鮮血の赤椿とキャンプ②

「おーい!! そろそろ終わりにしてメシの支度ー!!」


 と、釣りに夢中になっていた俺、アオの元へ、水着姿のロッソがやって来た。

 赤いビキニ……こいつ、本当にスタイルいいな。ツインテールもだが、胸も揺れてるぞ。

 テントの方を見ると、煙が上がっている……どうやらブランシュが火を熾しているようだ。

 アオは俺に向かってにっこり笑う。


「大漁だったね」

「ああ、タイだけに大漁、ってか」

「……??」


 すまん、この魚タイじゃないよね。意味不明だよね。

 アホなこと言った自分を殴りたいと思いつつ、バケツを持ってテントへ。

 俺は魔道ランプを付け、釣った魚をまな板の上に置いた。


「でっかいわね。ところでおっさん、料理できんの?」

「ふっふっふ。独身生活十五年の俺を舐めるなよ?」


 さっそく、包丁の背で鱗を取り、ワタを抜いて頭を落とす。

 綺麗な三枚おろしを完成させると、見ていたロッソが驚いていた。


「おお、すごいじゃん。料理人みたい!!」

「ふっふっふ。魚捌くのは得意なんだ。こっちの魚も同じような捌き方で何とかなってよかった……」

「こっちの魚?」

「ああ、こっちの話。ところで……あっち、手伝わなくていいのか?」

「アタシ、料理だけはできなくてね。その代わり、ブランシュがめっちゃ上手い。アオも捌くの得意なのよ」

「へえ……」

「ところで、何作んの?」

「そうだな。タイっぽいし、刺身……はやめておくか。とりあえず」


 俺は切り身に塩を掛けてしばらく置き、小麦粉をまぶし、フライパンにバターを入れて熱し、切り身を投入……いい感じに焼けると、そのまま皿に移した。


「バターソテー……うん、いいね」

「お、おいしそう~!! ね、ね、ちょっとちょうだい」

「ああ、いいぞ」


 焚火台を見ると、いい感じの熾火になっている。

 そこに網をかぶせ、タイ以外に釣った鮎みたいな魚に塩を振り、そのまま網焼きにする。

 

「うんまっ……おっさん、これおいしい!!」

「確かに、美味しい……うう、普通に焼いただけじゃない?」

「もぐもぐ……おかわり」

「……おい、なんで全部食ってる」


 俺のバターソテー……全部食われた。

 ま、まあいい。まだ料理はある。

 俺は鍋に下処理したタイのアラを全部入れ、水を入れて煮込む。


「よし、しばらく煮込んで塩で味付けして……潮汁の完成だ」

 

 ちなみにこのタイっぽい魚、後で知ったが『レッダイ』という美味い魚らしい。

 まあ、タイでいいや。湖で釣れる美味いタイってことで。

 残りのタイの切り身もバターソテーにして、鮎っぽいのもいい感じに焼き上がった。潮汁も出来たし、おつまみ用に街で買ったチーズ、そしてウイスキーを出す。


「完成。俺の激ウマキャンプメシだ!!」

「「「わーっ!!」」」


 女子三人が拍手……いや待って。


「ブランシュ、そっちのメシは?」

「そろそろ焼けますよ。今日はお魚いっぱいあるので、全部焼き魚にしてみました~!!」

 

 に、二十匹以上の魚を全部焼き魚……マジか。

 よく見ると、焚火に周囲に、串打ちした魚がぐるりと囲って焼いてある。なんかああいう売り方しているの見たことあるぞ。

 仕方ないな……まあ、少しくらいは。


「お前たち、カップあるか? 俺の潮汁、少し分けてやるよ」

「いいの!? やったあ!! その鍋、めっちゃいい匂いすると思ってたんだよね!!」

「うふふ、嬉しい」

「やったぜ」


 俺は三人のカップに潮汁を注ぐ。

 せっかくなので、四人揃ってメシを食うことにした。


「じゃ、食うか。いただきます」

「おいしっ……なにこのスープ!! めっちゃおいしい!!」

「……魚の頭? 食べれない部分で、こんな美味しいスープを……」

「おかわり」


 潮汁は好評だ……うん、美味い。いい出汁が利いてるね。

 焼き魚も美味いし、バターソテーもウイスキーに合う。

 ブランシュが焼いた魚も貰った。うん、サバの塩焼きだなこりゃ。


「おじさま、このスープの作り方、教えていただけませんか?」

「いいぞ。でも、他の魚で合うかはわからんから、自分たちで検証してくれ」

「ね、ね、おっさん。この調理器具、やっぱ使いやすそうだね!! クッカー、だっけ?」

「ああ、お前たち用にも作ってやるよ」

「やったあ!! おっさん、マジ感謝~!!」


 と、アオがいない。

 どこに行ったのかと見ると、ヒコロクの前にいた。


「あ、ヒコロクのご飯ね。アオの仕事なの」

「へぇ~……」


 と、俺は「ん?」と思わずアオを凝視した。


「ヒコロク、ごはんだよ」

『オウウ、オフオフ』


 エサ皿……そこに、何かを入れている。

 

