鮮血の赤椿とキャンプ①

 さて、今日はキャンプの日。

 俺は買い物を済ませ、デカいリュックにキャンプギアを詰め、仕事場の前で待っていた。

 すると、デカい犬とリヤカー、そして『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』の三人がやってきた。リヤカーには荷物が入っている。


「おっさんおはよ!! いい天気だねー」

「おう。キャンプ日和だな」

『オオゥ』


 なんかデカい犬に返事された……なんだこの犬? 

 秋田犬みたいだけど、熊みたいにデカい。まあ俺も一年以上異世界で暮らしてるし、魔獣とかも見たことあるからデカい犬くらいじゃ驚かないけど。

 すると、ブランシュがデカ犬を撫でながら言う。


「この子は『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』の荷物運搬担当、『オータムパディードッグ』のヒコロクですわ」

「オータム、パディー……ドッグ。初めて聞く犬種だな……」

『オオゥウ』


 でっかいな……熊というか、馬というか、そんくらいデカい。

 リヤカーには、彼女たちの荷物が入っている。俺のカバンも入れてもらった。

 ブランシュが教えてくれる。


「普段、冒険に出る時は日帰りか、長くても数日なので、カバン一つを交代で背負って行くんですけど、やはり遠くのダンジョンなどに挑む場合、いろいろな物資が必要になる場合があります。そんな時、この子にリヤカーを付けて運んでもらうんです」

「へえ、そういうことか」

「ヒコロク、強い」


 アオが自慢するように言う。ブランシュ曰く『アオが子供の頃から育てている子』らしい。

 今日は、ヒコロクの散歩もかねてのキャンプだ。

 目的地は、三人が水浴びしたり、休憩をするためによく使う湖。王都から半日ほど進んだところにあるそうだ。


「おっさん、もう行ける? 食材とか買った?」

「ああ。自分用だけだが……本当にいいのか?」

「うん。自分の分は自分で、これ冒険者の基本ね!!」

「……今日はお休みだけど」

「ま、まあそういうのはいいの!!」


 アオのツッコみにロッソが叫ぶ。

 俺は、ヒコロクに近づき、そっと撫でてみた。


「よろしくな」

『オフ』


 なんか可愛いな……犬、俺も家で飼おうかな。


 ◇◇◇◇◇◇


 王都から出て、整備された綺麗な街道を歩くこと半日……ってか、若い子だからなのか、六時間ぶっ通しで歩いても平然としてやがる。

 そして六時間後……お昼ちょっと前に湖に到着した。

 途中、川沿いをずっと歩いていたのでわかっていたが、かなり綺麗な湖だった。


「おお……!!」

「どう? 綺麗なところでしょ。アタシらが冒険の帰りに水浴びしたり、そのまま野営する場所なのよ。魚とか泳いでるしね」

「すげえな……うん、気に入ったわ」

「じゃあ、キャンプの準備しよっか!!」


 ロッソは荷物からポップアップテントを出し、ポイっと投げる。すると一瞬でテントになった。

 アオとブランシュも、椅子を出したりテーブルを出している。けっこうデカく重そうな椅子だ。いちおう、折り畳みできるみたいだが。

 さて、俺は。


「ふっふっふ、この日のために作ったテント、御開帳だ!!」


 俺が出したのはポップアップテント……ではない。

 なんと、ワンタッチテント!! 紐を引っ張るだけでテントになるタイプである!!

 いや~……これ、作るの苦労した。グラスファイバーとかないから、毎度おなじみのジュラルミンスネークの骨を加工した。

 骨に穴を開けて紐を通すの大変だった。折れ目とかの加工もめんどくさかったし、生臭さを消すためにアクアスライムに薬草を混ぜ、ギガフロッグの皮を被せて縫い合わせた。

 昔、仕事でテントの修理とかもやったし、こういう知識って大事だよな。


「なんか違うテント……」

「こっちはワンタッチテントでな。紐を引っ張るとテントになるんだ」

「へー」


 アオがジロジロ見ていた。ふふふ、気になるのかね。

 テントの中に、メガシープっていう羊の魔獣の毛で作ったシュラフを入れる。

 そして焚火台をセットし、折り畳み椅子とテーブルもセット。俺手作りの魔導ランプをランプ立てにセット……テーブルにクッカー、魔導コンロ、水のタンクを置き完成!!


