2話 遅れてもバレないよね?
この
どうも
『異世界転生』、その言葉は“もし違う自分に生まれ変われたら”と願う多くの人達にブッ刺さった魔法の言葉です。
貴族になったり、美少女になったり、特別な力を与えられた特別な存在になったりと。
“成りたい自分に成る”のが異世界転生。そう思っていた時期も私にはありました…。
てかそれが普通じゃない?少なくとも前世では出来なかったことが、転生先で出来るように都合良くなるのが異世界転生じゃん?
「よぉドロドロ、いつも地べた這ってお疲れさん!踏まれんように気を付けろよぉ?」
なのに!これは一体どういう了見かなァ!
「(……っ!)」
「おおっと悪りぃ悪りぃ!踏まないよう避けたら台車ぶつかっちまった。でも俺急いでるからじゃあな!」
絶対わざとだね。あのオランウータン絶対許さん。“うーたん”と略してやる。
「(よっこらっしょ)」
台車に落ちた木箱を乗せて仕事を再開する。
ふぅ…、重たい。仕事である荷物の運搬、それが今の私の唯一の存在価値だ。
けど代わりは幾らでも居るってのが悲しくなるね。
「——それでよ俺は言ってやったのさ。それで——」
まさかの行く先にうーたん…。身体が動物系だからアイツには休憩があるのか仲間とくっちゃべっている。妬ましい。
迂回だな。ロスタイムになるけどまた荷台にぶつかって来る未来が待ってるならこっちの方がマシだろう。
ノルマがこなせなければ即処分。勿論物理的になのが絶望感凄い。しかもそれが最悪のパターンでは無いのが尚更怖い。
「(のっそ…のっそ…)」
なんでこんな所に来て…、いや転生したのだろうか。
まあどうせ私が現段階で知恵をこねくり回しても思いもつかない理由なのはテンプレなので考えないようにしよう。
私の知らないうちに女の子助けようとトラックの前に飛び出して死んだら、神様に転生させて貰った。そいうことにしておこう。つまり神様せい。うん、クソったれめ。
「(どっせい…どっせい…)」
ある事ない事どこかの神格になすりつけて台車を引く。
ガラガラと金属や荷物のぶつかり合い擦れる不快音を廊下に響かせながら目的地に着く。
うーたんを迂回するのに手間取ったが怒られることはない。というか気付かれないだろう。この施設何故か時計が砂時計しか置いていないだ。そのせいで日付けの変わり目は日差しから読み取るしかない。でも遅れ過ぎたら流石に上に報告されてジ・エンド真っしぐらだけどね!ゼハハ。
「次、目。新しいの試そう。反応が変わるかもしれん。…ああ、そいつはもう駄目だ。処分しておけ。あ、いや餌が足らんと隣から言われてたな。後で運んどけ。お前、それが終わったら次は——」
「(どっこらせ…どっこらせ…)」
「ん、手首が来たぞ。誰か取って来い。こっちにまで寄られたら堪らん。泥で私の芸術の価値が損なわれてしまう」
どっかの怪物とはえらく違う歓迎の姿勢に風邪ひきそう。まあ見た目はどっちもキショイけど。
「(はい…はい…重いですよー…はい…)」
「……」
「……」
「……」
無言で荷物を受け取る仮面白衣達(性別不明)が部屋の奥へと白い手首がはみ出した木箱を運んで行く。中身はなんなんでしょうねー……。
私の内心を知ってか知らずかしかめっ面を向けてくる人外爺さんに軽く会釈し撤退。態度の割にはこっちに目線向けて話す所は律儀だなぁと思う。それでも印象悪いけどね。
「(せーのっ!)」
再び台車と不快音を轟かせ次なる目的地に向かう。次はえっちゃんの所、この施設随一オアシスだね。因みに二番目はその次なので少し心が軽い。でもその更に次は怪物の大部屋なの思い出したら元に戻った。悲し!
でも泣いても泣き崩れても仕事は離さない逃がさない。引き攣った笑顔貼っ付けてニコニコやるのがお仕事なのです。え?やりがい?そんなもの其処らの犬にでも食わせておけ。
……さてさてさーて皆さん。私が此処に入社し社畜として切磋琢磨粉骨砕身そして言われるがまま五里霧中な状態になっているか、疑問に思うよね?思わない?思ってくれ。
言わずに仕事内容をご覧になって貰ったけど正直興味あるのはそこじゃないよね?
