第48話 初めてのサーキット、出現!
「 ……と、まぁそういうわけ」
「ナールホドォ、確かに、前がつかえてルと、リズムが狂ってベストの走りに乗せられないケド……ソレにシテモ、最終コーナーの立ち上がりからゴールラインまでに抜くなんてスゴイですよセナ!」
レース後、美郷学園のピットに戻って、今の最後の攻防の解説を星奈にしてもらったベガは、その理論とレースの奥の深さに関心しきりである。
ブッチぎりとデッドヒートの二極しか知らなかった彼女にとって、相手との距離をコントロールして抜きどころに合わせる星奈のクレバーなテクニックは、またひとつ知らないレースの仕テクニックを教えられた気分だ。
ちなみにリザルトは優勝が星奈、2位がベガ、3位ガンちゃんときて4位は最後に美香を躱したカタツムリの白瀬が入った。
以下美香、黒木部長、MSBの3台が上位の主な顔ぶれだった。ちなみにイルカと斎藤はスタート前のマラソンでへばってしまい下位スタート。その上、前を行く国分寺高校の一年たちが日頃のお返しとばかりに斎藤をとことんブロックして前に出させず、そのあおりを食ったイルカもまた下位に沈んでしまった。
最下位は実力では参加者中トップクラスのカタツムリ椿山とMSBの岩熊。中年ビール腹が災いして、最初のマラソンでせいで精も根も尽き果ててしまったらしい。
各人が疲れを取ったり、改めてカートのメンテをしている最中、社長の大谷がマイク片手にピットにやって来た。どうやら次のレースのルール発表があるようだ。
『えー、みなさんお疲れ様です。それでは今から、
その声に各人の反応は様々だ。今度こそと意気上がる若者もおれば、もうイロモノレースは沢山だ、というオジサンたちの反応もある。
が、続く発表で、両者の立場は真逆に変わる。
『次のレースは”逆回り”の15周で行います』
「「え、えええええーっ!?」」
この阿波カートランドは時計回りに回るコースなのだが、なんとそれを逆回りに走ってレースをしようと言うのだ。
「ちょ、ストレートエンドが高速コーナー……しかもストレート下り坂じゃ」
「やっべぇ、1コーナー地獄になりそう」
「それを抜けたらコーナー区間ずっと上りじゃん、どこで抜くんだよこんなの」
困惑する学生達をよそに、MSBやカタツムリのベテラン選手は即座にその傾向と対策を練っていく。
「中間速でのトルクを稼ぐ燃調が必要だな」
「レイアウトとしては、自動車用の阿山サーキットに似てるか」
「直線から1コーナーはまんま鈴鹿の逆のそれだな。となると……」
そう。経験豊富であちこちのカート場を回っているベテランにとっては、ここの逆走の各コーナーを、経験したどこかのコースに当て込むことが出来る。しかし地元しか走ったことの無い美郷学園の面々や、ここと香川県のコースしか知らない国分寺高校の連中にとっては、まさに未知のコースがいきなり目の前に現れたようなものだ。
「コレは、サイコーに楽しそうデスッ!」
……まぁ、約一名は通常営業のようだが。
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逆走コース解説
https://kakuyomu.jp/users/4432ed/news/16818093087631155482
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さすがにいきなり走るのは危険だという事で、本番前に一時間の練習走行が取られた。我らが美郷学園の一同も次々とコースにマシンを出し、戻ってきては気が付いた点などを皆で報告し合う。
「直線から最初のコーナーで稼いだスピードをどこまで殺さずに先に持っていくかがポイントみたいだな」
「コーナー区間はずっと登りですからね、どんどん車速が落ちてっちゃいます」
「デモ、ストレートはトッテモエキサイティングですヨ!」
「あんま回しすぎるとブローしちゃうわよ」
ミーティングと練習走行を交互に繰り返すカート部の面々。彼らにとってはまさに初めてのサーキットを走るのと同じ事だけに、一致協力して走り方を大急ぎで構築しなければならない。
