第二章:異常と極楽優劣

「異常と極楽優劣①」

「え〜、魔法っていうのは、文字通り悪魔の法律。略して魔法なんだ。なぜかと言うと、悪魔っていうのは自分達が生きている世界とは違った、魔界という所に居るんだ。で、その世界は完全実力主義だから、実力によって出来ることがまるっきり変わる魔法は名前的にも意味的にもピッタリって訳だね。因みに復習だけど、悪魔族と悪魔は全くの別モノだよ。悪魔っていうのは、人の思いやらなんやらで発生した、概念の擬人化。だからツノ・尻尾・羽は無いし、人間と殆ど同じ見た目だよ。ついでに、概念だから性別も無いし死の概念もない。それに対して、悪魔族って言うのは、魔法の精度が魔力に匹敵するってだけで全くの別モノだよ。そんなところかな〜…」

 授業の終了まで後五分。今日の分の範囲は教えたし、後は自習で良いかな。

「今日教える範囲も終わったから、後は自習で良いよ。自分は来客の予定と面談があるから、それじゃあね」

 そう言い教室を後にした。廊下を歩いていると、突然肩に温かさを感じた。肩を見ると、かなり濡れていて、その理由は廊下の窓が空いているからだった。

「はぁ…今日は特に暑くなりそうだ…」

 そんな独り言を呟き、憂鬱な気分で接客室に向かった。


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「やあ偽名のハイドくん。調子はどうだい?」

 接客室に向かっている途中、後ろからあまり関わりたくないヤツに話しかけられる。振り向くと、紫色のセミロングのに、ダボッとした長袖のTシャツに半袖のサマージャケット、そして腰に刺さっている大きめの傘…

「ああ…プリズンですか。…例の件はどうでした?」

 私をハイドと呼んだ悪魔に、クルスの両親の件について聞く。コイツのことだから、多分大丈夫だと思うけど…

「やっぱりダメだった。遺品は渡したけど、かなり落ち込んでる様子だったから、ちょっと気にかけた方が良いかも。あと、村の奴らは加工肉の試食の件は受け入れてくれたぜ。これで村人が追ってくる事も無いとは思うが…良いのか?」

「良いのかって?」

「…単純な話、今回保護した子は両親も奪われたわけだろ?それで痛い目にも遭わずに、毎週、加工肉の食品を受け取れる……死んだ両親が報われないだろ」

「悪魔にも情って有るんですね」

「色々の足りないお前じゃ理解できてなかったかな?それに、情云々どころじゃないだろ」

「まぁ大丈夫ですよ。そもそも両親は、クルスが真っ当に育てばそれが一番ですし。それに…村の方の罪への罰は、来週には受け始めるので、大丈夫ですよ。そこまで短絡的じゃありません」

「まぁ有象には関係ないから別に良いんだけど…それと、最近ウラッドのとこの訓練校の奴らがうろついてる。ま〜たイチャモン付けられるかもしれないから、気を付けとけ」

「そうですね。今回もありがとうございました。また後で」

「またなヘイトスピーカー。気をつけろよ。どいつもこいつも怪しすぎるからな」

「……ご忠告どうも」

 そう言いプリズンは去って行った。相変わらず、馬が合わない気がする…まぁ悪い方では無いし、これからもそれなりで関わっていこう。

 そう思い、私は接客室に入り、客人を待つ。この孤児院は、接客室に直接繋がる専用の玄関がある。だから後は待つだけだ。変わった構造だけどまぁ…しょうがない…この孤児院も、割とやることやってるしね。


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 そうして待つこと数分、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。どうやら客人が来たみたいだ。

「はい、どうぞ」

「失礼します。あ、お久しぶりです!ハイドさん!」

「失礼します」

「うん、久し振り。とりあえず、座って。お茶は冷たいので勘弁してね」

 部屋に入ってきたのは、ツーサイドアップハーフツイン(通称クワトロテール)の黒髪に、ネクタイを付けた黒のワイシャツに、胸の少し下辺りにベルトを付け、いかにも若い子が着てそうな水色のパーカーを着た出身者と、対照的にいかにも秘書らしい格好をしたポニテの出身者に似た女性。

「改めて、久し振りだね、カイキ。元気にしてた?」

「はい!おかげさまで!最近は会社の経営もうまく行ってて今調子に乗ってるんですよ!」

「それはなによりだよ。確か、食肉加工の会社だったよね」

「はい。それと、昨日毎週のサンプルの受け取りをセイキロス区から請求されたんですが、ハイドさんで間違い無いですよね?」

「うん。間違いないよ。ちょっと世話になった村でね。多めに送ってくれると嬉しいよ」

「あはは、良いですよ。たっぷり送っといてあげますよ」

「うん。恩に着るよ。あと、君の隣にいるいかにもな子についてちょっと聞きたいかな?」

「あぁ、すみません!この子は私の秘書をやってくれてる、アヤネだよ」

「えっと、はい。アヤネです。よろしくお願いします」

「うん、こちらこそよろしく」

「それで、最近の事業に関してなんですけど━━」


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「それで、こんな事もありまして、物価の高騰でパンとかライスの値段が上がると少し辛いんですよね〜」

「ああ、カイキの会社はレストランもしてるもんね」

「そうなんですよ〜お陰様で結構繁盛してましてね。特にハンバーグの定食が人気なんですよ〜。よろしければ今度━━」

「お話の際中失礼します。社長、あと一時間半でウラッドコーポレーションの社長との会合がありますのでそろそろ……」

「あ、もうそんな時間?ありがとう。じゃあ、もう良い時間なので、このへんでお暇します」

 カイキは、そう言い、扉に手をかけた、出ようとした。しかし、何かを思い出したのか、手をかけたまま一瞬固まった。

「そう言えば、ハイドさんの“最低の主人公補正”って、まだ健在なんですか?」

「……ああ、健在だよ。というか、この手の包帯を見ればわかるでしょ」

「あはは。大変そうで何よりです。お互い頑張りましょうね。それじゃあ、お邪魔しました」

 そう良い、カイキとその秘書さんは、退出した。退出した後、私は一人、小さなため息を吐く。

 相変わらず、少しヒヤッとする子だ。それに、秘書官の子…なんだか、カイキに似ていたような…気のせいだと良いけど…

 私は一人になった客室で、あの子への印象をだらだらと心の中で呟いた。そう言えば、もうそろそろ私も面談の時間だ。今あった憂鬱な出来事は忘れて、気持ちを切り替えて、ちゃんと面談に臨もう。

 もう一つ私はため息を吐き、相談部屋へ向かった。

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