3話 希望からの転落事故

 おっはよーございまぁす!!


「…………」


 いや〜、今日は良い天気ですね。最近雨ばかりで憂鬱だったけどお天道様が輝くお陰で今日も頑張るぞーってやる気湧いて来ますよね!


「…………」


 あ!そういえば聞きました?隣のニヤさんこないだ診察の時から別の部屋に移されたけど無事元気な子生まれたそうですよ。


「…………」


 私はまだ見に行けてないんですけどニヤさんの異能が赤ちゃんにも遺伝したんですって。親子お揃いですね!でも赤ちゃんは別の場所に行ってしまうのは悲しいですねぇ。

 それでも心はずっと繋がってる、きっとそう遠くない内に会えるはずですよね。そうは思いませんか?


「…………ちっ!」


 んん?今日はなんだか元気なさげですね。でも問題なし。なんと今日のご飯はクリームシチュー!確か好物ですよね?前に寝言で言ってたの私聞いてたんですよ。だから私が手回して厨房の人にメニューを追加させたんです。前世の料理を異世界に持って来るのは転生のお約束ですからね。


「…必ず…こんな場所から…」


 ほら!これに使われてたお肉なんか凄い柔らかいんですよ!あ、運ぶ途中食べたとかつまみ食いしたとかじゃないですよ勿論あはは…。ごぼん、取り敢えず好物食べて元気出して下さいね。先生も食わず嫌いが多い事には悩んでいたみたいですし。


「…待っててくれ…」


 ふふ、俯いてても僅かにシチューへ目を向けましたね。食欲があるなら良かった。それじゃあ私はここらで、暫くしたら皿取りに来ますので残さず食べて下さいね。


「…必ず…3人で…」


 あ、それと赤ちゃん、食堂の皆から好評だったそうですね。それじゃあまた。







「(へ餌やりは完了っと!)」


 おはよう皆の衆!今日も元気に外道の道を頑張って歩いて行こう!おおー!


 ……てな感じで鼓舞してみたけど、


「(早く私ごと潰れてよぉこの施設…)」


 全く頑張れる気がしない。それでも今日まで生きてこられてるのだから私は殆ど人間辞めてしまっているのかも知れない。


 最近、新しい仕事が増えた。そう、さっきのシチューの件である。


 ここの施設、前から言っている通り解剖やら様々な実験を繰り返している。その大事な実験材料の面倒が私の仕事である。でもいつまでも利用できる程頑丈ではないので交換が頻繁に行われている。

 ではその材料は何処から運んでくるのか?


 この『大天才錬金術師ちゃんの隠れ家〜君の体にレボリューション〜』は人里離れた場所にこっそりと存在している。ここに他所からお客や役人が——例外を除いて——来た事など私が目覚めてから一度もない。


 そんな秘境に引きこもってはいる以上自給自足は徹底してはいるが、それでも足りない物が出るのだ。


 農園、牧場、製鉄場、鉱山はたまた温泉ランド(閉鎖中)まで何でも備わっているこの施設には、最も重要なモノが度々足りなくなる。そのせいで半年に一度、存在が露見するかもという危険を犯してまで調達する必要がある。


 それはこの地に建設した都合上元より想定されていた問題。そしてその問題により設立者が表舞台に顔を出す原因となった要因。

それは…


「(新鮮な人間パーツ)」


 そう私達は作られた存在だ。だが創設者に直接ではないのが少しややこしくなるのでここのでは割愛する。


 私達は何から出来たのかと言うと“人間”から。“人間”に別の生き物のパーツを繋げ、埋め込み、生やし、または溶かすことで私達はここに生まれ落ちた。


 ここにおいて皆は同僚であり同族であり兄弟であり家族なのだ。そして創設者はママという事になる。


 そしてさっきの話である私が「直接」作られたわけではないというのに戻るが、現在施設に創設者が外出してもう20年以上経過している。これはえっちゃんが20年前に生まれた際には既に居なかったという証言からなので実際はもっと前から居ないのかもしれない。


 だが創設者は生きていると、ここの2代目として創設者に施設を任された奴は偶の総会で言っていた。なので上の方ではある程度交流はしているのだろう。


 で、ここで問題なのがこと。


 これも総会で長ったらしい挨拶のうちに話していた事なのだが、どうやらこの施設の事は創設者が移り住んだ場所にも噂としてだが存在が知られつつあるらしい。


 誰がミスを犯したのか、そう思う同僚は居ない。それは同族への——植え付けられた——信頼故にである。だが責任者、そして欠陥品だけは事の重大さに気付く。


「(ここが潰れる日は近いね)」


 責任者は近付く破滅を避けるべく模索する。

 対して、私は近付く破滅にただ目を瞑り待ち望む。


 2度目は楽な“死”で良かったと、根拠の無い楽観を抱えて今日も外道に勤しむのだった。





 しかし楽観は一つの社内放送によって打ち砕かれる。


『ごほん、えぇ…全員直ちに手を止め傾聴すること』


 だが知っていたことだ。


『これより緊急伝達により命じる』


 2度目の人生だろうと


『これは創設者である創造主の言伝である』


 私はクズのままであり


『全員直ちに施設内のあらゆる資料の破壊』


 異世界であっても神も仏も


『加え鉱山設備の破壊、調達経路の隠蔽』


 クズが嫌いなのだと


『それらの完了の後点呼確認、速やかに』


 ああ、呪いあれ神様クソったれめ…


『この地を離脱する』


 クズには地獄がお似合いだと神様クソったれは言いたいらしい。


『創設者の開拓は我らが引き継ぐのだ』


 私の異世界生活地獄はまだこれからだった。








「(…よし潰すか地獄会社…)」


 クズの遅過ぎる奮起がここに始まった。

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