はい!てなわけでお待たせ!いきなり過去編の始まりじゃい!。
あ、場面転換下手とか言った奴が居るね。なるほど面接送りだ。
◇
暗い暗い日の光すら届かない暗闇の中、私は何かに押し潰される感覚を発端に目覚めた。
手や足や舌、幾ら動かそうとも感覚が伝わることがない。しかしそれでも何かが私を取り囲んでいる。いや私がその何かに埋もれている。
気付いたところで私に出来ることはなく、まるで体が崩れては戻ろうとし、また崩れるのを繰り返している様な感覚が恐怖心を駆り立てパニックに陥った。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も………何度ももがいた。
上に、何かの間に身体をねじ込みよじ登り上へ。けれど身体は滑り間をスルリと落ちてしまう。
身体の形を思い出して動いてみると今度は落ちずに止まった。けれど次は体がぶつかり登れず、身体も動くのがやっとで何かを押し上げることは出来ない。
ならば次は手だけをイメージしてその間にねじ込む。より深くより上に潜り、そのまま身体は伸ばした右手につられて上へと登った。
幾ら時間が経っていたのかは分からない。でも私には途方もないように思え、心も必死さに駆られて途中から身体の異常にも気に構うことが出来なくなっていた。
そして登り切ると私は自分の身体が人ではない何かに変わっている事にようやく気付くことが出来た。
今でも思う。あの時、身体を変形して幾分も経っていないあの時ならまだ感覚を忘れずにいて、元の身体に戻れたのではと。
けれど私はそれを実行するには遅過ぎた。何故なら。
「ンッ…?動イタァ。起キタァ。目、開イタ」
「ゴ——ッッッッハアアアアンンン!!!」
怒号に全て、空気、水面、建物さえも恐怖に当てられたかの様に震え出すその惨状をその怪物は一瞬で作り上げた。
登る際に固めた身体も輪郭が震え崩れだし、固めきれず繋がっているだけの部分は見事に弾け飛びバラバラに元の暗い底へと落ちて行った。
「(シェーーーーっっっ!!!)」
恐怖が心を打ち砕く勢いで全身を駆け巡るが持ち前の能天気もとい自己中をフル活用して身体の輪郭を再び固める。
身体の9割近くが吹っ飛んで残ったのは手のひらサイズだけ。人間生きててこんな事普通は体験しないだろう経験が盛りだくさんで降り掛かり正直、恐怖に身を任せて念願を叶える時なのではと場違いな事を考えてしまう。
まあ実際ここで気を保つを辞めたら一瞬で気絶するだろうし、その時は目の前の怪物に一飲みだろう。つまりは消えられる。日頃から考えてた事が結果的に叶うチャンス。その筈なのだけど……。
「ハハツツツ!フフフヒフヒフフツツ!ママノ、ゴッッッッハアアアン!!!」
いやいやいやいやいや無理だ。私、死にたがっているくせにいつまでも飛べなかったクズなのだ。人の何倍も生存本能が強いせいで死に対して余計なことを考えてしまう。
死の瞬間その時に味わう痛み苦しみが気色悪くなるほど鮮明に脳裏に張り付いてしまう。そんな事あり得ない。そう分かっていても否定し切れない程に見せられるものがリアルに寄り過ぎている。
消えたがっている自分の他の別の、生きがたがる別の自分が居る。
だから——
「エ…逃ゲ!!ダッメエエ!!ゴッッッッハアアアン!!!」
「(意気地なし根性なしへっぴり腰!!)」
恥も外聞もこんな場所じゃ気にする必要無いので逃げる。そんな
触腕から垂れる粘液に絡められ張り付くが何とか脱する。怪物に気を取られ確認していなかった何かはボトボトと着地した私の周りに落ちて——
「(ヒッ——!)」
目と目が合う。その瞬間、始まるのは恋とかでは無く恐怖と困惑だった。
下から上がる際、押しのけ這い上がったものが何なのか——、一瞬考えてしまいそうになったので振り返って怪物をガン見して無理矢理思考を塗り潰す。気色悪い容姿が良い効果をもたらしてくれた。今回だけはグッジョブ!
「オオオオオオオオオオ!!!!!」
お預けをくらって限界が来た怪物は拘束具を施された身を怪力で動かそうと暴れ出す。しかし信じられない事に怪物の肉体と肉に突き刺さる巨大な鉄釘は拮抗しびくともしていない。
伸ばした触腕は一本のみで、それ以外は動けないらしい怪物は拘束が解けないと諦めると再び光る眼を向け、そして…。
「こっちよ!早く!」
2人の強者と弱者、それだけが存在していた空間に突如差し込む光を背に乱入したのは。
「(え…?…鹿?)」
「ちょっ!そこで止まるな馬鹿!」
「ゴッッッッハアアアン!!!!」
それが私の面接での出会いだった。
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