「イルカ! 次はワタシとランデブーしまショウ!」
「いいな、抜き所を確かめるには競り合うのが一番だ」
「黒木部長、直線でのスリップの効きを確認したいんで」
「OK! 俺はブレーキポイントの最終確認に当たる!」
「お姉ちゃん、ずっと先行してくれない? 後ろから追っかけて、詰まるトコと離されるトコチェックするから」
「わかった!」
それぞれがペアを組み、あるいは単独で出て課題を研究していく。そうこうしていると1時間などあっという間に終了してしまった。
そして本番。スターティンググリッドは
日の丸が振られ、各人が押し掛けを始めてカートに飛び乗っていく。
「ワーオ! コレはイージーデス!」
ストレートが下り坂なため、いつもよりずっと楽に推し掛け始動が出来る。スムーズにフォーメーションラップに入った一同は、ほどなく二列のカタマリとなってコースをうねっていく。
「さすがにいきなりまとまったな、即スタートもありえるか?」
黒木コーチの予想通り、わずか1周のフォーメーションラップを終えたばかりの時点で、もうスタートラインでは
「行くわよ!」
「行キマス!!」
星奈とベガがアクセルを踏み込み、ストレートを駆け下って来る。それに吸い寄せられるように21台のカートマシンが、いつもより1段階高い音色のオーケストラを響かせて、次々とスタートラインを駆け下りていく。
――ギキュワアァァァァァァーーン――
「ここっ!」
星奈が高速の1コーナー侵入手前でブレーキをちょん踏みし、そのままの勢いでジェットコースターのように複合コーナーに入っていく。そのすぐアウトにはベガが、やや大回りのラインを取って並走状態を続ける。
この1コーナーを抜けたら登り区間になる為、ここでの車速の落としすぎは後々まで響くことになる。なのでなるべくお互い干渉しないようにと話していたのだ……が。
――キャヒヒヒイィィィーッ!――
「Oh! Noッ! シロセ選手!?」
4番手スタートだったチームカタツムリの白瀬が、ほぼ横っ飛びのようなドリフトで星奈とベガの間に割って入ったのだ。おそらくはコーナー侵入のブレーキングをキッカケにした慣性ドリフトの類だろう。
(岡山のコースに同じような場所があるんだよ、悪いけどお先に!)
心でそう呟きつつ、あっという間にベガを躱した白瀬はそのまま2コーナーの突っ込みで星奈に並びかけるとインを取って彼女をパス、あっけなく首位の座を奪取して見せた。
そしてそのバトルのお陰で、先頭集団が一気に密集して来た。トップ争いでラインをつぶし合った結果、登りに入る前のストレートで稼いだスピードが完全に殺されてしまったからだ。
2コーナーでも3コーナーでも、各人が密集したままガンガンとカートをぶつけ合って、まるで押しくらまんじゅうのようにコーナーを抜けていく。
「ちょ、ちょっと、これじゃラインが思うように取れない」
「Ohエキサイティング! 負けるなホタル号……アウチッ!」
「やば、押し出される、耐えろ、耐えろっ!」
星奈が、ベガが、そしてガンちゃんが密集体形の中、次々と押し出されて順位を落としていく。なにしろ彼らの後ろにいたのは走り屋出身のチームMSBの荒っぽい面々、ぶつけても板金代を気にしなくていいカートレースでは、彼らのラフファイトは存分に効果を発揮できる舞台なのだ。
「マダマダァー!」
ベガが3コーナーでインを取られて抜かれた相手に、次の直角コーナーでアウトからかぶせにかかる。が、インにいたMSBの選手はお構いなしにホタル号の横っ腹を突き飛ばし、あおりを食ったベガはそのままコース外まではじき出される。
(シ、シマッタッ)
密集のオープニングラップでコースアウトを余儀なくされたベガは、続くマシン群を見送るまでコース復帰が敵わない。結局最下位まで落ちた彼女が、押し掛けからカートに飛び乗って
「マダマダ、これからデスヨオォォォォッ!!」
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