「異常と極楽優劣④」
「え〜っと…どちら様ですか?」
「………」
私のこの質問に答えてくれる者は、どうやらこの場には一人も居ないみたいだ。 そりゃそうだ。自らどこ所属か言うなんてメリットが一つも無い…ならせめて、それは言えないとか、言ってほしいものだ。
「……ねぇ、どうせ君の仲間でしょ?会話くらいしてくれるように頼んでくれない?」
「………」
我関せずといった態度で、チョコを舐めている…う〜ん…どうするかなぁ。
「…じゃあ、この子を私と接触させた目的はなんですか?」
「………」
「はぁ…」
私は一つため息を吐き、おもむろに携帯を取り出す。
「……もしもし〜あ、そう。自分自」
銃声が一つ聞こえ、手に持った携帯が落ちる。
「あぁ良かった。ちゃんと生きてるようで」
「………!」
貫かれた手を見ながら、そう告げる。流石に動揺してくれたのか、撃ったヤツが拳銃をしまうのに、ほんの少しだけ戸惑っているようだ。
それにしても…未だに誰も動かない…もしかして……誰か待っている?
「落ち着きなさい。落雷の後、携帯電話が使えるわけ無いでしょう」
迷彩柄の集団の後ろから、白と黒の迷彩柄の服を纏った女性が出てきた。しかも、それに明らかな別格の雰囲気まで纏った…
「…ねぇ。目の前の明らかに別格の人って誰か教えてくれない?」
「………」
私が振り向きながら少女に聞くと、何やら真剣で少し怯えている様な表情をして、いちごチョコを持ちながら黙っていた。
「貴方がこの状況の元凶ですか?」
「さぁ?どうでしょう?」
この状況と、周りの迷彩柄の雰囲気を見るに、この人が黒幕の一人だろう。 とりあえず、目的くらいは聞くべきだろう。
「改めてお聞きしますが、貴方達がわざわざこんな事をした目的というのは何でしょう?」
「……謎というのは自分で解決するもの…そうだとは思えませんこと?」
「…随分といい性格をしていらっしゃるようで」
そもそも、こうやって考えさせること自体、この人達にメリット無いような気がするけど…まぁ…多分何らかの意味があるんでしょ。世の中に意味のないことなんて無いとか、よくプリズンが言ってるし…
「さて。一個ずつ整理していきますか。じゃあまず、最初に疑問に思ったのはこの子の会話のテンポだね」
「…ほう…?」
「この子は私の質問に答える時、または提案された時に少し間が開くんだ。短かったら、私情を挟まない機械的な応答。少し長かったら、その耳の包帯の中にある通信機で指示通りの応答をしてる…てところかな」
「なるほどなるほど」
反応が凄い雑だなこの人。
「次に疑問に感じたのは、この子の出身地区について。ここからアガトマ区までは結構遠い。それこそ、モノレールを何本か乗り継がないといけない。そうなると、距離的に与えられた孤児という設定を守れない。そのうえ、アガトマ区はジュラキウルス区と戦争を今でもしている自治区だ。普通に考えたら、スパイの疑惑を相手の国に押し付ける為に、アガトマ区って答えるし、実際にそう答えた。けど、異能力がわかった時、その考えが、違和感に変わりました」
「へぇ…」
「知ってるか知らないか分かりかねますが、異能力にも三つほど種類があります。その中で唯一、突然変異じゃない、異能力があります。それが…」
この考えには、若干の勘も入っているだろう。しかし、そう言える自信もある。大丈夫だ。
「“
「つまり?何が言いたいのですか?」
「簡単な話、この子がアガトマ区というのは本当だったってことですよ。そして、貴方達がジュラキウルス区ということもね」
「それがどうしたって言うんだい?」
「一つ確信できたのが、この子の能力の
「つまり、ジュラキウルス区の方が、アガトマ区の優秀なこの子を誘拐したって言いたいの?」
「いいえ、違いますよ。そもそもこの状況がおかしいんです。そんな優秀な異能力を持つ少女をなぜスパイとして利用したのか。どうして戦争中だというのに貴方達が遠路はるばるこの地区に来れてるのか?それは…ジュラキウルス区とアガトマ区が取り引きをしたから…で、どうでしょう?」
