「逃亡のフォルト⑥」

 ……昔から大人の私を見る目は変だった。昔って言っても、いつからそういう目で見られ始めたとか…そういうのはわからない。どうして、大人がそんな目で見てきたかのちゃんとした理由なんて分からなかった。ただ、一つだけ言えることがあった。皆の見る目が変なのはきっと……私の体質と見た目のせいだということ……

 仮面の人の話で思い出した……昔、母さんからこんな事を聞いたことがある。悪魔族の身体的特徴にはそれぞれ意味があるということ。肌の白さは悪魔族のその純血を表し、ツノの大きさは権威の表し、羽の大きさは寛大さの表し、尻尾の長さはあえて弱点を晒す事によって、自身の自身と余裕を表す。昔の悪魔族の立場からきてるんだろう。当時はそんな事を私に話して、何の意味があるんだろうと思った。けれど、今なら分かる気がする。私の特徴を考えると、私はカモとしてこれ以上ない程適している。 

 カウンセラーの人を待ってる時、メガネをかけた人が、暇だろうからと、歴史について色々と書かれた本を渡してくれた。子供向けなのか、難しい言葉はあんまり無く、私にも理解出来た。だから、途中までは結構楽しく読むことが出来た……そう、途中までは……私はあるページの、ある事件についての説明が目を引いた。

「フォルト事件…?」

 フォルト事件の概要はこうだ。悪魔族などの身体的に特徴のある種族で、どこかしら身体が欠けている者には、本来栄養のいくべき所に栄養がいかず、そのおかげで肉体は栄養が欠けていない者に比べ、栄養が豊富でその肉や血を食えば、老化が遅れ、若さを維持できる…という、なんともまぁ呆れるような迷信だ。まともな所なら、こんなの信じるヤツは居ない。しかし、迷信って言うのは、いつの時代も一定数信じている奴が居るらしく、本に載っていた一人の値段は…確か成人で三億ゴールドと、高価なものの、わざわざ金のために殺しをするなんて…と確かそう思っていた。だけど…それを行わなければならないほどの状況だったら…?

 私の居た村はとても貧しい村だった。そのうえ居るのは老人ばかりで、考え方も古臭く、閉鎖的な所だった。当然老人ばかりなんだから、畑仕事もロクに出来ない。しかも、田舎の老人っていうのは、生きる事について真剣になってない。なってたなら、自分のクソみたいな考え方に気づくはずだし、父さんが考えた新しい収入源の話を、怖いだの知らないだの、下らない理由で断ったりしない。そして……わざわざ人身売買をしようともしない。

 今思えば…私が都会に興味を持ったのも…父さんと母さんが私を村から逃がす為だったのかもしれない…もし直接的に言えば…私の両親が殺されていたのかもしれない。ボロい家じゃ盗み聞きなんてされ放題だっただろうしね。多分、色々大変だったんだろう…私になぜそんな事を話すのかとか…色々誤魔化し続けたんだろ…

 ……元気にしてるかな……家を出てもう三日経ってる…そろそろ追手が来てもおかしくは無いかもしれない。それこそ、腐りかけても悪魔族だ。私に追跡にの魔法をかけていてもおかしくないし、魔力の痕跡云々で見つけにくるかもしれない…どっちにしろ油断が出来ない状況には違いない…結局、大人に勝てるって言っても、そのへんのチンピラだ。魔法の才能さえあれば、小学生でも勝てる子は勝てる。問題は、悪魔族の魔法が、明らかに他の種族と比べて、威力の面で勝っているというところだし…


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「…問題だらけだね……」

 私の話を聞き終わった仮面の人は、そう言いハンカチを差し出してきた。

「まだ大丈夫です…」

「まぁ、一応持っておきなよ。それに、大丈夫とは言えない状況だけど…君の親御さんの望みは叶えてあげないとだしね。あと、そろそろフラペチーノ溶けちゃうから、飲んじゃいな」

「あっ。……はい」

 締まらない…けど、それがこの人なりの和ませ方なのだろうこれから、苦しいくて辛いこともあるだろうけど……ここから、父さんと母さんが救ってくれたこの命を…大切にして…そして…また会った時に笑顔で再会出来るように…

「茨の道は所詮道。辛くてもちゃんと歩き続ければ大丈夫。最悪外れたとしても、それにはそれの道があるからね」

「はい。頑張ります!」

 そう決心をした時だった。なにやら聞き覚えのある、そして、今一番聞きたくない声が私の耳に入り込む。

「見つけたぞ!」

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