第3話

ゴブリンの死骸をばらし、構造や強度を調べて分かったことは、本当に蟹に近い存在だということだった。

体液は透明に近く、外殻の中は太い筋と肉で骨は無い。心臓は人間のようなものでは無く背中の外殻にくっついており息子の小太刀が貫いたのがそこだった。道理であっけなく倒れたはずだ。


ちなみに、蟹とは違い美味しそうな磯の香りではなく、カメムシに近い青臭く食欲を減退させる匂いだ。マスクをしていて良かった。




「魔石発見!」


頭蓋を見ていた息子が嬉しそうに声を上げた。


夫がどれどれとばかりに息子がトングで掴んだ物を見る。


「おお、これは魔石だな! 青いってことはゴブリンは水属性か!」夫も嬉しそうだ。


益々ゲームじみてきたなと遠い目をして、ふと違和感を覚えた。


「美和子、どうした? 変な顔して」

「父さん悪口いくないよ! 母さんのすっぴん変顔はいつものことでしょ!」

息子まじで容赦無い。触るもの皆傷つけるお年頃か。スルーするのが大人ってもの。なんせ通った道だからね。

「なんか変な気分なのよ。何か分からないけど何か忘れているような。違うような、よく分からないけど」

「ああ、分かる分かる。嫌な予感が現在進行形みたいな気分だな」

「僕はワクワクだけどね。魔石アップしよっと!」

水で洗った魔石を指で挟んでピースサイン。「魔石インブレイン」笑顔の自撮り写真を呟きにのせる息子。フォロワーの反応も良いようでご機嫌だ。


足元に異形の残骸があると思えないほどの息子の姿に夫が小さく息を飲んだ。

何かに気づいたようだ。


「なあ…なんで…」

夫の言葉の先は聞かなくてもわかった。


違和感の正体。








なんで私たちは嬉々として解体しているんだろう?


畜産業に従事しているわけでも無い普通のリーマンと事務員、中学生の3人家族だ。


道路で動物の死骸を見た日には半日鬱な気分になる程なのに、なぜ抵抗もなく緑色とはいえ二足歩行の人に近い姿のゴブリンをバラせるのか。


昨日、いや今朝までの自分との差異。


それが違和感の正体。





そして嫌な予感は…。



「わー見て見て! 魔石に火がついたよ!ポスト化石燃料だね」



夫と私の視線の先に可愛い息子の無邪気な姿があった。




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