第2話 探偵クラブ

 あれから1ヶ月が過ぎ、結局は中途半端のまま研究は終わった。

 2人の仲は結局近づくことなく遠くなることもなく、結局寝食を共にすることもなく、平凡な研究結果を提出した。


 赤面の毎日が通り過ぎ、気がつけば喫茶店でコーヒーを飲んでいた。……Leと共に。


「ねえねえ、どうだったの?」1週間以上も会う機会がなかったからか、いつもより質問の幅が広い。

 とりあえず「なにもなかったわよ」と無愛想に答えた。

 なにそれ〜と笑うLe、最初からそう答えると知っていたかのように。


「それより、大きな研究が終わったからこれから少し時間があるの」

「また探偵クラブ? 懲りないわね」

「懲りるどころか、ますます闇が深くなってきたわ」

「闇? またぁ好きねぇオカルト」

「オカルトってそんなんじゃないって」

「オカルトじゃない、組織とPOPIDの関係性って」

「だって方針がこんなに大きく変わるっておかしいわ」

「それにその話ってするだけで、あまりいい印象を持たれないんじゃない」

「そこがまたおかしいのよ、言論の自由とか言いながら、ある意味でのタブー視だよそれって。人は闇に葬られた情報こそが真の情報と思ってしまうものだから。大きな変化があったら尚のことおかしい」

「そう? 私にはなにも変わり映えのない毎日だけど、いつも通りの学校生活と運動、多少のゲームと喫茶店での会話、何か変わったことある?」

「あなたはいつも通りかもしれないけど、私は大きく変わったのよ!」

「私たちより学科がいくつも進んだ大学校の人達と一緒に行動を共にするからでしょ? いいなぁ結構ハンサムだったんでしょう」

「誰がよ! あんな奴! 結局喧嘩ばかりで研究の足引っ張って!」


 この1ヶ月を回想しても、……足を引っ張っていたのは私の方でした。いつもどこでも衝突して、蓮も手を焼いていた。近づくと一々顔を赤くして、下を向きブツブツと話し出す。なにを話しているのか分からないから、もっと具体的に聞こうとすると、急に怒り出し大声でまくし立てる。警戒度を常にマックスにさせていた。

 と言うのも今まで男性との会話すらまともにしたことが無いのに、急に男と組みになると言うのは信じられなかった。(その上相手が蓮という子供じみた男だ)そう考えているうちに、急に顔を近づけてきたことを思い出し顔を赤くする。

「顔が赤いんだけど」と冷静に言われる。

「な、なんでもない!」

「と、とにかくクラブを作るのに必要なのは、あと1人の支援と信頼書ね」

 少しいらいらとしながら窓の外を見る、課外に出る必要があるね。学校内は生徒ばかり。実績や計画なく信頼書を書く人はいない。


 大学院生クラスになると素行100もいるみたいだが、それは皆無で砂漠でビーズを探すような無理難題だ。結局は大人に頼るしかないだろう。


「どうやって探すのよ、まず課外に出る申請の内容は?」

 Mはテーブルの上に組んだ腕に顎を乗せ思案する。

「う〜ん」確かにアテもなく目的も分からないクラブの信頼書とメンバーになる人なんているのだろうか。

 ――ため息が出た。

「その人は?」

「え?」

「その蓮て人、1ヶ月も一緒だったんでしょう?、それに今日これからその人と会うって絶好のチャンスじゃない。会うのは今回で最後なんでしょ?」

「う〜ん」少し考え込み「ありえない! ありえない!」と顔を赤面して頭を振った。


 蓮とは最後の資料の確認と後片付けだった。

 結局特に話すこともなく、最後の資料をまとめて提出した。それが蓮と会う最後になるはずだった。

 

「お疲れさん!」沈黙に一言唐突に声をかけられた。返した表情は明るくそして少しうんざりしたような、でも笑顔だった。

「う、うん、色々と足を引っ張ってごめんなさい」

 小さな声で言った、結局この蓮という男はその後特に何かを仕掛けてくることもなく、資料作りでは優秀な能力を発揮しながら(私に足をかなり引っ張られてはいたが)提出まで漕ぎ着けた。

 一応A資料として提出することができたので、Mは素行が上がる可能性もあった。

「いいよ、俺も悪かったから」

「うん」それには納得だった。

 たくさん話したい事があった。だけどなにから話せばいいのか分からない、そのままエレベーターに乗り帰路へと着く。

 エレベーターの中はニ人っきりだった。


 それは勇気を振り絞ったからか今考えても思い出せない。いや、会った時からずっとこの言葉をかけたかったに違いない。

 少し気まずい2人の時間。沈黙の間に突然Mはクラブに誘った! 蓮は面を喰らっていた。


 また、再び沈黙が流れる。


 蓮は優しく声を発した。

 が、その答えもイエスでありノー! でもあった。条件次第ではいいよとの事。「ふ、ふざけんじゃない! そうやって私のことを馬鹿にして」と、食ってかかるが蓮の顔を見てドキッとしてしまう。真剣な顔だったからだ。

 

 鼓動が高まる。そして、その条件であるたった1回のキスを防犯カメラの前で行った。



 とんとん拍子でクラブ設立の話が進んでいった、蓮という男、ただの学生ではなくなんとその年齢で素行100だった。

 話し合いもこれで3回目課外の人と会うためのホールがあるが、そこの中央にある席に3人で座っていた。それぞれ飲み物を用意しながらLeがいつも興味深そうに蓮と話していた。

 発起者はMのはずだったが、話は2人を中心に進んでいった。

 最後のクラブ設立資料をまとめる作業だった、活動拠点や活動内容、どのようにしてこの研究都市や第7衛星に貢献できるかということだった。無いこと有ること書き殴れるものは全て書いた。たった3名のクラブで仰々しいのだが……。

 それに、貢献どころか闇を暴き出し、研究都市に一石を投じようとしているのだ。

 表向きは幸福度数の変更パターンとその行動によるその影響を調べるクラブとした。

 

 無事に提出し、3人は手を合わせてその成功を目標とした。


 喜びから覚めやまぬしばしの時間3人は設立の成功を褒め合った。ほどなくしてその日は解散した。そして数時間後……。

 蓮はその夜、シークレットPCで忙しく検索とタイピングを繰り返していた。

 空間キーボードを叩く指は軽快だった。所々思案するたびに指が止まる。その探偵クラブの真の目的POPEDと研究都市の組織との闇。Mの深謀の数々、そして、それに関連する思い当たる全てを打ち込んだ。

 

 一通り終わった後、もう一度読み直す。一息つき背をもたれた。

 

「興味深い」と呟いた。

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