一章 クズな研究施設
1話 罰せられしクズの右手
おはよございます。
または
こんにちは、でしょうか。
皆様大変ご無沙汰になります。クズです。
お前死んだじゃん、という声が聞こえますがご容赦下さい。このクズはしぶといクズだった、今はそう認識しておいて下さい。
ところで、私が今何をしているのか、何処にいるのかお話ししなければなりませんね。
結論を話せと指をトントンしているせっかちな方へお願いです。
私も今だに理解が追い付かなくて内心慌てふためいてるから少し静かにしてくれ…。
…では参りましょう。
日が落ち、窓から見える景色は反射した室内の風景となりました。
最近は蒸暑く肌着が朝でピッタリとくっ付き、更には透けてしまうのであらあら大変。
ん、クーラーは無いのかって?
そんな神器がこの施設にあったら新興宗教爆誕必然だねー、アハハ。とっとと文明開化して欲しいね!(迫真)
…ごほん、取ってつけたようなキャラ変口調が崩れてしまいました。お忘れ下さい。
さて!此処の紹介がまだでしたね。
現在私が居ますのは『大天才錬金術師ちゃんの隠れ家〜君の体にレボリューション〜』でございます!。
…………。
マジだからそんな目をしないでくれ。私だって恥ずかしいよ!こんな頭沸いてるネーミ…ごほんっ!!
…此処は過去に住まわれていた方が国の兵士の目から逃れる為、秘境も秘境の大秘境のこの地に作られたものです。因みに群馬ではありません。
その方は今や名高い錬金術師でこの世界に知らぬ者はいないとされる大天才。
そんな天才も国が認めねば処刑台に掛けられる時代がありました。
そこで作られたのがこの『大天才錬金術師の隠れ家(以下略)』なのです。
ここで大事な事なのですがこの名前はその天才が1人で考えたものであり私達は一切関与していないという事を常々ご理解して頂きたく思います。
次にこの施設についてお話します。
創設者様が王宮に仕えた今も尚この施設は稼働しております。
毎日非人道的人体実k…ごほん!新しい未来を開拓するべく様々な研究に励んでいます。
此処の職員は皆創造主である大天才錬金術師ちゃんに感謝を捧げ粉骨砕身をモットーに働いております。
スケジュールは月月火水木金金といった何処かの帝国を彷彿とさせる鬼畜っぷりを見せております。
え、曜日があるならそこは日本なのかって?残念違います。私がシフト制を導入する為の足固に提案してようやく普及した物だよ!なのに此処の責任者は「これでより効率的に職務に殉じることが出来る。お手柄ですよ」などと抜かし後日には1日の仕事量を倍に増やしやがったのだ!それを喜ぶ他の社員も大概だがこれは酷い。私達は社畜か⁉︎確かに見た目は畜生だけどさ!
ごほん、お忘れ下さい。
続いてこのアットホームな職場に務める同僚達の紹介に移ります。
まずは頼れる皆んなの先輩、スレンダーしかし崖をも軽々と駆け上がる強靭な肉体、その姿は皆んなの憧れであり支え。
せーの!エゾジカ似のえっちゃーん!
「あら今日も運搬ご苦労様。小さいのに偉いわねぇ。後は私が持って行くから少し休んでいきなさい」
視野が広く物音に敏感なえっちゃんは今日も皆んなのモチベーションを上げてくれます。
皆の為にハーブティーを淹れてくれたり、ゴミ出しや掃除など仕事第一の気質が多い職員の中で珍しい自身より全体の効率を重視する方です。
新しく仲間になった子には職場や仕事の事を分かりやすく教え、挫折してしまいそうな子には寄り添い手を貸してくれます。しかし甘やかす事はなくちゃんと自立出来るよう最低限のサポートにだけ徹します。
自身の仕事もあるというのに他人を思う姿勢は前世の私を思い出させます。
だけど安心して下さい。彼女は本物、クズではございませんでした。このクズが保証します!
