

「おお、ありがとな」

「ゲントク。遊びに行くのはいいけど、ちゃんと秋~冬用の魔道具も考えてちょうだいね。エーデルシュタイン王国の秋と冬は短いけど、寒いことに変わりないんだから」

「アイデアはあるぞ。代表的なのはコタツかなあ」

「何、それ?」

「ふふふ、帰ってきたら教えてやるよ」

「……本当に、私にそんな口利けるの、あなただけよ」

「ははは。なんなら、お前も一緒に行くか? お前の水着姿も見てみたいぜ」

「あら、水着だけでいいの? ペリドット商会の件では借りができたし……一晩くらいなら付き合ってもいいのだけれど?」

「おいおいおい、マジにするからやめとけ。さて、そろそろ帰るかな。リヒター、飲み行くか?」

「……私じゃなくて最初にリヒターを誘うのね。まったく」


 この日、久しぶりに三人で屋台へ行き、楽しく飲むのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 俺は私服に着替え、仕事場へ向かった。

 すると、すでに『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』の三人とヒコロクがいた……三人ともいつもの冒険者スタイルだ。

 俺に気付くと、三人は手を振る。


「おっさん!! って、おっさんの私服……なんかダサい」

「あら、素敵だと思いますわよ?」

「……かっこいい」

「ふふふ。二対一でお前の負けだな、ロッソ」


 俺の私服は海の国ザナドゥを意識している。

 普段は絶対着ないアロハシャツっぽいシャツに、麦わら帽子、ハーフパンツにサンダルだ。

 ちなみに荷物は職場に置いてある。すると、ちょうどいいタイミングで馬車が来た。


「「「おお~!!」」」

「おお、二階建てか。デカいなあ……」


 なんと二階建て馬車。小さい一軒家みたいな馬車だ。

 御者さんが降り、俺にペコっと頭を下げる。


「えー、ゲントクさんでいらっしゃいますね。アレキサンドライト商会より、最高級長距離馬車をお持ちしました」

「あ、どうも」

「ねえねえ、馬はいらないから。ヒコロクに引っ張ってもらうし」


 と、ロッソが馬具を外し、馬を撫でていた。

 二階建て馬車を引く馬だから普通の馬の二倍くらいデカい。だが、ロッソに撫でられ気持ちよさそうにしている。

 アオが専用の馬具……犬具を付け、寝台馬車にドッキング。

 俺は、馬を御者さんに返して言う。


「すみません。そういうことで……馬の分の代金はそのままでいいんで」

「か、かしこまりました。いやあ、まさか『オータムパディードッグ』がいるとは。これなら道中も安全ですな」

「え、ええ……」


 後で知ったことだが、『オータムパディードッグ』は犬の魔獣で、馬の数百倍の体力、脚力を持ち、戦闘力も計り知れないそうだ。二階建て馬車を引くなんて朝飯前。七日七晩寝ずに引くことができるくらい体力もあるそうだ。

 ヒコロクすげえ……デカい柴犬にしか見えないんだがな。

 御者さんにお礼を言って別れ、荷物を積み込んだ。

 荷車に入ると……驚いた。


「すっげ……広いな」

「わあ~!! アタシ、こんなの見たことないよ!!」

「二階は寝室ですわね。ベッドが三つもありますわ」

「……冷蔵庫ある」


 荷車の一階はソファやテーブルがあり、簡易キッチンや冷蔵庫、ミニ本棚もあった。

 かなり広いので、俺たちの荷物を置いてもまだ広い。

 二階は寝室。ベッドが三つおいてある。まあ、言うしかないな。


「ベッドはお前たちが使え。俺はソファで寝るからよ」

「えー? でもおっさん、アタシらお金出してないし」

「俺も出してない。サンドローネの会社が出したんだからな、それに、こういうのは女性優先って決まってるモンだ。おっさんにカッコつけさせろよ」

「おっさん……うん、ありがとう!! ブランシュ、アオ、アタシら二階だって!!」


 ロッソが言うと、ブランシュとアオもお礼を言いに来た。

 気にしない気にしない。女の子にベッド使わせるのは普通のことだ。


「さて、御者だけど」

「アタシたち、交代でやるよ。まあヒコロクは頭いいし、変な走りしないけどね」

「ヒコロク。街道をまっすぐ、海のニオイする方へ」

『オウウ』

「わかった、と言ってますわね。よしよし」


 さて、全ての準備は整った。

 俺はサングラス(普通に売ってた。ちょっと驚き)をスチャッと掛ける。


「さて!! じゃあ海の国ザナドゥに行きますか!!」

「「「おおー!!」」」


 待ってろよ、水着美女に別荘、そして冷たいエールに海産物!!

 常夏が、俺を待っているぜ!! いざスローライフ!!

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