夏の新製品バトル②
初日、そろそろ会社閉めて、晩飯食って帰ろうと思った時だった。
ロッソ、ブランシュ、アオが事務所の掃除を手伝ってくれた。
「アオ、今日はありがとな」
「ううん、おじさんを守るのが仕事だから」
「ふふ。明日はわたくしですわね。おじさま、しっかりお守りしますわ」
「おう、頼むぞ」
まだ十代の少女に守ってもらう俺……だが、別に恥ずかしいとかない。だって、彼女たち戦うのが仕事の冒険者だし、そっちが本業だしな。
時間的には夕方五時……ちょっとメシには速いけど。
「おし。せっかくだし、メシでも食いに行くか? おっさんがおごってやる」
「え、いいの!? やったあ!!」
「あらあら、嬉しいですわね」
「……お肉がいい」
なんだかんだで付き合いあるし、メシ誘うくらいはする。
十代の美少女たちをメシに誘う三十代後半のおっさん……日本だったら警察の世話になる可能性もあるけど、俺じゃどうあがいてもこの三人に勝てないしな。
と、思った時だった。
「ゲントク。入るわよ」
「ん、サンドローネ? それに、バリオン……」
「やあ、ゲントクくん」
サンドローネ、バリオン、リヒター、バリオンの護衛。そしてカッチリした服装をした眼鏡の男女が事務所に入り、それぞれ向かい合う。
カッチリ男女は二人の間に立つ。
「それでは、本日の売り上げ発表をします」
「待てマテ。なんでここでやる!?」
「アレキサンドライト商会、税務調査官ハドスです」
「ペリドット商会、税務調査のリシーです。『公平』の名の元に、両商会の売り上げをチェックしました。これから発表する数字に、偽りがないことをここに誓います」
「無視かい……」
もういい、さっさとやって帰ってもらおう。
税務調査官は互いに目配せし、数字を発表する。
「アレキサンドライト商会、売り上げ『四千七百万セドル』」
「ペリドット商会、売り上げ『五千七百万セドル』」
「よって、初日の売り上げはペリドット商会が上となりました」
バリオンは勝ち誇ったような表情、サンドローネは眉をぴくっと動かした。
「それでは、我々はここで失礼いたします。また明日」
税務調査官はペコっと頭を下げて出て行った。
そして、バリオン。
「ふふふ……初日で、一千万セドルの差がついたね。サンドローネ……今、許しを請うなら許してやってもいいけど、どうする?」
「冗談。あなた……面白いことをしたわね」
「おや、気付いたかい?」
「「「……???」」」
ロッソ、ブランシュ、アオが首を傾げ、俺を見た……いや、俺にもわからん。
そもそも、いきなり一千万セドルの差ってどういうことだ? 店頭販売だけで……待てよ。
「まさかバリオン……外部へ」
「正解だ」
「え、おっさん……どういうこと?」
ロッソが言う。
その疑問に答えたのは、サンドローネだ。
「外部委託。チッ……悪知恵だけは働くわね」
「ははは!! キミは相変わらず、頭が固い……これは『新製品の売り上げ金額』を競う戦いだ。キミは新製品を本店、支店にバラまいて売ったようだが、ボクは違う。本店支店だけじゃない。提携する商会全てに新製品を卸し、販売させたのさ!!」
「……チッ」
これはサンドローネの負けだ。
アレキサンドライト商会、ペリドット商会の戦いに囚われすぎて、業務提携している商会に商品を卸さず、アレキサンドライト商会の本店、支店だけでの販売にしたのが悪かった。
勝負に拘り、周りが見えていなかった……アレキサンドライト商会と提携する他の商会に商品を卸せば、きっと結果は変わっていた。
「フフ、いい顔を見れた。今日はよく寝れそうだ」
「…………」
「では失礼するよ。ここの空気は汚くてたまらない」
バリオンは勝ち誇り帰ろうとした……が。
「ちょっと待った」
「……何かな、ゲントクくん」
俺が引き留めた。
どうしても、確認したいことがあったのだ。
「……お前のところのクリーム、どこまで確認した?」
「確認?」
「肌に塗って試したか?」
「当然だろう。まず、日焼け止めクリームで肌を清めて保護し、保湿クリームで潤いを与える……買った女性たちは皆、至福の表情だったさ」
「……塗ったあとはどうした?」
「何?」
「確認って、一度塗っただけか? 何人で試した? アレルギーの有無は?」
「……意味が分からないね。そんな言葉で惑わそうとしても無駄だよ。では、失礼」
「おい」
俺が引き留めると、バリオンはめんどくさそうに振り向いた。
「今からでも遅くない。販売をやめた方がいい」
「……失礼するよ」
バリオンは、薄ら笑いを浮かべて去った。
俺は、どうも嫌な予感しかしなかった。
「ゲントク……あなた、何を疑っているの?」
「……杞憂ならいんだけどな」
「……とにかく。私もやり方を変えないと。リヒター、支店だけじゃなく業務提携店にも新製品を卸しに行くわ。イェランや、動ける従業員を総動員、荷馬車の手配もお願い。働いた人には臨時ボーナスを支給することも忘れないで」
「かしこまりました」
「……ゲントク。何を考えているか知らないけど、私は諦めないから」
そう言い、リヒターを連れ、サンドローネは出て行った。
「……もう、どうにもならないな」
「おっさん?」
「おじさま?」
「おじさん?」
「……メシ、食いに行くか」
俺の予想は、やはりと言うか……最悪な方向で当たってしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます