その後の顛末

 とりあえず、その後の顛末を。

 まずペリドット商会の日焼け止めクリームと保湿クリームは販売中止になった。

 肌が赤黒くなりアザが残るという悪評が広まったが、マルセリーノ侯爵が新聞で謝罪したこと、購入者に全額返金と治療費の保証、そして治療にS級冒険者『白のブランシュ』が筆頭となり治療することを宣言したら、思ったより受け入れられていた。 

 まあ、貴族が平民に謝罪、そして全額返金に加え治療にブランシュが付くことになっただけでもすごいことらしい。ブランシュの治療の腕前って、国内でも最高レベルらしいからな。

 

 バリオンは、爵位を取り上げられ、ペリドット商会のトイレ清掃員としての人生がスタートした。

 掃除夫の恰好で、丸坊主にさせられ、ペリドット商会と提携している商店や商会のトイレを掃除して回る毎日らしい。

 異世界系では田舎に追放とか放逐とかあるけど……正直、トイレ掃除十年間のがキツイよな。田舎に送られ農作業生活とか、ある意味でスローライフだし。

 サンドローネが馬車ですれ違った時にチラッと見たらしいけど、ボロボロの服にモップを手にし、先輩のおばちゃん清掃員にケツを触られていたとか……まあ、十年しっかり反省してくれ。死ぬよりはましだろ。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』たち。

 まずロッソは、いつもと変わらずに冒険者をやり、週一くらいで俺のところに遊びに来るようになった。

 若い子だし、こんなおっさんしかいない魔道具開発所になんて来てもしょうがないんだがな。

 ロッソ曰く「おっさん優しいし面白いし、友達だしいいじゃん」だそうだ。友達ね……十七歳の女の子と三十八のおっさんが友達って、けっこう無理あるな。まあ異世界だしいいか。


 アオは、四日に一度くらいの割合で来るようになった。

 前に『自由に菓子食っていいぞ』なんて言ったから、ほんとに菓子食いに来るだけ。たまにお土産で魔石とか持ってきたり、三人でダンジョン行ったとか、テントの改良して欲しいとか言う。

 まあ、この子も友達感覚なんだろうな。悪い気はしない。


 ブランシュは、ロッソやアオと一緒に来ることが多くなった。

 一人で来ることはあまりない。二人の付き添いがメインかな。

 ペリドット商会の件では非情に感謝。お礼にとカスタマイズした気品あふれるミスト噴霧器をプレゼントした。

 アオとロッソが羨ましがっていたが……まあ、他意はないので安心してくれ。


 ◇◇◇◇◇◇


 サンドローネは、変わらず商売に勤しんでいる。

 俺のところには週一くらいで来る。煙草を吸ったり、他愛ない話をしたり、新作はいつできるのかとかせっつかれたりする。

 まあ、夏用の魔道具はけっこう作ったし、金もいっぱい入ったので、しばらくは海の国ザナドゥで休暇を取ると言ったらメチャクチャ睨まれた……ああ、羨ましいのね。

 

 リヒターも相変わらず、サンドローネにくっついて忙しそうだ。

 イェランを誘い三人で飲むのもけっこうあるし、リヒターから誘うことも多くなった。

 まあ、これまで出会った中では、一番の飲み友達かもしれんな。


 こうして、俺が異世界に転移し、半年が経過した。

 もう夏……そろそろ、海の国ザナドゥに行く計画を立てないとな。


 ◇◇◇◇◇◇


 ある日、俺は秋に向けた魔道具の設計図を書いていた。

 だが、あまり芳しくない……なぜなら、俺の心はすでに『海』に向いていた。


「ふふふ、海の国ザナドゥか。水着、リゾート、海産物、ショッピング……そして別荘。別荘かあ……資金は十分にあるし、理想の別荘買うぞ」


 最近知ったのだが、エーデルシュタイン王国の季節は、春と夏が長く秋と冬が短い。

 この世界の暦も、一月から十二月まであるが、春は六月まで、夏は十月まで、秋は十一月、冬は十二月、そして一月になるとすぐ暖かくなるそうだ。

 夏が十月までか……もうすぐ八月だし、九月半ばくらいまでザナドゥで過ごそうかな。


「おっと、予定決めないと……まず、長距離馬車をレンタルしてザナドゥまで一週間。そのあと、王都で観光しながら別荘探し、できれば早く決めたい。そして、別荘で残りを過ごす……いいね、実にいい」