「取り引きってどんな?」
「例えば…戦争を仕掛ける前に…遊牧民族を減らすことを条件に、優秀な異能力を持っている者を寄越せだとか。元々、権力者からしたら、強いし数多いし野蛮だしで、手のつけられない遊牧民族を処理してくれるのは、あっちとしたら凄くありがたいでしょうし。要するに、ジュラキウルス区は、アガトマ区と戦争ごっこをしたかったんです。戦争ということにすれば、もしかすると戦争の醍醐味である、技術の発展にも大きな成果が出せるかもしれない。戦争に負けないために、科学者技術者エトセトラは、張り切るでしょうね。特に実験体はいくらでもあるわけですし?」
「………!!!」
「何か間違いがあれば、どうぞ」
「…イヒヒヒ……ハハハハハ!」
私の煽り混じりの質問に対し、彼女はニヤリとしながら高らかに笑う。それはそれは嬉しそうに、笑う。その突然の笑いに、私は何か嫌な予感を感じた…
「期待以上だね。そうそう。大体合ってるよ!どこが合ってるかとかは言えないけどねぇ!」
「…嫌な予感しか感じないですね〜…まるで化けの皮が剥がれ落ちたみたいに…」
「ハッハッハ!いやいや、そんな後ろ向きな話じゃあ無いから安心してくれたまえ。別に君に危害を加えたいわけじゃない」
「…もう一度聞きます。何が目的ですか?」
「ハッハッハ!なに単純明快だ。君に裏切って貰いたい」
「………」
「この自治区には、ウラッドコーポレーションの訓練校がある。そこではとにかくウラッドジーポレーション側の役に立てるように教育されると聞く。そのうえ孤児も引き取る。当然だ。戦も社会も基本は数だ。どれだけ優秀だろうが、味方が居なければジリ貧になって敗北してしまう。社会でも、どれだけ素晴らしい案を発表したとして、仲間が居なければ提案を受け入れてはくれない。これ程の事を理解出来ている者共からしたら、せっかくの孤児を勝手に受け入れる孤児院はさぞ邪魔だろう」
「そこで目を付けたのが、職員の練度って訳ですか?」
「その通り。じゃないと潰されて終わりだからな。その調査の為に、君に裏切って貰いたいわけだ。そして、調査の結果を考え、孤児院も支配し、この自治区をも乗っ取ってしまおうと考えている訳だ」
「…色々教えてくれてますが、…何故ですか?」
「おいおい、ウチは侵略国家だぞ。戦争で命を失う覚悟を持つのは大前提だ。死ぬためにも残された者のためにも仲間を大切に思うのは当然だろう。それで?君の返答を聞かせてはくれないかい?」
…正直、この人の考えはかなり立派だ。普通は人を道具のように使うだろう。こういう考えを出来る者は中々いない。私みたいなハグレモノでも、受け入れてくれるだろう。けれど…
「悪いですね。御生憎様、命がけのごっこ遊びに付き合えるほど、自分は若くないものでして…貴方達が三回転生したらまた来て下さい。その頃には、自分も若くなってるでしょうよ」
私の煽り全開の断りに、リーダー格がみるみるうちに凄い表情になる。
「そうか……それなら仕方がない。強引に引き入れるまでだ」
胸元のホルダーから拳銃を取り出し、私の方へ向ける。
「ちゃんと致命傷はさけて下さいよ?出来るかどうか知りませんけど」
「…問題無い。私は魔力を纏わせた物体を、自由に操作できる
トリガーに指が掛けられ、ミシミシと音がなっているかのように、あと少しで今にも発泡されてしまいそうだ。
「そうですか……そう言えば
私の言葉を遮るように、轟音が鳴り響く。その轟音は、聞き慣れているようで聞き慣れておらず、恐怖心を煽る。その轟音の正体は地が固まる前の時の暗闇の空を唯一、そして一瞬だけ照らす、恐怖と…私にとっては、自分の無力さを感じさせる…そして…
「……抜かれた死の概念…でしたね」
三十パーセントの奇跡を当たり前のように魅せてくれる存在だ。
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