「逃亡のフォルト⑤」

「あ、あの」

「ん?どうしたの?」

「えっと、ある程度考えがまとまったので…話そうかと…」

「おっ、早いね。まだ十分も経ってないのに。それで、どうやってウラッドコーポレーションがこの自治区を支配することが出来たのか?君の考えはどうなった?」

 ふぅ…と一呼吸置き、一つ一つをもう一度脳内で整理しながら話し始める。

「まず、カウンセラーさんが言っていた、政治家についてです。多分ですけど、始めは政治家の方から接触してきたと思うんですよ。いわゆる企業献金ってヤツです」

「良く言えばそうなるね。実際は政治家が企業の社長とかに金を渡して、その会社が社員に献金してきた政治家に投票させるっていう賄賂じみてるヤツだけど」

「はい。でも、実際はそのお金を受け取らず、コネ作りと貸し作りを優先したんでしょう。そもそもが大企業ですし、政治家の賄賂なんて、大国でも無い限り企業にとっては端金も良い所でしょうし」

「なるほど。でも、一人だけ味方になってもそこまで旨味は無いんじゃない?自治区の役員の平均は百人だし」

「はい。多分ですけど、実際は複数の議員がウラッドコーポレーションと手を組んだのだと思います」

「……でも、どうしてわざわざ政治家を味方につける必要があったのかな?」

「それは……悪事をもみ消す為だと思います。多分、政治家に賄賂を提案された時点で、ある一つの計画が動き始めたから……」

「というと?」

「……知事はもちろんの事、全ての議員をウラッドコーポレーションの社員にする計画ですよ」

「……中々思い切った方に行ったね。でも、それを実現させるには、自治区民の支持を集めないといけないよ?」

「はい。その点については簡単では無いでしょう。ですが、ウラッドコーポレーションは沢山の子会社を抱えてる上に、文字通り何でもやってる会社…なんですよね?」

「うん。それは嘘偽りのない事実だよ」

「じゃあ、簡単な話です。自治区の人達の働き先を全てウラッドコーポレーション、もしくはその子会社にしてしまえば良いんです。ウラッドコーポレーションは衣食住を賄えるくらいの大企業であり、子会社も沢山ある。元々存在していた中小企業くらいなら取り込むことくらいわけないですよ。後は、取り込んだ会社に、自分達の政治家に投票を強制させるだけですよ」

 私が説明を終えると、仮面の人が頷きながらも、一つの質問をしてきた。

「……なるほど…凄いね…君ぐらいの年でそこまで考えられるとはビックリだよ。でも、一つ気になることがあるよ」

「……それはなんですか…?」

「この状況を当時の国の国会議員たちが許すのかどうかだよ。明らかに一つの自治区が一つの大企業によって支配されてしまったんだ。流石に国としてもどうにかしないとまずいんじゃない?」

「えっと……それは……」

 考えて無かった……そうだ…冷静に考えれば、大企業といえども、一つの自治区を支配出来るわけがない……どうすれば……

「流石に意地悪だったかな?そもそも、どうして自治区という概念が有って、尚且つその区の自治体が、さっきみたいに必要な暴力を容認出来ているのか…そこから説明しないと、この質問には答えられないしね。じゃあ、ツインドミナって知ってる?」

「えっ…はい。一応授業でもやりましたし…確か魔力が多い種族が、少ない種族の国を支配していたってやつですよね?」

「そうそう。二百年以上昔のことだけど、その時の問題っていうのは、今でも解決されて無いものも多い…」

「…確かにそれで、特定の種族への偏見や特定の国に対する悪評とかは残ることもあるかもですが…」

「……問題はそこじゃないんだよ。ツインドミナで一番問題視されている事は何だったかわかる?」

「えっと…睡眠時間と中心とした、種族による性質の違いだった気がします」

「そうだね。その性質の違いの中に、寿命が有ったよね。ところで、悪魔族の寿命ってどんなもんだっけ?」

「えっ…?確か平均百五十歳前後だった気がします」

「そうだね。これは人間と比べて大体七十歳位違うんだ。その分長生き出来る。因みに、一番寿命が長い種族の寿命ってどんなもんだったっけ?」

「あっ……確かエルフで、寿命は平均…千歳…」

「そう。もうわかったと思うけど、過去の問題のせいで偏見や国の悪評で済んでるのはむしろマシな方なんだよ。なんてったって、責任を取るべき相手が死んでる。だから悪評や偏見で済ませるしかなくなるんだ。でも、その責任者が生きてるんだったら話は別だ。被害者からしたら復讐すべき相手が生きてるんだ。本来使える、先人の過ちで、今の奴らは関係ないというのが使えない、となると、被害者からすれば、心置きなく復讐が出来るし、暴動にも抵抗なんてあったもんじゃないしね」

「………」

「それに、ツインドミナの状況が終わったのは、あくまでも人間の銃なんかの火薬兵器のおかげだし、そもそもツインドミナの状況が終わったからといって、新しい国が作れたのは人間だけだったし、全員が国を作れるわけが無いし、取り残された人も居ただろうね。まぁ不遇な種族は問答無用だし、そのせいで今の今まで反乱が各地で起き続けている。これが自治区が出来た原因でもある」

「……」

「冷静に考えて、反乱が各地で起こってるのは国としてはどうしようもない。というわけで、当時の責任者に責任を取ってもらうべく新しく作ったのが、自治区ってわけだ。当時の責任者を各自治区の代表にすることで、反乱者たちを分散させ、地道に物理的に鎮圧させようとしたんだ。まあ全部火薬兵器のせいで台無しだったけどね。そんなわけで、今でも多くの自治区で反乱は行われてるし、なんなら火薬兵器も進化してるし、何なら責任者が国王だったりするし、もう大人しく逝けばいいのにってのが今の状況だよ」

「えっと…じゃあこの自治区が企業に支配されてるのって…国が一つ一つの自治区にかまってられる暇は無いからってことですか…?」

「その通りだよ。おかげで色々と問題も起きてるけど…まあ、これは言ってもしょうがないってヤツだね」

「……なるほど……でも、責任者が居ない地区とかもありますよね?その場合はどうなるんですか?」

「その場合は普通に選挙で知事を決めてたよ。大勢の民を支配しようとすると痛い目に遭うって事を学んだんだろうね。おかげで、自治区っていうよりかは、小規模な国みたいなものになってるよ」

「……そうなんですね……」

「なにやら、がっかりしたような顔だね?」

「……!いえ……別に……」

「都会も田舎も大して変わらない。結局何かに縛られてるし。違うところと言ったら、共通の敵を晒し上げて団結することくらいか」

「えっ!?」

 一瞬何を言ってるか分からなかった……けど…理解できた時は少しだけ共感をしてしまった…

「当たり…かな?」

 そう言い仮面の人は、私の顔を覗き込む。顔は仮面で見えない…けれど、見えなくてもわかる気がする…表情も…いま考えてることも…そして、多分この人は……

「君に色んなこと教えたんだしさ…君のことも少し教えてくれない?」

 少し悪い大人だ。

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