続きまして前世で言う人事部に当たる仕事をしている彼を紹介させて頂きます。
彼は私達の中でも特殊な立ち位置におり、彼がいる部屋に入る際も細心の注意が必要です。
まずは入り口前に置かれた香水を体に満遍なくかけます。これをしないと彼の『面接』が始まってしまうので忘れたら大変です。折角入社したのにもう一度『面接』を受けて落ちるなんてことになったら目も当てられませんからね。
『面接』は残酷なのです。
「マダ、出ナイ。マダ、出ナイ。マダ…」
重たい扉に精一杯の力を込め出来た隙間に身体をねじ込みます。
此処の扉は重い上、直ぐに閉まるよう作られていますので力無き弱者は開けるだけでも命懸けです。ほら、ここの部分何だか赤いとは思いませんか?つまりはそういうことです。
「…出ナイ。アア、仲間、来タ。仲間!来タァア!」
空気が震える程の出迎えの言葉を掛けてくれる彼ですが実は目がとても悪い為私の事は匂いで判断しています。先程の香水ですね。
此処だけの話、私は彼が苦手です。性格とか仕事が遅いだとか、体臭とかで嫌っているのでは勿論ないです。私は誰であろうと平等に察しますからね。
私が彼を苦手と意識している理由、それは言ってしまえば生物としての性でしょうか。
例えるなら、自分より遥かに大きいクマを目の前に立たせた感じです。勿論夢の国の彼等ではなくワイルドな方のクマです。
まぁ、要するに本能に近い部分で感じ取ってしまうのです。
私が彼との間に感じるもの、それは。
「ウレ、ウレシ、イ!ヨ、ヨウコソォ!」
『餌』と『捕食者』です。
「薬、アリ、ア、リガト、ウ!」
彼、いやそう呼ぶとなんだか危機感が感じにくいので訂正します。
この巨大な怪物は此処に住む異形達の中で最も行動に制限を掛けられた存在です。
怪物は普段からこの大部屋の貯水槽に身を沈め与えられた仕事をこなしています。
仕事が出来る分知能も最低限備わっている証拠なので下手な事をしなければ大丈夫ですがこの部屋で消息が途絶える職員は後を絶たないと言います。
私も何回も訪れて最初程ビクビクする事は無くなりましたがそれでもこの生物としての存在感やはり変わりませんね。
なので荷物も届けたのでとっとと部屋を出るとしましょう。…もし『面接』が始まったりでもしたら嫌ですからね。
◇
さて皆様、紹介するメンバーはこの辺にして、ここからは本題の何故私が生きているかをご説明しましょう!
—え?どうせ転生だろって?あははは…。
勘のいいガキは嫌いじゃないよ…。
私も転生主人公みたいに転生について独自考察を語ってみたかったなぁ……。
まぁ転生なんて擦られ続けて殆どテンプレ化して斬新と言える物ももう大体残ってないもんね。それなら要らないか、ガハハ!
おっと!また口調が戻ってしまいましたね。因みに何故口調を突然変え始めたかというと、この世界に来てから私色々と考えさせられることが多くありまして一つ思いついたんです。
この転生は私に与えられた罰なのではないか、と。
明らかに人では無い彼らに、明らかに人を辞めた所業を強いられる日々。クズとはいえ一般の倫理観を辛うじて獲得している私には悟りを開く切っ掛けくらいには衝撃的な体験でした。
だからせめて、この
消えたがりが今更反省とかふざけてると思うけど、原理も原因も分からない異世界転生が私に起きた。
なら出来ることをしよう。やりたいこと、やりたかったことをした所で
この小さな体は不自由なことが多く周りの方々に助けてもらわなくてはいけない。仕事が出来ない奴にこの場所は容赦はしない。
でもそこは前世と何ら変わらない、当たり前の事だ。仕事内容は過激極まる地獄絵図だがそれも前世なら探せば表に見せないだけで実際はあるのだろう。ならそこも同じ。
これは人生のやり直しではなく
この泥に塗れた手で出来る事を精一杯。
私は固く誓うよ。最初はこんな訳分からん体に転生させた奴見つけ次第生まれた事を後悔するまでぶっ飛ばそうと思ったけど、結果を見れば仕事は私が出来るものしか与えられなくなったから正解だったよ。
こんな泥だらけで、右手一本だけの姿でもありがたく感じるものなんだね。
うん、泥の手が自立して荷物を運ぶ姿。なんか悟った今考えると何だか笑えてくるよね。アハハハハハ…!!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ…!!
ってぇ!成る訳あるかぁ!この
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