「おじさま?」

「おっさん、どうしたの?」

「あ、いや……ヒコロクのご飯ってなんだ?」

「犬用の『ザツマイ』だけど。なにか変?」

「…………待った!!」


 思わず俺は飛び出し、アオの元へ。


「え? ど、どうしたの」

「嘘だろ」


 俺は、ヒコロクの餌皿を凝視。

 なぜなら、そこにあったのは。


「こ、ここ……コメじゃねぇか!! コメ、米ぇぇぇ!!」


 そう、この世界にコメはあった。

 まさかの、『犬用ごはん』として存在していたのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 食事を終え、俺たちはあったかいお茶を飲みながら話をしていた。


「ザツマイは、小麦の亜種で、基本的に家畜の餌だよ。おっさん知らないの?」

「し、知らん……家畜の餌ってマジか。人は食うのか?」

「いやパンあるし食わないよ。犬のエサだよ?」

「……どこで買える? どこで育ててる?」

「興味津々ですわね。街の雑貨屋で普通に買えますわ。国内の農家も普通に育てていると思いますけど?」

「……なるほど」

「おじさん、買う気満々」


 そりゃ買うよ。米だしな!!

 と、待てよ。


「なあ、そのザツマイってまだあるか?」

「ヒコロクのエサだし、いっぱいあるけど」

「少しくれ!! 明日の朝飯にする!!」


 魚はまだ残ってるし……メスティンもあるからコメが炊ける!! 

 見た目は玄米っぽいな……稲から脱穀して玄米っぽくしてる。精米まではしていないな。

 まあいい。これで『炊飯器』を作るって目標ができたし、米農家と契約して、日本酒とかも作れるかも……以前、酒造会社の電気工事した時、工場見学とかもしたからな、作れるかもしれん!!


「くっくっくっくっく……」

「なんか笑ってるわね。大丈夫?」

「わたくし、回復魔法を使いましょうか?」

「……なんか美味しい物の予感する」


 この日。ロッソたちが交代で見張りをすると言うので、俺は遠慮なく寝ることにした。

 久しぶりのキャンプ、明日の朝食の楽しみを胸に、ぐっすりと寝るのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌朝。

 俺はテントから出て大きく伸びをすると……焚火の前で読書をするブランシュがいた。


「おはようございます、おじさま」

「ああ、おはようぅ……ふぁぁ」

「ふふ、よく寝られてましたね」

 

 めっちゃ寝た……シュラフの寝心地もよかった。

 さっそくお湯を沸かし、コーヒーを入れる。


「あの……それ、美味しいんですか? わたくし、知らない飲み物です」

「コーヒーって言うんだが、飲んでみるか? メチャクチャ苦いけど」

「に、苦いのですね……」

「ははは。ミルクと砂糖入れればマシになるけど。今度ウチに来たら飲ませてやるよ」

「はい。ふふ、おじさまって優しいのですね」

「ははは。若い子だけかもしれないぞ?」

「あらそうなんですの? ふふ」


 俺はコーヒーを淹れ、朝日を浴びながら飲んだ……ああ、最高。

 さて、さっそく朝食の支度だ。

 

「なあ、朝飯どうする?」

「えっと、二人が起きたら用意しますわ」

「じゃあ、俺が作ってやるよ。おっさんの料理だけどいいか?」

「は、はい」


 俺は持参した食パンを軽く炙り、バターを塗ってレタス、トマト(異世界のやつ、名前はあるけどわかりやすいのでこれでいい)を挟み、ベーコンを軽く焼き、ゆで卵もカットして挟んだ。

 スープは、昨日の潮汁のあまり。温めていると、二人が起きてきた。


「おぁぁよぉぉ……ふぁぁぁ」

「ん~……よく寝たあ」

「こらロッソ、全裸で出てこない!!」


 な、なにぃぃぃ!! 思わず振り向きかけたぞ!!

 だが鋼の意思で振り向かない。ブランシュがロッソをテントに叩きこむのを確認し、ゆっくり振り返った。


「お、おい……大丈夫か?」

「はい。おじさま、紳士ですわね。尊敬しますわ」

「ははは……さて、朝飯だ。食っていいぞ!!」


 テーブルには、食パンサンドに潮汁。

 三人が食べ始めるのを確認し、俺は自分の朝飯を用意する。

 コメ……昨日もらったコメを研ぎ、焚火台の上へ。

 本来は水に浸すんだけど、今日はいい……そして、十五分ほどでブクブクと泡が出始めたので、火から外してひっくり返し、蒸らしておく。

 その間、フライパンで魚を焼く……鮭とかが理想だけど、仕方ない。

 そして、蒸らし終わり、蓋を開ける。


「おおお……こ、米だ!!」

「「「おお~!!」」」

「って、近い近い」


 いつの間にか三人が集まっていた。

 俺は、焼き魚をコメに載せ、マイ箸で食べ始める。


「いただきます!! ──……うまい」


 米だ。米の味だ。

 ああ、うまい……まさか、異世界で米を食えるとは。

 家畜の餌とか盲点だった。何度か食品店を探したこともあったけど、見つからなかった。

 でも、こうして俺の手にコメがある。


「……みんな、ありがとう」

「お、おっさん泣いてんの?」

「男の方が泣くの、初めて見ましたわ」

「……犬のエサだよね。でもおいしそう」


 こうして、キャンプでは新たな発見、そして米に出会うことができた。

 ありがとう、『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』……俺は今日のことを絶対に忘れない。

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