「うし、完成」

「「「おおお~」」」

「って、なんでジッと見てんだよ」


 女子三人が興味深そうに見ていた。というか、ロッソがいつの間にか大量の薪を持ってるし。


「おっさん、薪持って来たよ」

「あ、ありがとう」


 生木は煙すごいんだけどな……さすがに、乾燥させた薪まで持ってくるとなると、荷物になる。

 すると、俺の腹が鳴った。


「腹減ったな……メシにするか」

「うん。お昼何作るの?」

「いや、サンドイッチ買ってきた。作るのは夜かな」

「そっか。その魔道具使うとこ見たかったな」

「はっはっは。お湯は沸かすぞ? コーヒー飲みたいし」

「……コーヒー?」

「大人の飲み物だ」


 カバンからサンドイッチを出し、椅子に座ってコーヒーの用意をする。

 クッカーのヤカンに水を入れ、魔導コンロにセットして沸かす。

 コーヒーミルで豆を砕き、メッシュフィルターをセットし豆を入れ、お湯を入れる。

 いい香りがしてきた……が、ロッソが顔をしかめる。


「く、くっさ……大人の飲み物って臭い」

「まあこれ、コヒの実っていう薬だからな……俺はこいつを焙煎して、砕いて越して飲むのが好きなんだよ」

「ふーん。へんなの」

「ロッソ、お昼ですわよー」

「あ、は~い。じゃあおっさん、ゆっくりキャンプしてね~」


 ロッソは、お昼の準備をしていたアオとブランシュの元へ。

 じゃあ俺も……ソロキャンプを満喫しますかね。


 ◇◇◇◇◇◇


 サンドイッチを食べ、この世界で買った本を読みながらコーヒーを飲み、煙草を吸う。


「っぷぁ……はぁ」


 最高すぎる。

 読書、コーヒー、煙草……日差し、少しきついな。


「タープ、作るか」


 今のところ、タープくらいあれば問題ないかな。

 コーヒーも二杯目。自作の携帯灰皿に、アレキサンドライト商会で定期的に送られてくるブランド煙草の『スターダスト』の灰を落とす。

 欠伸をすると、アオが近づいてきた。


「おじさん」

「ん? って……そのカッコ」


 アオは水着だった。

 青色のタンクトップビキニ。こいつもけっこう胸あるな。

 手には竹竿。糸も付いているってことは。


「釣り、する」

「ああ、そうだな……そろそろやるか」


 ふっふっふ。スピニングリール……実戦が始まるぜ。


 ◇◇◇◇◇◇


 水着のアオと一緒に、湖に近づく。

 遠く離れたところで水飛沫が上がっているのが見えた。どうやら、ロッソとブランシュが水着で遊んでいるようだ。


「餌、いる?」

「ああ、もらうよ」


 アオが持っていた木箱を開けると、土が敷かれミミズみたいな虫がいっぱいいた。

 アオは素手でつまみ、針に器用に刺し、ぺいっと投げる。

 手慣れている……まさかこいつ。


「アオ、まさか……釣り経験者?」

「ここに来ると必ずやる。おじさんの竿、見たことないし……興味ある」

「そうかそうか、釣り好きか!! ふふふ、俺も好きなんだ」


 今回の仕掛けは、シンプルに針と糸とウキと重り。

 遠投する必要はないけど、せっかくなので軽く投げてみた。


「おりゃっ」

「おお……飛んだ。その丸い糸のやつ、すごい回ってる」

「リールな。こいつに糸が巻いてある。で、この取っ手を回すと糸を巻き取れる」

「おおお……カッコいい」


 アオは目をキラキラさせ、俺の自作釣り竿を見ていた。

 ヤバイ……すっげえ嬉しい。


「アオ、お前も欲しいなら作ってやろうか?」

「いいの?」

「ああ、俺の初めての釣り仲間だしな」

「おじさん……ありがとう!!」


 アオはにっこり笑った。

 クール無口系の忍者少女ってイメージだったが、なんか猫みたいに懐いてきた。

 と、俺が竿を投げて数分後。


「ん……お、来た!!」


 ジイイイイイ!! と、糸が持っていかれる。ドラグを緩めすぎたかな。

 俺は竿を立て、糸を巻く。


「おもっ……こりゃデカいぞ!!」

「おじさん頑張……あ、私も来た」


 アオの竿にも反応あり。

 だが、アオは近い距離だったので、竿を上げるだけで釣れた。

 俺は魚と格闘……いいね、この感じ、楽しいぞ!! 

 そして、魚が近くに寄り、疲れて来たのか抵抗も少なくなり、そのまま引き寄せる。


「よし……って、デカい!!」

「おおー」


 釣れたのは、タイみたいな赤っぽい魚だった。

 60センチくらいあるのか……よくライン切れなかったな。

 アオは目を輝かせている。


「楽しそう……それ、いいなあ」


 アオが釣ったのは30センチくらいのサバみたいな魚だ。

 曰く、この湖で釣れる魚は全部食べれるらしい。

 俺はエラを切って血抜きをし、バケツの中に入れた。


「アオ、お前もやってみるか?」

「いいの?」

「ああ。楽しいぞ? というかやってみて欲しい」

「じゃあやる。えへへ……おじさん、優しいね」

「そうか? さぁさぁ、餌付けて投げるんだ。投げるコツは……」


 俺とアオは、日が暮れる前まで釣りを楽しむのだった。

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