 今は、七月の三週目だし、四週目の初めに出発するのもいいな。

 長距離馬車はアレキサンドライト商会に頼むか。リヒターならいい馬車を借りてくれる。

 と、予定を考えていると、事務所のドアが開いた。


「おっさん、遊びに来たよー!!」

「もうロッソ、ノックぐらいしなさいな!!」

「おじさん、お土産の魔石」

「おーう騒がしい連中来たな。まあゆっくりしてけ」

 

 ロッソは勝手に冷蔵庫を開け、製氷機の氷をグラスに入れて果実水を飲み始め、アオもお菓子のクッキーをモグモグ食べ始める。ブランシュは「申し訳ございません」と苦笑し、お土産の魔石(七つ星相当、すげえ)をテーブルに置く。

 そして、俺の旅行メモを見た。


「あら、おじさま。海の国ザナドゥに行く予定ですか?」

「ああ。来週には行こうと考えている」

「それそれ!! 前も言ったけどさ、アタシらと行かない? 道中の護衛は安心だよ!!」

「でもなあ……俺みたいなオッサンは、若い子と十日も一緒の旅に耐えられないというか」

「……おじさん、一緒がいい。一緒に行こ?」


 アオがそう言うと、なんか罪悪感ある。

 ブランシュも言う。


「おじさま。恥ずかしい気持ちはわかりますけど……わたくしたち、おじさまと一緒なら楽しく行けると思っていますわ。それに、長距離馬車をレンタルするってことは、護衛も雇うのでしょう? 知らない護衛の方と十日間と、わたくしたちと十日間……どちらがよろしいですか?」

「む、そう言われると」


 護衛がゴツイおっさん集団とかだったら最悪だ。十日間……まあ、別に何かあるわけじゃないし、少し気恥ずかしいけど『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』のがいいか。


「わかった。じゃあ、みんなで行くか」

「やったあ!! じゃあおっさん、馬車はデカいの手配してね!! あ、御者ならアタシらみんなできるから安心して」

「わかった。リヒターに頼んでおく」


 すると、アオが俺のメモをジッと見て言う。


「おじさん、別荘買うんだっけ」

「ああ。これから夏を過ごすための別荘だな。そういやロッソは別荘持ってるんだよな……どこで買ったんだ?」

「ん、不動産ギルドで選んだ」


 不動産ギルド……ああ、飲食ギルドと同じ、商業ギルドから派生したギルドか。

 海の国ザナドゥにある不動産ギルドに行って、別荘を探すか。


「いいな……ロッソの別荘、狭いし汚い」

「き、汚くないし!! メチャクチャ欲しかったんだから!!」

「でも、海底にある別荘なんて意味不明」

「いいじゃん!! 海に囲まれてんのよ!? メチャクチャ高かったんだから!!」

「囲まれてるっていうか、沈んでる」


 海底にある別荘って何だよ……逆に気になるんだが。

 ブランシュが言う。


「いい物件がたくさんあったんですし、予算内で選び放題だったんですけど……ロッソ、海底にある別荘に一目ぼれして、お小遣いはたいて買ったんですわ」

「そ、そうなのか……お前とアオは買わないのか?」

「一つあればいいですしね。それに今回は、おじさまの別荘買いに付き合いますわ」

「いやいや、別にいいぞ。俺みたいなおっさん」

「はいそこまで。おじさま、おじさまは素敵なお方ですわ。『俺みたいな』なんて言わないでくださいませ」

「お、おう……」


 ブランシュ、十七歳とは思えんほど大人びて見えるな。


「よし!! じゃあ出発は来週、目的地は『海の国ザナドゥ』で、今年の夏はいっぱい遊びつつ、依頼を受けて稼ぎましょう!!」

「「おー!!」」

「はっはっは。若いっていいなあ」


 こうして、俺は海の国ザナドゥで、別荘探しに行く。

 旅の相方は『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』……さてさて、今年の夏はリゾートで優雅に過ごしますかね。

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