「異常と極楽優劣②」

 「やあやあ。これから君の今後に響く相談をしていくよ」

 「…はぁ…」

 私がいつもの調子で入ると、一つのそれなりなため息が聞こえた。対面の席を見ると、ジト目で私を見ている、今日の相談相手であろう、幸薄そうで、包帯が耳や首など、とにかく色んな所に包帯が巻かれている、血色の悪い子が居た。

「えっと〜…名前はミカヅキで合ってるかな?」

「うん、合ってる」

 今日の相談相手は、ミカヅキ・セブンス。

 種族:人間

 保護された状況:この孤児院で、一人で来て、保護された。

 年齢:九才。

 身長;140センチメートル。

 身体的特徴:焦げ茶の少しうねったミディアムヘアー。身体にはところどころに包帯が巻かれていて、その原因を隠そうとしている様子。

 備考:色々と何か隠してる。そして、何かしらの異能を持っているようだ。絶対に吐き出させた方が良い。いくら何でも怪しすぎる。

 ……いつにもまして自我が出てるな…それはそうと、実際プリズンがそう言うなら間違い無いのだろう。実際、目の前の子は、今まで相談してきた子とは少し違う。少し冷静というか…落ち着き過ぎている気がする。…とりあえず色々聞いてみますか…

「えっと、君に関して色々聞いても良いかな?聞きたいことが有ってさ」

「………」

 無視…多分目的か何かが有るタイプですかね…だったら…

「勿論、自分の質問に答えてくれれば君の質問に答えるよ。等価交換ってヤツだね」

「…じゃあ良いよ…ある程度のことなら答えられるから…」

 ある程度…やっぱり、なにか目的が有って来てるな…そもそも、

「うん。ありがとう。じゃあ、先どうぞ」

「…良いんだ…」

「うん。相手と仲良くなりたいなら、まず歩み寄らないといけないからね。でないとこんな事やってられないよ」

「…そうだね。……まず一つ目、この孤児院を経営しているのは誰?」

 ……なんともまぁ…スパイ感が丸出しな質問だ。でも、聞かれて困る質問でも無いし、大丈夫かな。

「経営をしているのは、自分含めて五人。俗に言う院長、副院長、部活動総顧問、カウンセラー、司書さん、養護教諭の六人だよ」

「……名前は…?」

「知ったところで意味は無いよ。居たとして一人居るか居ないかって感じだし」

 そもそも、基本的に役職名で呼びあってるから、あんまり仲良くない院長副院長の名前わからないし。

「……じゃあ、意味のある人だけ言って」

 それで良いんだ……まぁ大丈夫か…少なくとも、目の前の子には何も起きてないわけだし。

「良いよ。意味があるのは部活動総顧問のプリズンかな。アイツは悪魔だから名前に重要な意味がある。それがリスペクトなのか、ディスペクトなのかはわからないけど。それが能力にも関係するらしいよ」

「そう。次はそっちの番」

「うん、ありがとう。この報告書には君に異能力があるらしいと書かれている。有るのだったら、教えて欲しい。それも、正直に」

 相談相手の子がの動きが一瞬止まり、直ぐに応答が返ってくる。

「……わかった。私の異能力は、魔伝籠コトリバコ。以上」

「…なるほど?必要以上に語らない。詳細を知りたければ、私の質問に答えろ。というわけだね」

 とは言っても、正直聞いただけでもある程度分かるような気がする。この子は口数が多いタイプでは無いだろうし、少し考えますか…

「……二つ、この孤児院で一番重要なのは誰?」

 重要…なんともまぁ…似合わないというか何と言うか…この子の雰囲気なら、中枢を担うのは誰?くらい良いそうなものだけど…多分あらかじめ聞く質問を、教えられてるんだろう。子供に何させてんだ。

「重要…経営という点なら院長、暴力という点なら総顧問って感じかな?」

「……」

 無言のままコクっと頷いたのを確認し、私が口を開く。

「じゃあコッチの番だね。君の出身を聞きたい。教えてくれるかな?」

「…は…?」

「ただの嫌がらせだよ。準備していた回答を台無しにさせるっていうね。とりあえず答えてくれるかな?」

 本当は、異能力の名前から考えればなんとなく分かるからだけどね。後は、こんな事をさせられてるこの子の状況と出身地を照らし合わせれば、それだけで特定出来るだろうし。

「……アガトマ区からました」

 アガトマ区…この間ジュラキウルス区と戦争してる自治区か…多分嘘をついてるなこの子。ジュラキウルス区は武力侵攻で多くの自治区を支配している自治区。そして、使えるもんは全部使おうの精神で、銃などの火薬兵器を用いる反面、魔法を使わない事が多い。その圧倒的火薬兵器の技術と使い手の技術と連携を見せつけ、戦意喪失させるのが基本の戦術。

 それに対して、アガトマ区は狩猟が有名な遊牧民族が多く存在する自治区。武力とは無縁なようで、弓や投石などの、少し古い狩猟の技術がヤバすぎるうえに、そこに魔法によるコーティングとあまりに野蛮さが加わり、自治区の区知事が殆ど統治出来てない事で有名だ。そこに侵略戦争仕掛けにいっても、理不尽が無い限り、割とすぐ投了して終わりだ。そもそも、遊牧民族が多い自治区だから孤児になることもないだろうし…そもそもこの自治区から遠い。それこそ、この子一人で来たという設定でだ…少し失敗したな?

「……次は君の番だよ」

「…はぁ……これが最後の質問。貴方の異能力と、その詳細を教えて」

「……さっきと違い、自分一人なんだ?」

「…うん。どうせ知らないとか言うでしょ」

 間違いなく言うね。だってロクに知らないからね、実際。

「まぁそうだろうね。で、自分の異能力の説明かぁ…実際に見せた方が早いんだけど…今から散歩、行ける?」

「……うん、良いよ。行こう」

 乗ってきたか……となると、始めから孤児院ここに潜入するというより、私に接触して、内情を聞き出すっていうのが目的か?そもそも、どうしてこんな露骨なスパイ活動させてるかも微妙だし…警戒しておいた方が良いかな…

 用意されている傘を二本拝借し、私達はわざわざ雨降る街に出た。

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